3坪の醸造所が人をつなぎ地域をつなぐ、武蔵境26Kブルワリー

東京・武蔵境にある26K(ニーロクケー)ブルワリーは、地元に根差し、ビールをきっかけにしてコミュニケーションを生み出す醸造所です。地場の素材を使ったビールを作ったり、地域の住民が楽しめるプロジェクトやフェスを企画、他社とのコラボにも積極的。クラフトビールの持つ付加価値や魅力を存分に引き出し地域振興に結び付けている、26Kブルワリーの取り組みとは?

高架下にある3坪のマイクロブルワリー

JR 中央線武蔵境駅から高架下に沿って徒歩5分。26Kブルワリーは、デリやタルトなどのショップとコーヒー豆焙煎工房が入居した複合型飲食店「ond」(オンド)の一画にあります。東京駅から約26kⅿ離れたロケーションが、「26K」の名前の由来です。

中央線高架下の「ond」。26Kブルワリーはこの店の一画にある

醸造所のスペースは3坪とかなりコンパクトですが、この小さなブルワリーが地元のにぎわいを創出し、中央線沿線のクラフトビール文化を盛り上げているんです。立役者である26Kブルワリーのオーナー・見木久夫さんにお話を聞きました。

「ond」では、フレッシュなビールと他ショップのフードを一緒に楽しめる。ブルワリーのロゴにあしらわれているのはバクのイラスト

「地元の名物を作りたい!」

見木さんは、広告業界からビール醸造所経営の世界に乗り出した経歴の持ち主です。写真家として活躍した後に広告代理店に勤務、2010年に独立して、広告制作会社スイベルアンドノットを立ち上げました。

26Kブルワリーオーナーの見木久夫さん

オフィスを構えた武蔵境で地域に密着した事業を多く担当するうちに、見木さんは「このあたりは、意外に名産品がないなと気づいたんです」と言います。
「何か地元産のものを作りたいと考えていた頃に、たまたまイギリスから帰国したビール好きの友人と飲み歩いていてマイクロブルワリーを見る機会があって。クラフトビールってこんな狭い場所でも作れるんだ、面白いなと思いました」(見木さん)

それから醸造の勉強を始め、近隣にブルワリーを構える醸造家の力も借りながら、2年ほどの準備期間を経て2018年に26Kブルワリーがオープンしました。

定番に加え、個性的なビールもラインナップ

開業してすぐにラインナップしたビールは「はつはなL.P.A」。春をイメージさせるライトな色合いのビールです。地元の素材、武蔵境産のトウガラシを使ったレッドエール「Mr.SAKAI」も、定番の1杯として醸造を続けています。八角やシナモンなどのスパイスがきいた「仏陀I.P.A」、紅茶の茶葉で風味付けした「紅茶エール」など個性ある限定醸造ビールも好評。1回の醸造で仕込むビールの量を少なくし、フレッシュなうちに売り切るようにしています。

「ond」のバーカウンター

他社とのコラボにも積極的で、2020年2月には三軒茶屋のコワーキングスペース「三茶WORK」の企画として「三茶BEER 昼・夜」を、11月には、株式会社マイファーム・畑咲くビールプロジェクトに参画し、パプリカを使ったビール「パプリカンラプソディ」を醸造しました。

沿線のブルワリーが集まるイベント、中央線ビールフェスティバル

醸造やレシピの開発にエネルギーを注ぎつつ、見木さんは「人が出会う場を作りたい」というビジョンも形にしています。
「これまで広告制作会社でイベント事業を手掛けてきましたので、ビールとイベントの掛け算ができないかなと考えました」(見木さん)

中央線ビールフェスティバルのポスター
写真提供:中央線ビールフェスティバル実行委員会

中央線沿線はマイクロブルワリーの宝庫。10を超えるブルワリーがあります。
「中央線沿線のブルワリーの経営者は年齢が近く、考え方も近い人が多いんです。ビールをきっかけにしていろんな人と出会いたいとか、ワイワイやりたいという想いが強い。なので、みんなで一緒にイベントをやったら面白いんじゃないかと」(見木さん)

見木さんは、武蔵境駅前に中央線沿線のブルワリーが一堂に会するイベント「中央線ビールフェスティバル」を企画し、2018年秋の開催時は2万人以上が来場しました。2019年は参加ブルワリー数も増えてさらに規模が拡大。2020年は感染症の広がりを受けオンラインでの開催となりました。「この先もwithコロナ、afterコロナ期に入って、これまでと同じ規模での開催は難しいかもしれないですが、複数会場を設けるなど新しい方法でイベントを続けていきたいと考えています」(見木さん)

都市農家と協力して吉祥寺でホップを栽培

さらに見木さんは2020年春、「東京でホップを育てようプロジェクト」をスタートさせました。原料を育てるところからビール作りに取り組むプロジェクトで、都市の農家さんと地元の参加者が協力してホップを栽培し、ビールの醸造をするという長期型・体験型のイベントです。2020年は吉祥寺の畑でホップを育て「吉祥エール」を限定醸造し、ビールは2週間ほどでソールドアウトとなりました。

「東京でホップを育てようプロジェクト」で醸造した「吉祥エール」

クラフトビールが、身近な資源の循環を生み出す

人的な交流にとどまらず、26Kブルワリーは資源の循環にも挑戦しています。

タルトやデリのショップが入居する「ond」の店内

「ond」のはす向かいには、私立の獣医学校として長い歴史を持つ日本獣医生命科学大学があります。26Kブルワリーは、ビールの醸造で生じる麦芽の絞りかすを同大学の牧場にいる牛の飼料として試験提供。ゆくゆくは麦芽を食べた乳牛のミルクを「ond」でお客様に振る舞うことを目指しています。今後、肉牛から製造したハムやベーコンなどもオンメニューされる予定です。
また、絞りかすを肥料として活用し、トマトを育ててトマトビールを醸造したり、「東京でホップを育てようプロジェクト」で、ホップ栽培の肥料に活用するプランもあるとか。

クラフトビールが持つポテンシャル、付加価値は無限

26Kブルワリーの取り組みを見ると、クラフトビールには人を結びつけ、地域を活性化させる魅力やパワーがあることを再認識します。小さな醸造所がビールによって生み出す付加価値は無限。今後も、見木さんが仕掛けるイベントやプロジェクトから目が離せません。

【公式ページ】26Kブルワリー
【公式ページ】ond

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