日本各地にクラフトビール醸造所が誕生している昨今。東京~神奈川の多摩川流域には地域に根差した個性的なマイクロブルワリーがひしめいています。
今回は、多摩川周辺エリアの醸造所をつなぐプロジェクト「TABA」が企画したブルワリーバスツアーに密着! 東京都昭島市・八王子市・立川市にある3つの醸造所を巡ってブルワーの生解説を聞き、ビールをとことん飲んできました。丸一日クラフトビール三昧で楽しく過ごしたツアーの模様をレポートします!
「TABA」って何?多摩川周辺の醸造所が集結!
「TABA」(TAMAGAWA ALL BREWERIES ALLIANCE)は、多摩川周辺のユニークなクラフトビールブルワリーが集結し、新しいファンを作るためのプロジェクト。クラフトビールに親しんでこなかった方々に向けて、さまざまな「動き」を作っていく地域活性化の試みです。
これまで、「TABA」はポップアップストアやチェアリングイベントの開催、ブルワリーマップの作成などの活動を展開してきました。「クラフトビールツーリズム」の普及にも取り組み、今年度はビールの魅力を存分に体験できる観光プログラムとして「TABAブルワリーバスツアー」を企画。2023年2月4日には、「味わい、学ぶ。醸造所見学ツアー」と題し、電車や徒歩で一度に巡ることが難しいブルワリーをバスで巡る日帰りのツアーが実施されました。
「TABAブルワリーバスツアー」密着レポート!
「味わい、学ぶ。醸造所見学ツアー」は、イサナブルーイング(昭島市)、Shared Brewery(八王子市)、坂道ブルイング(立川市)の3つの醸造所を巡るプログラムです。ざっくりしたスケジュールは次の通り。
TABAブルワリーバスツアー
味わい、学ぶ。醸造所見学ツアー
スケジュール【9:00】新宿駅西口に集合
【10:20ごろ】イサナブルーイング到着
ウェルカムビールとスペシャルランチで乾杯!【12:40ごろ】Shared Brewery到着
ビールの飲み比べ体験!【14:30ごろ】坂道ブルイング到着
イチ押しビールを片手に、ビール仲間と懇親会!【17:00】新宿駅に到着、解散
各ブルワリーとも醸造家が醸造所の内部を案内してくれて、もちろんビールも味わえる、贅沢で盛りだくさんな内容。あらかじめ料金に含まれるビールを飲んだ後、キャッシュオンで追加注文もOK。参加者がそれぞれの好みやペースでビールを楽しめるツアーです。
今回はこのツアーに同行し、密着取材を決行!
どんな旅だったのか? 早速、当日の模様をレポートしましょう。
新宿西口に集合!多摩エリアのビール旅がスタート
2月4日朝9時。集合場所となっている新宿駅西口のバス停に行くと、“ビールおねえさん”こと古賀麻里沙さんが迎えてくれました!
古賀さんはインスタグラムやYouTubeでの発信のほか、旅行ガイドメディア「旅色」で日本全国の「ビール旅」を体験レポートしていることでもおなじみ。日本ビール検定1級を所持する筋金入りのビアギークです。この日のツアーをアテンドしてくれるということでとても楽しみ。
バスに乗車すると、車内は広々。ビールを飲むバスツアーということで走行中にトイレに行きたくなったらどうしよう、とちょっと気がかりでしたが、トイレ完備ということで安心できました。
集まったメンバーは6:4くらいで若干女性が多かったものの、年齢層はばらばら。1人で参加されている方も複数いました。ビール検定を所持している勉強熱心な方もいれば、とにかくおいしいビールを飲みたいという方も。いろんなバックグラウンドをもつ参加者がバスに乗り込んで、ツアーがスタート!
1軒目のブルワリーに向かう道中には、バス車内で古賀さんが「プチビール講座」を開講。手作りの“旅のしおり”には大きく2種類に分かれる発酵の方法や代表的なビアスタイルが図解され、ビールの基礎知識をわかりやすく解説してくれました。これから訪問するイサナブルーイングのストーリーも共有して、ビール欲もお腹のすき具合もMAXに……
【イサナブルーイング】到着!ランチとビールを満喫
新宿から1時間ほどのバスの旅で、1軒目のブルワリー、昭島市・イサナブルーイングに到着!
イサナブルーイングは2018年にビールの醸造を開始。代表で醸造責任者の千田恭弘さんは元メカニカルエンジニアで「昭島の深層地下水・素材・人の出会いによる化学反応を日々研究」し、「Factory & Laboratory(ものづくりと実験の場)」をブルワリーのコンセプトの1つとしています。造り出されるビールも実験的で個性的。行くたびに驚きのある味わいに出会えます。
タップルームで一息ついた後、千田さんが直々に醸造所内を案内してくれました。ガラス越しに見える醸造設備はスロベニア製で、国内では導入しているブルワリーが少ないコンパクトで高性能な機器。元お好み焼き屋さんの店舗を改装した別棟も見学し、ビールを缶に充填する工程を実践していただきました。
ビール醸造の流れを教わった後はタップルームに戻って、お待ちかねのビール&ランチタイム。参加者の皆さんはそれぞれにお好みのビールをオーダーし、千田さんと乾杯!
当日オーダーしたのはイサナブルーイングのフラッグシップ「とりあえずビター」。アルコール度数は4%と低めで微炭酸。モルトの味わいを存分に堪能できる1杯です。ほかに、インペリアルスタウトに自家製サーターアンタギーを投入した「サーターアンタギースタウト」や、リンゴと紅茶をワイン酵母で発酵させたサワーエール「Mix Together」などをオーダーするメンバーも。
ランチメニューはやわらかいチキンがごろごろ入ったチキンカレーで、お腹もしっかり満たされました。カレーにトッピングされたゆで玉子のアチャールとブロッコリーとジャガイモのサブジはビールのアテに◎
ビールを飲みながら・カレーを食べながらも、参加者から千田さんに質問の嵐が。個性的なビール名が並ぶタップリストを見たツアーメンバーからの「ビールの名前ってどうやってつけるんですか?」の問いには「いろんなブルワーがいると思いますが、私は名前が先に出てくるんです」と千田さん。言葉の連想ゲームのような流れからストーリーが生まれ、そこからビールの液色やスタイル、味わいが決まってくるのだとか。
参加者が2杯目以降に選んだビールで目立ったのが、イサナブルーイングならではの“THE NITRO BEER”(ザ ナイトロ ビール)。ナイトロとは窒素のことで、ナイトロビールはスタイル名ではなく、炭酸ガスが溶け込んでいないビールに高圧純窒素を詰める提供方法です。運ばれてきた直後はグラスの底まで泡泡状態で、そこからじんわりと液化。きめ細かい泡のやわらかさは未体験の口当たり! 超クリーミーな泡が楽しめます。
1杯でとどめた方も、2杯、3杯と飲んだ方も、皆さん思い思いにビールとランチを堪能して、バスは次の目的地へと向かいました!
バス内でクイズ大会開催!
八王子市に向かうバスの車内では、古賀さんによるビールにまつわるクイズ大会がはじまりました。
「ビール瓶の王冠の“ギザギザ”の数は23個! 〇か✕か?」
といった難問や
「一番カロリーが高いのはどれ? ①ジョッキ1杯のビール、②グラス2杯のワイン、③一合の日本酒」
という頓智めいた(?)クイズも。全問正解者はゼロ! ビールの豆知識が身につきました。
【Shared Brewery】へ!発売前の商品を含む3種のビールを飲み比べ
12時40分ごろ、バスは八王子市・Shared Brewery(シェアードブルワリー)に到着。
Shared Breweryは、ホームブルーイングを体験できる醸造所として2017年に開業しました。ビール造りのコンセプトは「シェアリング」。ビールのレシピを公開しお客様とアイデアをシェアすることで、一方的にではなく、ファンと一緒にレシピをアップデートしています。
Shared Breweryでは、タップルームで3種のビールを飲み比べしました。
まずはこの冬の最新作「1080」(テンエイティー)。ビール名はスノーボードの技が元ネタ。クリアな液色でさっぱりした味わい、ホップのジューシーなアロマが楽しめるウェストコ―ストIPAです。
「DDH Hazy Tropics」は、トロピカル系・シトラス系の香りのホップを大量にドライホップしたヘイジーなIPA。
そしてもう1種は、Shared Breweryが準備している新ブランドBRETTWORKSから「Funky twist」。発売前のビールですが、この日は特別に試飲させていただくことに。野生酵母で発酵させたブレットセゾンとバレルエイジセゾンをブレンドし瓶内発酵、オークの木樽の香りが楽しめるビールです。
液色も味わいもまったく異なる3種のビール。並べて飲み比べることでさらに個性が際立って、参加者はテイスティングを堪能し、新作「Funky twist」の繊細な香りに驚嘆する声も聞こえてきました。
タップルームでビールを楽しんだ後は醸造エリアに移動し、会社代表でブルワーの小林大亮さんが醸造の工程を説明してくれました。ちょうど発酵がはじまっているタンクがあり、ぶくぶくと泡が出る様子を見学。醸造体験用の小さめのタンクから商業用の設備、缶充填機も見せていただきました。クラフトビール造りをビジネスとして回していくために最低限必要な醸造量のことや、いかに酸素を入れずにビールを缶に充填するかなど、ディープな話も。
新たに挑戦している木樽熟成のビールについてもレクチャーがあり、野生酵母のデリケートさがよくわかりました。「ビールが酸化したら、味がどう変わるんですか?」「樽熟成というのは、寝かせれば寝かせるだけおいしくなるんですか?」「そもそも、なぜ木樽熟成をやろうと思ったんですか?」等、ここでもブルワーは参加者から質問攻めに……。
【坂道ブルイング】は念願の自社醸造所がオープン!
14時30分ごろ、最後の目的地・立川市の坂道ブルイングへ。ここは、当ツアーで巡るブルワリーの中で一番新しい醸造所です。
イギリス出身のマシュー・ボイトンさんとアメリカ出身のダニエル・ベラミさんが開業した坂道ブルイングは、2020年にタップルームをオープン。委託醸造でオリジナルビールを造りつつ自社醸造の準備を進め、2022年12月から店舗の奥にある醸造設備でビール造りをスタートさせました。
タップルームに到着すると、坂道ブルイングの所在地の地名を冠した看板ビール「柴崎セッション」が提供されました。
マシューさんの出身地はイギリス・スコットランドのエジンバラ。マシューさんは地元のブルワリーCampervan BreweryのSession IPA「Leith Juice」が好きで、このビールの味わいにインスピレーションを得て「柴崎セッション」のレシピを組み立てました。「Leith Juice」の特徴である柑橘の味わいを出すため、Amarilloホップを多く使ってオレンジのような香りを引き出し、ノルウェー由来の酵母・Kveikを使用して比較的高温で短期間発酵させています。
インスタグラム等の情報を見ると、この日提供された「柴崎セッション」は自社醸造ではファーストバッチにあたる記念すべきビール。でき立てのフレッシュな状態で味わうことができました。
ツアー一行はマシューさんの案内で、ビールを手に醸造エリアへ。ビールの原料である麦芽とホップを見せてもらい、味わったり香りを嗅いだり。
醸造設備の見学の後、まだ新しい醸造所ということもあり、参加者からはブルワリー立ち上げのきっかけについての質問が続きました。マシューさんとダニエルさんはもともと自転車仲間。静岡のベアードブルーイングや東京・福生市の石川酒造でビール醸造に携わってきたマシューさんと、自転車でアメリカを長期間旅した後仕事を探していたダニエルさんが組んで醸造所を開業しました。酒類製造免許を取得するのが大変で、自社でビールを醸造するまでに時間がかかったのだそう。
醸造所見学の後はフリータイム。坂道ブルイングのビールをお代わりして参加者同士で話し込んだり、古賀さんも交えて交流したり。タップルームの冷蔵ケースには国内外のクラフトビールが並んでいるので、お土産用にパッケージビールを購入する方もいました。
ビールを通じて地域を知る!クラフトビールツーリズム
バスは立川から新宿に戻って、ツアーは解散。朝から約8時間にわたって続いたブルワリーバスツアーは無事終了しました!
今回のツアーはクラフトビールについて知識があってもなくても楽しめる内容で、醸造家が醸造所を案内して生解説してくれるのがなにより貴重な経験となりました。質問したい人はガンガン質問し、解説を聞くことに徹する方、ビールを飲むことに集中する方も。参加者それぞれがマイペースに過ごせるツアーでした。
訪れた3つの醸造所はどれも魅力的で、また行きたいと思えるブルワリーばかり。東京西部にはこんな個性的なクラフトビールがあるんだと、このエリアへの関心も深まりました!
今回と同じ内容のツアーが再度企画されるかどうかは未定ですが、「TABA」は今後もクラフトビールツーリズムに取り組み、イベントも企画していくそうです。今後のツアーやイベント等の情報はSNSやホームページで随時発信しているので「TABA」の公式アカウント・公式ページをチェックしてください!
※記事内で紹介しているビールや食事はツアー当日に提供されたものです。ラインナップやメニューは随時変わります。
【関連サイト】
「TABA」公式ウェブサイト
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