2024年3月5日(火)~8日(金)、「東京ビッグサイト」で国内最大級の食品・飲料展示会「FOODEX JAPAN 2024」が開催されました。
今年は世界68か国・地域からの出展があり、参加国の1つ、ウクライナのナショナルパビリオンではビールメーカー・MOVAがブースを出していました。現地スタッフにMOVAのビールをご紹介いただき、ウクライナのブルワリーは今どんな状況下でビールを醸造しているのか、聞いてみました。
ウクライナのブルワリー・MOVAが出展、「FOODEX JAPAN 2024」
「FOODEX JAPAN 2024」のウクライナ・ナショナルパビリオンはJETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)が出展を支援し、設置されたもの。ウクライナは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降はじめてFOODEXにナショナルパビリオンを出展することになりました。
ウクライナのビールメーカー・MOVAのブースには定番のボトル商品がディスプレイされ、このイベントのために来日したスタッフLizaさんがMOVAのコンセプトやビールを紹介してくれました。
ビールでコミュニケーションを生み出すMOVA
MOVAはウクライナ東部の都市ドニプロ(Дніпро、Dnipro)に醸造拠点を持つビールメーカー。Movaとは“言葉”を意味する単語で、MOVAのコンセプトは“We don’t brew beer, we brew communications”。ビールを醸造するだけでなく、ビールを起点にコミュニケーションを生み出すことを目指す企業です。
MOVAのプロジェクトは委託醸造からはじまり、2021年から自社工場での製造にシフト。現在はウクライナ国内にとどまらず、ノルウェー、デンマーク等にビールを輸出するほどに成長しているメーカーです。
工場周辺にはタップルームや直営レストランがあり、ビールの博物館まで運営! ウクライナでは10年ほど前からクラフトビールがブームになってきているそうで、MOVAは毎年9月に国内のブルワリーを集めてビアフェスを開催し、ウクライナのクラフトビールカルチャーを盛り上げています。
MOVAの定番ビールのなかでLizaさんの推しは「MOVA DNIPRO」。ドニプロの地元の人々=Dnipryanyとともに開発した特別なビールです。ドニプロ市民に3種類のビールを試飲してもらって意見を聞き、MOVAの技術者がレシピを工夫。同じラガービールの「MOVA LAGER」はチェコの伝統的なピルスナーの製法をベースにしているのに対して、「MOVA DNIPRO」はよりライトな飲み口です。
ウクライナのブルワリーの現状は?
ウクライナについてやはり気になるのは、ロシアによる侵攻後、市民はどんな生活を送っていてビール醸造所はどのような営業をしているのか、ということ。Lizaさんに現状を聞いてみました。
MOVAのビール工場は侵攻がはじまってからしばらくは操業停止に。直営レストランは兵士や市民に食事を提供するために運用し、水や飲み物を軍に供給することもあったのだとか。しかし数週間後には地元の経済や市民生活の継続を考えてビールの製造を再開し、需要が高まっていたノンアルコールビールやソフトドリンクのラインナップを新たに増やしました。
ビールの原料となる麦芽はもともとヨーロッパ各国とウクライナ国内から仕入れていました。侵攻後、麦芽の仕入れ先があったウクライナ東部ハルキウが一時占拠されて被害を受けたため国内産の麦芽は手に入りにくくなっていて、今はドイツ産をはじめ、ヨーロッパの麦芽をメインに使用。
恒例になっているMOVA主催のビアフェスは、チケット代金の代わりに軍へのドネーションを募るなど運用の変化はありますが、これまで通り9月に開催。月に2回ほどはMeetingと名付けた会を企画し、醸造所の技術者がビール好きの市民にビールについて話す機会を設けて、こういった情勢だからこそ地域のコミュニティ作りに邁進しています。
昨年、ドニプロの南方に位置する都市・ザポリージャの原発が占拠され、現在も当地の深刻な状況は変わりません。近郊でミサイルが着弾したという話もありながら、その一方で、ドニプロ市民は通常の生活を送り、仕事を続けています。
MOVAは今回はじめて日本で広報活動をして、現在インポーターを探しているそう。今後、MOVAのビールが日本でも飲めるようになるかもしれません。
世界のブルワリーやインポーターが参加!「FOODEX JAPAN」出展ビールをピックアップ
「FOODEX JAPAN 2024」には、ほかにも多数のブルワリーやインポーターが出展していました。会場で見かけたクラフトビールをピックアップして紹介します!
ラインナップは……
米国ワシントン州【ASLAN BREWING】【URBAN FAMILY BREWING】【Kulshan Brewing】
米国ハワイ州【HONOLULU BEER WORKS】
フィンランド【LAITILAN「Kukko」】
リトアニア【Volfas Engelman】
日本初進出!米国ワシントン州のクラフトビールブルワリー
ホップ産地として知られる都市・ヤキマを擁し、自然に恵まれ水資源が豊かな米国ワシントン州。“食のグローバルプロデュースカンパニー”株式会社cup of teaはワシントン州のクラフトビールブルワリーから個性豊かなビールを輸入しています。米国からの輸送や日本国内での運搬はビールの品質保持に配慮し冷蔵をキープ。現在はテスト輸入中で、本格的な日本国内販売は2024年6月以降の予定です。
「FOODEX JAPAN」のブースでは日本初進出の5つのブランド(ASLAN BREWING Co.、URBAN FAMILY BREWING Co.、Dru Bru、Boundary Bay Brewing、Kulshan Brewing Company)を紹介していました。なかでも推しの3ブランドをチョイス。
オーガニックの原材料にこだわる【ASLAN BREWING】
ASLAN BREWINGは“Drink Organic Beer”をコンセプトに、2013年ワシントン州べリンハムを拠点に設立されたブルワリー。ASLANの名は『ナルニア国物語』シリーズに登場するライオンからインスピレーションを得ているとか。環境や人権に配慮した会社運営で、「B Corp」(米国の非営利団体B Labによる認証制度)を取得しています。オーガニックの原材料にこだわり、アウトドアギアブランド・Patagoniaとのコラボビールを米国内でリリースした実績も。定番ビールのスタイルはライトラガーやIPA。ヘイジーも人気。
フルーツをふんだんに使ったサワーエールがフラッグシップ【URBAN FAMILY BREWING】
URBAN FAMILY BREWINGはシアトルに拠点を置くブルワリーで、フルーツを使ったサワーエールに定評があります。「Surfin’ Bird POG Sour」は大量のグァバとパッションフルーツ、オレンジの皮とピューレを使用したジューシーな味わいのサワーエール。バランスの取れたクセのない味わい【Kulshan Brewing】
ワシントン州べリンハムにあるKulshan Brewingは、2012年創業。バランスのとれた味わいのビールをリリースし続け、現地でも急成長しているブランド。自然に恵まれたロケーションに広大なビアガーデンがあり、アウトドアスポーツや音楽などのカルチャーのコミュニティハブにもなっています。「Sunnyland IPA」はKulshanのフラッグシップビールの1つで、ヤキマバレー産のシトラホップとイギリスのゴールデンプロミスモルトを使用。
インポーター
株式会社cup of teaオフィシャルサイト
※株式会社cup of teaでは、2024年3月末日までクラウドファンディングを実施中
cup of teaクラウドファンディングプロジェクトページ
(クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」)
ホノルルの人気エリア・カカアコで創業【ハワイHONOLULU BEER WORKS】
HONOLULU BEER WORKSは、ハワイ州ホノルルにある注目の商業エリア・カカアコで2014年に創業したブルワリー。アメリカ産クラフトビールのインポーター・ナガノトレーディングが輸入し、2024年3月から日本で販売を開始したばかり。
「COCOWEIZEN」は、Hefeweizen酵母由来のバナナ、パイナップル、クローブのような香りが豊かな小麦のビールをベースに、香ばしく焼き上げたココナッツを投入。後味にココナッツのフレーバーがしっかりと感じられるトロピカルな1杯。ナガノトレーディングの直営店「アンテナ・アメリカ」各店やオンラインショップで缶商品を購入できます(2024年3月現在)。
インポーター
ナガノトレーディング オフィシャルサイト
再生可能エネルギーで醸造したグルテンフリービール【フィンランドLAITILAN「Kukko」】
LAITILAN(ライティラン)社は、フィンランド南西部の町Laitila(ライティラ)にあるクラフトドリンクメーカー。フィンランド国内で4番目に大きな醸造所で、工場で使用する電気は100%再生可能エネルギー(太陽光と風力発電)、ビール醸造で生じる麦芽粕は地元農家で家畜の飼料として活用し廃棄物を出さず、パッケージもできる限りリサイクル可能な素材を使うなど、サステナビリティに配慮した製造プロセスを採用しています。
LAITILANのビールブランド名は「Kukko」(クッコ)。Kukkoはフィンランド語で雄鶏の意味で、地元Laitilaが養鶏の町であることに由来します。「Kukko」は大麦麦芽を100%使用したグルテンフリーのクラフトビール。黄色い缶の「Kukko PILS」はコクのある味わいでモルト感も豊か。
「Kukko」の定番ビールは日本国内のスーパーや百貨店ですでに流通していますが、2024年5月からはさらに取り扱い銘柄が増える予定。新たに展開するロング缶のシリーズは「MOSAIC LAGER」や「CITRA LAGER」、イギリス発のChallenger hopを使った「Challenger Ale」などのシングルホップのビールのほか、素材や製法にこだわったラインナップです。
インポーター
株式会社POS
170年の歴史を刻むビールメーカー!【リトアニアVolfas Engelman】
「FOODEX JAPAN」の欧州連合パビリオンの一画では、リトアニアのビールメーカーVolfas Engelman(ヴォルファスエンゲルマン)がブースを出展。リトアニアはバルト海沿岸の国。Volfas Engelmanはリトアニア中央部にある都市・カウナスで1853年からはじまった歴史あるビールメーカーです。日本ではコストコやサミットストアでパイント缶が販売されています(取扱いのない店舗もあり)。
「Volfas Engelman-Rinktinis」はこのブルワリーのフラッグシップ。FLAVOURS OF THE WORLDシリーズの「Australian Pale Ale」はオーストラリアとNZのホップを使ったPale Aleです。パイント缶のパッケージで特徴的なのは、金色のアルミ箔で覆われていること。見た目に高級感があって、プルタブ周辺の汚れを気にせず注げて清潔。
Volfas Engelmanはノンアルコールのビアカクテルも製造。ノンアルコールビールと果汁を合わせた「PEACH RADLER 0%」「RASPBERRY RADLER 0%」はすでに日本に輸入され販売中(2024年3月現在)。
インポーター
グローバル・ビジョン株式会社
クラフトビール業界関係者も多く来場、「FOODEX JAPAN」
2024年の「FOODEX JAPAN」は、来場者数(来場登録者数)が7万6千人を超え、ビアパブやショップの方など業界関係者も多く見かけました。新たな味わいに出会う機会。今回のレポートで紹介したビールをパブやショップで見かけたらぜひ注目してみてください!
【関連サイト】
「FOODEX JAPAN」オフィシャルサイト