2024年4月18日、東京・両国の麦酒倶楽部ポパイにて日本クラフトビール業界団体連絡協議会(クラビ連)の記者発表が2年ぶりに開催された(2023年は1月に予定されていたが、関係者内で体調不良者が確認され、新型コロナウイルス感染リスクを考慮して中止)。今回の目玉は、日本のクラフトビール市場の実態調査の結果発表である。
前回2022年の記者発表の内容やクラビ連そのものについては筆者が執筆した「クラフトビール誕生30周年記念イベント「ビアEXPO」2025年に開催」、そこから考えられることについては「クラフトビールの過去・現在・未来 「ビアEXPO」「日本クラフトビール業界団体連絡協議会」から考えられること」の記事を参照されたい。
発表された統計のうち、まず課税移出数量、売上金額の調査方法は以下だ。
調査期間:2022年4月1日〜2023年3月31日
調査範囲:2022年までに醸造を開始した大手以外の全ブルワリー
調査ブルワリー数:655(2023年3月31日時点の上記全ブルワリー)
回答者数:259(回答率39.5%)
※回答社以外の課税移出数量・売上金額は、各社の醸造規模を6段階に分類し、最大の段階のグループは過去の実績などから個別に計算し、続く五つの段階のグループは、それぞれの段階に当てはまる回答社の数値の中央値を使用して推計。
※大手5社の課税移出料はキリンホールディングス、BarthHaasによるレポートから推計。
その結果、課税移出数量は4万3745キロリットル、売上金額は360億6600万円となった。課税移出数量でシェアを計算するに当たり、税区分で「ビールと発泡酒」と「ビールと発泡酒と第三のビール」とに分けていた。後者は報道などで「ビール系」とも呼ばれる。ビールと発泡酒で見たときのクラフトビールのシェアは1.7%、ビール系で見たときのシェアは0.96%だった。
まず、第三のビールを含めるか含めないかでデータを出し分けているのは評価できる。例えば筆者は第三のビールでも、銘柄やそのときの環境・気分によっては、税区分としてのビールと全く同じようにおいしく味わうこともあるし、何より「ビール系」でくくられることもあり、含めることに違和感を覚えない。しかし「麦芽を使っていないではないか」「ドイツだけでなく他の多くの国でもビールと呼ばれないだろう」「やっぱり薄い」といった意見も理解できる。データなので、必要に応じて使い分ければいいのだ。
統計はその他、地域別の課税移出量割合で中部が44%で、2位で21%の関東より2倍以上多く、長野県のヤッホーブルーイングの影響を思わせることや、日本のブルワリー数が2024年4月1日現在で797あることなどが発表された。
しかし、今回の統計には一つ大きな疑問が残る。調査対象となったかどうかが分からないビール系銘柄があるのだ。最も象徴的なのは、ヤッホーブルーイングの「よなよなエール」などの銘柄が含まれているのかが明らかでないことだ。すぐ前で「ヤッホーブルーイングの影響を思わせる」と、不確かな表現をしたのはそのためだ。よなよなエールは、缶底に記載されている製造所固有記号でもって、キリンビールの滋賀工場で委託製造されていることが明らかになっている。
「よなよなエールなど大手5社以外のブルワリーが大手5社のどこかに委託して製造されるビールや、逆に大手5社がそれら以外のブルワリーに委託して製造されるビールは、今回の統計にどのように扱われているのか」と質問すると、「個社ごとの状況が分からないようにすることを約束した上で調査している。今回の調査対象は事業者ごとの課税移出量」という回答だった。つまり、銘柄ごとの状況は分からないということである。
ヤッホーブルーイングは、クラビ連の発起団体の一つである全国地ビール醸造者協議会(JBA)によるクラフトビール(ブルワー)の定義によれば(なお、JBAのウェブサイトは現在リニューアル中により非公開となっている)、大手のキリンと資本提携があることと、その工場での委託製造をしていることから、クラフトブルワーに当てはまらない。そして、これも統計がないことによって断言できないのだが、仮にヤッホーブルーイングがオリオンビールより製造量が少なければ、国内で6番目に大きなブルワリーであろうと思われる。そうした存在の、委託醸造とはいえ主力銘柄が含まれるかどうかが分からない統計は、物足りなさがあると言わざるを得ない。
そもそも、ヤッホーブルーイングそのものが含まれていない可能性も考えられるが、よなよなエールという具体名を出して質問してそうした回答はなかったので、話者の誠実性に期待すれば、含まれているということなのだろう。
今週4月16日には、偶然か、必然か、米国のビール業界団体ブルワーズアソシエーションが2023年の米国クラフトビール市場の統計を発表した。操業中のクラフトブルワリー数は9683(前年9552)、全ビールに対する数量シェアは13.3%(同13.1%)、金額シェアは24.5%(同25%)などであった。クラフトブルワリー数は過去最高となったものの前年比増分は131であってかつての急増の勢いはなくなり、二つのシェア指標も含めると、一言で言えば横ばいだ。
日本のクラフトビール市場では、繰り返しになるが従来確たる統計がなかったので感覚的な物言いになるが、クラフトブルワリーの増加やつくられるスタイルなどが、米国の傾向に追随してきたと言える。米国の現在の「高止まり」も日本で起きても全くおかしくないため、起きないことを願うのではなく、起きたときの対策を今から取っておくのが健全な在り方だろう。そのためには、米国のように何が含まれて何が含まれていないかが明確な「使える統計」がやはり求められる。
長谷川小二郎
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