酒税法改正で2018年4月からビールの定義が変わりました。課税対象となるビールの範囲が拡大するというのです。米、麦、トウモロコシ等の限定された原料以外の副原料を加えたものもビール、発泡酒や第3のビールと言われていたものもビールとして販売することになったのです。さて、酒税法改正はクラフトビールにどのような影響を及ぼすことになるのでしょうか。
酒税法改正の歴史を紐解いてみよう
その昔、年間最低製造量が2000キロリットル以上でないとビールを製造販売することができませんでした。そのため、キリン、アサヒ、サッポロ、サントリーといった大手企業による寡占状態が続いていたのです。
しかし、ビール業界にターニングポイントが訪れます。1994年4月の酒税法改正によって年間製造量が60キロリットルに引き下げられたのです。これによって全国各地に少量生産の地ビールメーカーが誕生。第一次地ビールブームが巻き起こりました。ところが、このブームは価格と品質が合わなかったなどの要因により、終息を向かえます。
そのかわり、本物志向のビールが生き残るようになり、2010年ころからクラフトビールブームが巻き起こりました。地ビールからクラフトビールへ。新しいビールの時代が到来することとなったのです。
早速、各社が新機軸のビールを発売
今回の定義見直しを見込み、早速、各社が動き始めました。改正後は、麦芽比率が67%以上から50%以上に引き下げとなり、果実、胡椒、山椒、ハーブ、野菜、カキ、昆布、鰹節、そば、ごま、蜂蜜、食塩、味噌、茶、コーヒー、ココアなどさまざまな品目が加えられたからです。
たとえば、アサヒビールは副原料にハーブ「レモングラス」を使ったアルコール度数7%のビール「グランマイルド」を4月17日に発売しました。
また、キリンビールはレモンピールを使用した柑橘の風味と爽やかな余韻が特長の「グランドキリン ひこうき雲と私 レモン篇」を4月17日より全国のコンビニエンスストアで期間限定で発売しました。ほかにも爽やかで飲みやすい味わいと華やかなオレンジピールの余韻が楽しめる「グランドキリン 雨のち太陽、ベルジャンの白」を6月5日より全国で期間限定で発売。さらに6月12日には全国の量販店・ECチャネルで「雨上がりのGRAND KIRIN体験BOX」を数量限定で発売します。
クラフトビール大手のヤッホーブルーイングも副原料にかつお節を使ったビール「ソーリー ウマミ IPA」を4月1日から販売しています。
このようにさまざまなビールが味わえることになる一方、悲しいお知らせもあり、喜んでばかりもいられません。今回の酒税法改正では段階的にビールは減税される一方、発泡酒や第3のビールなどが増税となるのです。
これまで、350ミリリットル缶の場合、ビールには77円、発泡酒には46.99円、第3のビールには28円の酒税がかけられていました。しかし、改正酒税法では段階的にすべての種類の酒税を350ミリリットルあたり54.25円に一本化されます。ということは、安い値段で酔うことのできる発泡酒や第3のビールが増税。発泡酒や第3のビールを楽しみにしていたお父さんにはかなりの痛手になるのではないでしょうか。もしかしたら「ビール離れ」が進んでしまうかもしれません。
海外と比べて日本のビールは…
そのかわり、ビールは減税となります。350ミリリットル缶当たり77円という酒税額はビール酒造組合によれば、米国の9倍、ドイツの19倍の水準なのだそうです。これまでは世界基準とかけ離れていたのです。
また「まぜものビール」で知られるベルギービールはこれまで日本では発泡酒とされていました。ベルギーではよいブドウがとれないのでフランスのようなワインが作れない。よいホップがとれないのでドイツのようなビールは作れない。フルーツをブレンドしながら、ベルギーは独自の文化を作り、ベルギービールを守ってきたのです。
そのベルギービールもビールとして日本で認定されるようになるわけです。海外ではさまざまな副原料を使ったビールが人気を集めています。酒税法改正は日本のビールが世界基準に追いつくきっかけになるかもしれません。
結局、クラフトビールにどんな影響を及ぼすの?
今回の酒税法改正は全国各地にある地ビールメーカーが特色あるビールを開発する流れを推し進め、地方創生の後押しをしようという政府の意図もあるようです。
たしかにビールの原料定義が広がったことで、多彩な副原料を用いた多様な味わいのビールが多く流通し始め、消費者のビール対する視野が広がることでクラフトビールへの関心が高まることが予想されます。また、2026年に向けてのビールの減税メリットも間違いなくポジティブなインパクトが予想されます。しかし、これだけで無条件にクラフトビールの成長が約束されるわけでないでしょう。全国のクラフトビールメーカーが質の高い特色あるビールを開発できるか、消費者に対してクラフトビールを選ぶメリットを訴求するマーケティング活動ができるか、クラフトビールを購入、または飲むことができる環境をより幅広く整備することができるかなど、成長への要素は他にも多くありそうです。
間違いなく日本のクラフトビールの質は高まっています。クラフトビールが我々の生活の一部として定着し、クラフトビールをどこでも気軽に楽しむことができる環境を醸成するには、この法改正の追い風は絶好のチャンスと言えそうです。