なぜガイアブックスはクラフトビールの本を続けて出版したのか

ガイアブックス

東京都にある出版社・ガイアブックスは、2018年よりクラフトビールを扱う書籍を立て続けに4冊出版しました。なぜガイアブックスはクラフトビールを扱う書籍を出版したのか。編集長の田宮次徳さん、営業担当の栗原孝太さん、ガイアブックスが出版した4冊のクラフトビール関連の書籍の翻訳や監修を担当した長谷川小二郎さんにお話を伺いました。

東洋医学や自然療法の専門書を上梓する出版社がクラフトビールの本を出版した理由

ガイアブックスは1977年設立の出版社です。約70%以上が翻訳出版で、東洋医学や自然療法、理学療法の専門書から、建築、食、ファッション、スピリチュアル系と多岐にわたる分野の書籍を取り扱っています。田宮さんはそれらの書籍を出版する理由について、「人々が健康で幸福に暮らすための幅広い知識や情報を提供できる書籍を届けたいというのがもともとのコンセプトです」と説明します。

お酒関連の出版は、先代社長になじみの深いワインに関する書籍が最初でした。『ワイン学(1998/12/25)』から始まり、その後の『世界のワイン図鑑 第8版(2021/1/20)』に至るまで、延べ27冊のワイン本が連なります。そのうちの『世界のワイン図鑑』の版元よりThe World Atlasシリーズを紹介されたことを機に、2018年に『世界のビール図鑑』を出版することになります。

田宮さんは「例えば、理学療法系の書籍を出版することは、理学療法士が学び、よりよい施術を人々に届ける意味合いがあります。薬を使わず手術もせずに治すことは幸せにつながる。そのように幸せな生き方を応援する本であれば、ビールを選んでもいいだろうと。そのような意味で、全てが我社のコンセプトとしてつながっていると認識しています」と話してくれました。

ガイアブックス社内の本棚

ガイアブックス社内の本棚

ビールのエキスパート長谷川小二郎さんとの出会い

「『世界のビール図鑑』の出版にあたっては、「クラフトビール関連で、監修者にもってこいの人がいるから。この人にやってもらったらいい」と熱烈なご紹介をいただいたのが長谷川さんなんです」と田宮さん。

長谷川さんは編集・執筆・英日翻訳を生業としつつ、世界最大のビール審査会である米国のワールドビアカップをはじめ、同じく米国のグレートアメリカンビアフェスティバル、オーストラリアンインターナショナルビアアワーズ、ドイツのヨーロピアンビアスター、日本のインターナショナルビアカップなど、国際的で有力なビール審査会の審査員も務めています。

ガイアブックスが出版した、デンマーク発のビールブランド・ミッケラーの魅力を綴った『ミッケラーの「ビールのほん」』、スコットランドのブリュードッグの創業者と社内ライターがビールの魅力を語る『クラフトビール フォア ザ ピープル ブリュードッグ流 あたらしいビールの教科書』と『クラフトビール フォア ザ ギークス ブリュードッグ流 ビアギーク宣言!』の翻訳と監修を担当しました。

田宮さんは「実はこれらの本を出版する企画が上がってくるまでは、クラフトビールのことを何も知りませんでした。そんなときに専門家というだけではなく翻訳もできる長谷川さんと出会いました。出版できたのは、本当に長谷川さんのおかげなんです。版元から『この本を出版しませんか』とお声がけをいただいたときに、長谷川さんにご相談したら『絶対に出すべきです』と即答してくださった。そのようなつながりが、クラフトビールが出てくる書籍を立て続けに出版できた要因だと感じます」と振り返ります。

ガイアブックスが出版したクラフトビールを扱う書籍4冊

ガイアブックスが出版したクラフトビールを扱う書籍4冊

ファンがクラフトビールの関連書籍を購入していく

4冊の中で特に販売実績が高かったのは、2019年に出版した『クラフトビール フォア ザ ピープル ブリュードッグ流 あたらしいビールの教科書』でした。

この本について長谷川さんは「私がぜひやりたいと思ったので、おすすめしました」とニコリ。「ブリュードッグはブランドが強いので注目する人が多いのと、本が売れるかどうかも重要ですが、その見込みがあるだろうということで、『売れます』というか『私が売ります』という感じでした」と熱弁。「当時、世界のクラフトビールを引っ張っていたブルワリーのことを書いている書籍を日本で出版できたのは、非常に意義深いことだったのではないかと思います」と語ってくれました。

すると、田宮さんが「私はこの本を出版するまでは、クラフトビールにこのような需要があることも全くわからなかったんです」と一言。そして「携わらせていただいて、またこういった世界を知ることができて、なんといいますか、例えば、ある一つのブルワリーのファンになるというのは、洋服のブランドを好きなことにたいへん似ていると思いました。例えば、シャネルとヴィヴィアン・ウエストウッドのどちらも素晴らしい。でもテイストが違うし、どちらのよさもある。それは多分、その創設者の生き方だったり性格だったり、全部含めて一つのブランドを作り上げているからですよね。そのような意味でも、ブリュードッグやミッケラーはそういったブランドと同じような位置づけだと感じています」と持論を明かしてくれました。

そして、長谷川さんは「ビール会社がビールだけではなく、服やグッズを売ることがありますね。それは既製品と比べると、もちろん割高なんです。でも、ファンなので、ブリュードッグのものだったら何でも欲しいし、買って応援もしたいという、いわゆるファングッズみたいなものになっているんですよね。本もファングッズになれます」と付け加えました。

営業担当の栗原さんも「書店よりもアマゾンや楽天での購入が多いので、やはり書店でふと見つけたからというよりは、ブランドのことを知っていて、オンラインで買われているのでは」と話しました。日本も海外も同様に、クラフトビールがファンに支えられて成り立っていることの表れなのかもしれません。

リアルイベントでも好評

クラフトビール フォア ザ ピープル ブリュードッグ流 あたらしいビールの教科書』の出版は2019年1月だったため、当時はコロナ禍の影響を受けず、出版イベントも問題なく開催できていました。

長谷川さんが「イベントは販売機会にもなり、売れ行きにつながっていました。オンラインではなかなか関係を築くまでに至らないこともありますが、リアルな場ではその熱量を伝えることができています」と話すと、田宮さんも「クラフトビールはまだまだマーケットが狭いこともあり、売れ筋としてランキングが上がっても、直接売り上げへの貢献には至らないこともままあります。コロナ禍以前は、長谷川さんにいろいろと拡散していただいたことも手伝って、やはり対面のイベントでは『売れる』と実感しました」と教えてくれました。

長谷川さんもクラフトビールの業界について「インディーズの音楽と同じように思います。インディーズという言葉は、日本ではよく使われる割にはその意味があまり意識されないのですが、大手に属さず独立している状態のことです。そうした状態で作りたい音楽を作り、それに共感して応援する人が出てきて、少しずつ輪が広がっていく。クラフトビールもアイデンティティーに独立性があってインディーズの面を持っていますから、似ていると思います。そしてそれはまた私たちの活動にも通じるかもしれません」と将来を見据えます。

クラフトビール関連書籍を発刊する意義

情報が消費されていくスピードの速いインターネットに立場を追われつつある書籍。ましてやクラフトビールの世界もスクラップアンドビルドのサイクルが早い。そんななかで、クラフトビールの書籍の意義はどこにあるのでしょうか。

長谷川さんは「書籍は発行された日から情報が古くなっていきますが、例えば10年後に、あのときはどういう景色だったのかというのがわかる。ウェブだと実はそれがまとめて把握しにくいように思います。実は百科事典などもそうで、古い版でも持ち続ける意味はあります。認識が変わり続けている事柄について、発行時での一般的な認識を知ることができますから」と答えてくれました。

栗原さんも「クラフトビールはなんとなく好きという方がすごく多い。そういった中で一歩踏み込んだことを知りたいときにインターネットで調べればいろいろと出てくると思いますが、パッケージングされてより分かりやすくなっているのは1冊の本の魅力だと思いますので、そういうときに手軽さを求めてネットに走らず、書籍として購入していただけたらと思います」と本心を明かしてくれました。

もしかしたら、嗜好性の高いクラフトビールは、形に残る書籍との親和性が高いのかもしれません。ガイアブックスの今後の展開にも期待したいです。

文:梶原誠司、編:秋山哲一

【参照サイト】ガイアブックスはナチュラルライフを提案する出版社
【参照ページ】世界のビール図鑑
【参照ページ】ミッケラーの「ビールのほん」
【参照ページ】クラフトビール フォア ザ ピープル ブリュードッグ流 あたらしいビールの教科書
【参照ページ】クラフトビール フォア ザ ギークス ブリュードッグ流 ビアギーク宣言!

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梶原誠司

梶原誠司

1975年生まれ。神奈川県横浜市出身。好きなビールは横浜スタジアムのベイスターズラガー。好きな野球チームは横浜DeNAベイスターズ。贔屓のチームが勝てば美酒。負ければほろ苦いビール。ビールが先なのか。野球が先なのか。正直、そんなことはどうでもいい。それくらい、球場で飲むビールが好き。
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