2020年11月、東京・池尻大橋のビアバー・角打ちショップの「クラフトビールシザーズ」で「東北岩手フレッシュホップビール祭」が開催され、岩手県の3つの醸造所からブルワーが来店しました。イベントに潜入し3人のブルワーさんのストーリーや醸造についてお話をお聞きすると、東北や岩手のクラフトビールシーンに対する各氏の熱い思いが語られ、ビール談議が盛り上がりました!
ホップ生産量日本一を誇る、岩手県のブルワリーが集結
岩手県はホップ生産量日本一。なかでも遠野市は日本随一のホップ名産地として知られています。岩手県内のブルワリーも存在感を増しており、各社、地元産のホップを使ったビールをリリースしています。
そんな岩手県内の気鋭の醸造所が、今年遠野で収穫されたホップを使ったビールや各ブルワリーの看板ビールを持ち寄って、東京・池尻大橋の「クラフトビールシザーズ」に集結。「東北岩手フレッシュホップビール祭」が開催されました。参加したのは遠野麦酒(遠野市)、BREW BEAST(花巻市)、いわて蔵ビール(一関市)の3社で、当日は各醸造所のブルワーが来店。My CRAFT BEER編集部もイベントに潜入させていただき、ブルワー3人のストーリーやビール醸造、東北や岩手のクラフトビールシーンへの思いをうかがいました。
ホップの名産地・遠野のブルワリー、遠野麦酒
遠野麦酒は歴史ある日本酒の蔵元・上閉伊酒造が手掛けるブルワリーで、ビールの醸造を開始して21年目。ホップ生産量日本一の遠野市に拠点を置き、地元産の新鮮なホップをふんだんに使ったビールを醸造しています。
定番の銘柄「ZUMONA」は、「~だってね」「~だってよ」という聞き伝えの表現を、遠野の方言で「~だずもな」と言うことに由来。遠野においしいビールがあるんだってよ、と語ってもらいたいという願いが込められています。
ブルワーも遠野出身、幼いころから身近にあったホップ畑
ブルワーの坪井大亮さんは遠野市出身。小さいころからホップ畑が身近にあり、夏になるとホップのグリーンカーテンが現れる風景に親しんできました。一度県外に出たあと地元に戻り、上閉伊酒造に入社。現在は遠野麦酒の醸造家として現場を任されています。
坪井さんは遠野の状況を振り返り、「昔は遠野の各町にホップ畑がありましたが、今は少なくなって、ホップの生産量は落ち込んできています」と語ります。「地ビールがブームになったころ岩手県内にブルワリーがいくつかできたんですが、その後、一時期は数が減りました。でも、今またクラフトビールが盛り上がってきていて。地元のホップ使ったビールを提供しようと官民が協力して取り組んでいるところです」(坪井さん)
2019年創業のニューカマー、花巻市BREW BEAST
BREW BEASTは、2019年1月に花巻市で醸造を開始したブルワリー。株式会社トルクストが運営するダイニングバー「Lit work place」に醸造所が併設されています。名前にあるBEASTは野獣の意味もありますが、best、and、storyの語をまとめた造語で、花巻のベストなストーリーを届けるという意味を持たせ、地域を盛り上げようという会社のコンセプトを表現しています。
経験を積んで花巻へ、地域を盛り上げる若手ブルワー
醸造を担当するのは畠山崇裕さんです。畠山さんは、宮城県のブルワリーで8年間醸造にたずさわり、BREW BEASTの立ち上げを手伝うなかで正式なブルワーに就任しました。さまざまな果物や食材の産地である花巻で、リンゴ、ブドウ、洋ナシなど、地元ならではの素材を使ったビール作りに挑戦していきたいと語ります。
「生産者さんや地元の方々と、どんどんコラボしていきたいですね。花巻市には若い人たちが少なくなってきているんですが、若い自分たちが地域をもっと盛り上げていこうというのが運営会社のコンセプトなので、地元の発信に向けてビールを作っていきたいです。(店内の盛況ぶりを見て)こんな風に仲睦まじく話ができるのはクラフトビールがあるから。飲み手や作り手、みんなで文化を作り上げていけるのがクラフトビールのいいところだと思っています」(畠山さん)
老舗の酒蔵が生み出す個性あるビール、一関市・いわて蔵ビール
いわて蔵ビールは、大正時代から一関市で酒蔵を営む老舗・世嬉の一酒造が1995年にスタートしたブルワリー。酒造りの技を活かし、醸造家の経験と知識によってビールを生み出しています。定番のビールに加え、地元の特産品などを使った季節限定ビールにも力を入れています。
老舗酒蔵の4代目は、若手とのコラボで新たなスタイルに挑戦
世嬉の一酒造代表取締役社長の佐藤航さんは4代目の主人。東日本大震災の翌年に社長に就任し、震災からの経済的復興を担ってきました。いわて蔵ビールの商品は海外でも評価が高く、アメリカ、台湾、シンガポールへの輸出を成功させてきました。
佐藤さんは今回集結した3ブルワーのまとめ役のような存在。2020年8月、コロナ禍に負けずブルワリー同士が集まって技術を出し合い交流しようとBREW BEASTの畠山さんが提言したことをきっかけに、「東北三社祭」を企画し、3ブルワリーのコラボビールを醸造しました。3社で3種類のビールを完成させ、いわて蔵ビールは、今もっとも良く飲まれているスタイルのヘイジーIPAを醸造。通常は流行のビールスタイルを追わない方針の佐藤さんですが、若手とのコラボであえて挑戦しました。
「一回りも二回りも年齢の違うブルワーと一緒にイベントをやったり話をするのはおもしろい。彼らは先進的で貪欲なんです。話をする中でお互いに技術が上がっていきます」(佐藤さん)。
佐藤さんは若いブルワーと交流する中で、食習慣の変化で世代によって味覚が変わってきているんじゃないか、と感じていると言います。「若い世代がおいしいと感じるビールは、僕の考えるおいしいビールとは違うこともある」(佐藤さん)。「東北、岩手のビールを底上げしたい」という思いから、佐藤さんは都心の若いお客様と自分のもっている感覚について常に考えて検証し、東北のクラフトビール文化をさらに盛り上げようとアップデートを続けます。
ホップ生産地・岩手発のクラフトビールシーンに注目
老舗酒蔵と若いブルワーとの交流で生まれる、日本一のホップ生産地・岩手発の新たなクラフトビールシーンに、今後も注目です。各ブルワリーのビールをぜひ飲んでみてください。「東北岩手フレッシュホップ祭」で提供されたビールは、『必飲!遠野産フレッシュホップを使った岩手のクラフトビール3種』で紹介しています。
ビールイベントで盛り上がる!「クラフトビールシザーズ」
岩手の3ブルワーによる熱いビール談議が交わされた「東北岩手フレッシュホップ祭」の会場、池尻大橋「クラフトビールシザーズ」は、ドラフト10タップと100種類以上のボトル・缶ビールを販売しているビアバー&角打ちショップ。今回紹介した岩手のブルワリーのビールはイベント時にかなり売れてしまったようですが、ボトル・缶は在庫があればオンラインでも購入できます。お店では今回のようにテーマを設けたビールイベントがしばしば開催されていますので、ホームページやSNSをチェックして、お店に行ってみてください。
【ウェブサイト】いわて蔵ビール(世嬉の一酒造)
【ウェブサイト】遠野麦酒(上閉伊酒造)
【ウェブサイト】BREW BEAST(Lit work place)
【ウェブサイト】クラフトビールシザーズ