ビール漫画『琥珀の夢で酔いましょう』制作陣に聞く、制作秘話・推しビール・推しペアリング!

漫画コンテンツ
©Masoho Murano, Nodoka Yoda, Kei Sugimura / MAG Garden

クラフトビールを軸にストーリーが展開するクラフトビール漫画、読んだことありますか? 出版社・マッグガーデンが配信・刊行する『琥珀の夢で酔いましょう』は、京都のクラフトビール専門店を舞台に3人のオトナが織りなす青春群像劇です。コミックス最新刊が発売したばかりの『琥珀の夢で酔いましょう』制作陣に制作秘話をうかがい、今注目しているビールやフードペアリングのアイデアをお聞きしました!

京都のクラフトビール専門店を舞台にしたオトナの青春群像劇『琥珀の夢で酔いましょう』

『琥珀の夢で酔いましょう』(以下『こは酔い』)は、出版社・マッグガーデンのWEBマンガサイト「MAGCOMI」で2018年から掲載がスタートし現在も更新中の漫画です。ざっくりと紹介すると、京都の広告会社で派遣社員として働く剣崎七菜と、飲食店「白熊」の店主・野波隆一、カメラマン・芦刈鉄雄の3人が京都で降りなすクラフトビール青春群像劇。

表紙
『琥珀の夢で酔いましょう』コミックス第1巻の表紙
『琥珀の夢で酔いましょう』
原作:村野真朱
作画:依田温
監修:杉村啓
出版社:マッグガーデン
©Masoho Murano, Nodoka Yoda, Kei Sugimura / MAG Garden

剣崎七菜は、京都市内にオープンしたばかりの居酒屋「白熊」に偶然入店し、野波隆一と芦刈鉄雄に出会います。店の方向性について迷っていた隆一は、七菜と鉄雄に、店のアドバイザーになって欲しいと依頼。「白熊」でクラフトビールのおいしさや多様性を知った七菜は、店をクラフトビール専門店にすることを提案します。「白熊」はクラフトビールとおばんざいの店として新たにスタートを切り、3人は「白熊」でさまざまなビールを飲みながら、それぞれに葛藤を抱えて自分の仕事や生活に向き合います。

ストーリー展開に合わせてクラフトビールやフードペアリングが紹介され、ビール好きにはもちろん、食に興味のある幅広い読者に人気の『こは酔い』。「MAGCOMI」では第1話、第2話と、最新2話分を無料公開中。コミックスは2021年7月に最新刊の第4巻が発売になりました。

元飲み友だちの原作・作画者、料理漫画研究家の監修者、食漫画出版を目指す編集者が出会う!

『こは酔い』は、原作の村野真朱さん、作画の依田温さん、監修の杉村啓さんと、編集担当のアリウエさんのチームで制作されています。
村野さんと依田さんはもともと飲み友だち。2人とも漫画とは全く関係ない仕事に就いていましたが、「一緒に漫画をつくろう」という話になったのもお酒の席だったとか。2017年、京都の町家をリノベーションしたブルワリーレストラン「SPRING VALLEY BREWERY KYOTO」のオープン時に一緒に飲みに行き、お互いにクラフトビールに興味を持ち始めました。

ビールと漫画
『こは酔い』の舞台は京都で、関西の醸造所が多く登場。第1話では登場人物が京都醸造のIPA「一意専心」を飲むシーンがある

一方、プライベートでクラフトビールにハマりつつあったアリウエさんは、編集者としてもクラフトビールの広がりに注目し、「食漫画・お酒の漫画には一定の需要がある。女性をターゲットにして何か企画できないか」と考えていました。『白熱ビール教室』(星海社新書刊)著者で料理漫画研究家の杉村啓さんに背中を押され、ちょうど漫画を持ち込みしていた村野さんと依田さんに出会って『こは酔い』制作がスタートしました。

『琥珀の夢で酔いましょう』制作陣にメールでインタビュー!

今回は、原作の村野さん、作画の依田さん、編集のアリウエさんに、メールでご質問をお送りしてご回答いただき、『こは酔い』の制作過程を深堀りしました。各氏のおすすめブルワリーやおすすめペアリングも教えていただきましたよ!
※太字は「My CRAFT BEER」編集部からの質問項目です。

『こは酔い』制作過程

実際に醸造され、販売されているクラフトビールが毎回登場する『こは酔い』ですが、取り上げるビールはどうやってセレクトしているんですか?

原作・村野真朱さん(以下、村野さん):制作陣で一緒に飲んで決めることが多いです。もしくは、打ち合わせで「最近飲んだあのビールがおいしかった」「このスタイルを取り上げたい」「じゃあそれにしましょう」という感じです。
1話の京都醸造「一意専心」と大根田楽の組み合わせは、監修の杉村啓さんと依田さんと3人で実際に合わせてみて、「おいしい!」「おもしろい!」となったペアリングで非常に印象的でした。
「一意専心」の名前が『こは酔い』のテーマと共鳴すると感じましたし、京都醸造さんが3人で立ち上げられた京都の醸造所であるというエピソードも、主人公たちと重なる点が多く、「1話はこのビールをご紹介したい」となりました。

ストーリーの中でビールと一緒にフードペアリングが提案されることが多いですね。

村野さん:純粋に我々がクラフトビールとフードとのペアリングが好きなんですが、フードの印象の力を借りることで、飲んだことのないビールも味の想像が膨らみやすく、クラフトビールがより親しみやすくなり、楽しみ方が一層広がるなと。

作画・依田温さん(以下、依田さん):ご飯漫画は人気のあるジャンルの1つで、フードの絵が入るだけで親しみやすい空気が出るように感じます。クラフトビールは初心者にとって難しい印象を持たれがちなので、より身近に感じていただけるフードの存在は不可欠ですね。

ビールと料理のペアリングはどんなプロセスで決めていますか?

村野さん:実際に飲んで食べて決めます。個人的に、ペアリングは決まった答えというよりも、おのおのが試行錯誤しながらお気に入りを探していく「過程」がおもしろいと感じています。なので、あまり合わないなと感じた組み合わせも、そのプロセスをそのまま漫画に描いています。

漫画に登場した中で印象に残っているフードペアリングはありますか?

依田さん:印象に残っているのは、やっぱり1話の京都醸造「一意専心」と大根田楽の組み合わせですね。味わいはもちろんなのですが、村野さんと杉村さんとでビールに合うフードを求めて京都をまわった「過程」が楽しかったので、その時の感覚を忘れないようにしています。

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『琥珀の夢で酔いましょう』第1話「Fly Me to the Amber Dream」より

コミックス最新刊の第4巻では、醸造所を見学する場面が出てきますね。取材はどのような段取りで行っていますか?

依田さん:編集のアリウエさんからブルワリーさんへアポを取っていただき、取材当日は基本的にアリウエさんと村野・依田の3人で伺うようにしています。杉村さんにご同行いただくこともありますね。村野さんはストーリーのために取材内容を録音したり、私は作画資料のために写真を撮ったりしています。
最近ですと奈良醸造さんにお邪魔して、いろいろと興味深いお話を伺いました。4巻の表紙は奈良醸造さんの工場をモデルに描かせていただいてます。

ビールと漫画
『琥珀の夢で酔いましょう』コミックス4巻表紙には、奈良醸造の醸造設備が背景に描かれる

村野さん:奈良醸造さんが1人でやっておられるのは本当にびっくりしました。
取材で印象に残ったところは4巻収録の19話で書かせていただきましたので、ぜひ読んでみてください。

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『琥珀の夢で酔いましょう』第19話「詩的私的ベーシック」より

制作陣の推しブルワリー、推しビールは?

取材したり試飲したり、お仕事としてクラフトビールの情報収集をされていると思いますが、『こは酔い』制作が始まってから私生活でのビールとの付き合い方は変わりましたか?

村野さん:冷蔵庫に入っているビールの量は桁が変わりましたね……。家飲みはあまりしなかったんですが、お店で飲むときと印象が変わることとか、忘れてしまっていることもあるので、書く直前にもう一度飲んでおきたい、と思うことが増えて、家でよく飲むようになりました。2020年からは時勢の影響もあります。はやくみんなでワイワイ居酒屋で飲みたいのですが……

依田さん:単純にビールを飲む機会がグッと増えました。好きなブルワリーさんや通販サイトはよくチェックするようになりましたし、冷蔵庫には常にビールのストックがいくつもあります。
コロナ禍以前は友達と集まって、ビールを飲んでもらって感想を聞くという会をやっていました。早くまたやりたいねーと村野さんとしみじみ話しています。

漫画の制作過程で出会ったものでも、プライべートで飲んだものでも結構ですので、今注目しているブルワリーやクラフトビールを教えてください。ペアリングのアイデアもあれば。

村野さん:Omnipolloの「Apollonio Passionfruit Sour」(アポロニオ パッションフルーツ サワー)が以前飲んですごくおいしかったので、昨年の「Omnipollos Tokyo」のオープンはテンションが上がりました。内装もすごく素敵で、今の情勢と遠方在住の身が歯がゆいです。

ビール
Omnipollo 「Apollonio Passionfruit Sour」は飲みやすさを重視して醸造されたサワーエール。アルコール度数は3.5%と低め。パッションフルーツのさわやかな果実感が楽しめる。パッケージデザインもインパクト大
写真:Omnipollos Tokyo
ビール
Omnipolloはウェーデン・ストックホルムのクラフトビールブランド。Henok Fentie(ヘノク・フェンティ)氏とKarl Grandin(カール・グランディン)氏が “Change the perception of beer, forever”(ビールそのものの概念に、常に変革を起こし続ける)というコンセプトで共同設立。ビールのおいしさに加えてデザインのユニークさも人気を集める
写真:Omnipollos Tokyo
店内
Omnipolloのビールスタンド「Omnipollos Tokyo」は、2020年8月、東京・日本橋にオープン。アジア初進出。70年営業していた鰻店の店舗を改装した店内は、外観のレトロ感と打って変わってポップな内装
写真:Omnipollos Tokyo

村野さん:「アポロニオ パッションフルーツ サワー」には、3巻でもご紹介したチャパグリを合わせました。さわやかな酸味でどんどん食が進んでおいしかったです。

漫画コンテンツ
©Masoho Murano, Nodoka Yoda, Kei Sugimura / MAG Garden
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『琥珀の夢で酔いましょう』第15話「楽園で遅い夕食」より。チャパグリは、韓国のインスタントラーメン「チャパゲティ」と「ノグリ」をかけ合わせて作るメュー。韓国映画『パラサイト』に登場したことでも話題になった

依田さん:私は高知在住なので、仁淀川町にあるMUKAI CRAFT BREWINGさんが気になっています。醸造所はかなり山奥にあり、タップルームも併設されているので実際に行ってみたいですね。大自然の中で飲むビールはさぞおいしいだろうな……と想像を膨らませています。

醸造所
MUKAI CRAFT BREWINGは、2020年11月に高知県吾川郡仁淀川町で醸造を開始したブルワリー。醸造所とタップルームは山深い場所に位置し、すぐ側を仁淀川の支流の1つである中津川が流れる
写真:MUKAI CRAFT BREWING
タップルーム
MUKAI CRAFT BREWINGのタップルーム、「BLUE BREW」店内。店名は、仁淀川の清流を表現した「仁淀ブルー」のワードに由来
写真:MUKAI CRAFT BREWING
ビール
MUKAI CRAFT BREWINGのビールは、清冽な仁淀川水系のおいしい水をベースに、できる限り地元の食材を使って醸造される。定番ビール「17」は仁淀川町特産のさつもいもを使ったスタウト
写真:MUKAI CRAFT BREWING

依田さん:どのビールにも仁淀川町産の素材を使用されているとのことですが、中でもさつもいもを使ったというスタウト「17」は特に飲んでみたいです。
勝手な想像ですが、「17」は和菓子が合うのではないかと思っています。コクのあるビールだと思うので、羊羹やみたらし団子などしっかりした味わいのお菓子が合いそうです。芋つながりで、高知名物の芋けんぴもペアリングしてみたいですね。

クラフトビール×漫画、この先の『こは酔い』

クラフトビールを漫画の題材にして良かったことはありますか?

村野さん:クラフトビールはバリエーションが非常に豊かで、いろんな醸造所さんがおもしろいビールを造り続けていらっしゃいますし、楽しい企画やコラボもどんどん生まれているので「ページ数が全然足りない……!」といつも半泣きでお話を書いています。すばらしい情熱にあふれた文化やコミュニティを描かせていただけるのは、本当にありがたいことです。
また、そういったクラフトビールの多様なありかたには、ストーリーやキャラクターをつくるときにいつも問いかけをいただいているように感じています。最後に残る読み味まできちんと演出できているか? 固定観念や偏見で書いていないか? というところは、肝に銘じていかないとなと思っています。

漫画「琥珀の夢で酔いましょう」POP
©Masoho Murano, Nodoka Yoda, Kei Sugimura / MAG Garden

依田さん:作画では、クラフトビールの多様さに合わせてキャラクターデザインも幅を持たせるよう意識しています。いろんな人がいるし、いろんなあり方があるよね、というのは常々気をつけている部分です。

『こは酔い』はどんな読者に読まれていますか? 読者の反応はどうでしょうか?

編集・アリウエさん(以下、アリウエさん):大変ありがたいことに男女・年齢層の垣根を越えて幅広く読んでいただいています。ビール好きさんからの感想はもちろんのこと、この漫画をきっかけにクラフトビールを飲み始めたという感想も多くいただき、とても嬉しく思います。驚いたのは、未成年の方々からも「成人したらまずクラフトビールを飲みたいです!」と感想をいただいたことです。漫画がきっかけになって、読者様の中でクラフトビールが大切なものになっていることはとても喜ばしいですね。

2021年7月14日に発売になったコミックス最新刊・第4巻はどんな展開ですか?

村野さん:醸造所見学など、これまでにないお話もたくさんあります。

依田さん:登場人物も色々なことに挑戦して、物語も広がりを見せています。ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

ビールと漫画
最新刊第4巻でももちろんクラフトビールが数多く登場。隆一が経営するクラフトビール専門店の店名「白熊」と共通する白熊のイラストがかわいい、エチゴビール「のんびりふんわり白ビール」も紹介される

アリウエさん:メインキャラクターである七菜・隆一・鉄雄は、それぞれに成し遂げたいことを持っているものの、現実の私達と同じように決して順風満帆に進んでいるわけではありません。そんな彼女達がクラフトビールを飲んで奮起する姿は、クラフトビール好きの皆様も共感するところがあるのではないかなと思います。
4巻は念願の醸造所見学回を盛り込み、クラフトビールそのものの紹介はもちろんのこと造り手側にも切り込んだ内容となっています。
造り手側の想いを受けて、キャラクター達がどんな一歩を踏み出していくのか。クラフトビールとヒューマンドラマのペアリングをぜひお楽しみください!

最新刊も内容充実!まずは無料配信分をチェック!

『こは酔い』に興味を持たれたら、まずは無料配信分から読んでみるのがおすすめ。配信サイトには漫画に出てくるビールや醸造所に関する情報もあります。ぜひ、マッグガーデンのサイトにアクセスしてみてください。コミックス最新刊の第4巻では、インタビュー内容にもあるように醸造所を見学する回があり、ブルワーご本人が漫画のキャラクターとして描かれます! 気になる方はコミックスもチェックしましょう!

表紙
『琥珀の夢で酔いましょう』第4巻、好評発売中!
©Masoho Murano, Nodoka Yoda, Kei Sugimura / MAG Garden

漫画はおうち時間を盛り上げるコンテンツの1つ。今夜はビールを片手に、ビール漫画を楽しんでみてはいかがでしょうか。

※ ページ画像・POP画像・書影提供/マッグガーデン

【関連サイト】
Webコミックサイト「MAGCOMI」『琥珀の夢で酔いましょう』ページ
『琥珀の夢で酔いましょう』公式インスタグラム
『琥珀の夢で酔いましょう』関連リンクまとめ
株式会社マッグガーデン ホームページ
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