伊勢角屋麦酒とラフ・インターナショナルが語る、選ばれ続けるクラフトビールを実現する秘訣

熱交換、分離、流体移送の分野において業界をリードする製品を提供するアルファ・ラバル株式会社が「お客様に選ばれ続けるクラフトビールを実現する秘訣とは」と題したオンラインセミナーを開催しました。

イベントでは、こだわり抜いた品質のクラフトビールを提供し続ける伊勢角屋麦酒社長の鈴木成宗(すずきなりひろ)氏とクラフトビールの醸造プラント設計・施工のオーソリティーとして名高いラフ・インターナショナル代表取締役の堀輝也(ほりてるや)氏が登壇。モノづくりにおけるこだわりやその実現に向けたライン設計、エンジニアリングのポイントから設備導入まで、選ばれ続けるクラフトビールを実現する秘訣を語りました。

老舗餅店がクラフトビール醸造に乗り出した理由

伊勢角屋麦酒は1997年に二軒茶屋餅角屋本店が立ち上げたクラフトビールブランドです。同店は1575年に創業、1923年にはみそ、しょうゆ醸造を開始した老舗。鈴木氏はクラフトビール醸造を始めた理由として「伝統を守ることの貴重さはわかっていながら、飽きていたんです。ちょうどそのころ、細川内閣の規制緩和で地ビールを作ってもよいことになりました。これに乗らない手はない。新しいことに挑戦できる。生まれ持っての私の好奇心を爆発させられると思いました」とそのときの心境を語ります。また、学生時代は東北大学で微生物の研究を行っていた鈴木氏は「ビールを造れば、酵母と遊べる。いろいろな研究ができる。ただやりたかったからやりました」と話しました。

世界一のビールを生んだ伊勢角屋麦酒のこだわりとよいものづくりの秘訣

伊勢角屋麦酒の立ち上げ当初から“世界一”を目指し、1997年に国際審査員の資格を取得した鈴木氏は、その後、海外製のタンクを導入して、品質にこだわったビール醸造を展開します。

「会社での決め事は世界大会で受賞できるものくらいでないと出荷しないということ。そのために8,000リットルのビールを捨てたこともありました」と鈴木氏は述懐。さらに「ビールは社会的インフラでもないため、そもそもビールがなくても誰も困らない。だからこそ喜んでもらえなければ存在価値はない。喜んでもらうために全身全霊をかけるのは当たり前の姿勢だとずっと言ってきましたし、それが社風となっているように思います」と語ります。

そして、鈴木氏は「よいもの」を作るために必要なものとして「いい原料、いい設備、優秀な人材の採用と教育」をあげました。伊勢角屋麦酒が顧客に選ばれ続けている理由は、妥協のないこだわりにあるようです。鈴木氏は「何一つたいしたことはやっていませんが、そういったところを皆様に支援していただき、ここまで来られたのはありがたいなと思います」と謙遜していました。

伊勢角屋麦酒の規模拡大の経緯

創業当時は本社の神久工場のみで操業していた伊勢角屋麦酒。2018年に新たに下野工場での稼働を開始しました。「創業したすぐのころは缶フィラー(缶充填(じゅうてん)設備)を入れたり、常温流通させるようなビールを造るだけの設備を導入することすらできませんでした」と鈴木氏。ろ過もしない、遠心分離もない、熱殺菌もない。それでもビール供給を続けながらかつ世界的な大会で受賞を果たしていきます。

小規模醸造所は仕込みのプラントのサイズ感が重要

評価が高まると需要も増えていきます。伊勢角屋麦酒では需要に合わせて発酵タンク(ファーメンター)の数を増やしていきました。創業当初の神久工場では1,000リットルから始まって、2,000リットルを3本、5本と少しずつ増設していきます。それでも需要に応えられなくなり、2018年に下野工場に移転したときはファーメンターは4,000リットル、10本から開始。その後も8,000リットルを4本、12,000リットルを6本増設し、2022年には16,000リットルを4本導入します。

「第一次地ビールブームで失敗したところは大体、仕込み装置が大きすぎて仕込みの回数が上がっていかなかったことにあります。売れないから月に2回しか仕込めない。そうなると経験曲線も上がっていきません。仕込みのプラントのサイズ感は一番重要です」と鈴木氏は説明します。

大企業と違い、小規模な醸造所で造るクラフトビールは、ニッチなニーズに答えていかなければならず、多品種少量生産が前提となります。鈴木氏は「そのために大切なことはなるべく小さい設備を高回転することにつきますね。そうしないと多品種生産はできません。なるべく小さな仕込み設備で大量に作ることが望ましいです」と話していました。

伊勢角屋麦酒の展望

伊勢角屋麦酒は2021年に缶ビールを全国で発売しました。鈴木氏は「缶ビールをまずはしっかり皆様に定着させたいというのが喫緊の課題です。私たちは長い間マーケティングも営業もなく伸びてきた奇跡の会社とも言われていますが、今後は会社としてマーケティングや営業部門の強化を図っていきたいと思います。それと伊勢角屋麦酒は“伊勢から世界”へというのが合い言葉になっています。立ち上げ当初は世界大会での受賞だったのですが、これからはどれだけ世界へ出していけるかを掲げています。コロナ禍で海外の物流がほとんど止まっていたのがようやく動き始めたところで、丁寧に海外のインポーターといい関係を長い間、時間をかけて作っていきたいと思います。5年、10年と時間がかかってくると思いますが、願わくば、日本を代表するクラフトビールメーカーになれればと思っています」と意気込みを語りました。

地ビールブーム時代に手探りで麦酒工場の設計に携わったラフ・インターナショナル

ラフ・インターナショナルは2001年に創業。当初は人工降雪機の施工や建物設備といった業務を手掛けていました。ビール工場に関わったのは1997年。銀河高原ビールの沢内工場の設計に携わったのが初めてのプロジェクトでした。

1990年代に地ビールブームが起こりますが、2000年代に入ると多くのブルワリーが淘汰されていきました。堀氏は「2000年にべアードビール(静岡県)のブライアン社長と出会い、そこでクラフトビールの話を聞き、彼がクラフトビールの工場を作りたいと話していたころから”クラフトビール”という言葉で醸造するブルワリーが増えていきました。弊社はそのころから銀河高原ビールのプロジェクトで培った設計スキルをもとに成長拡大していきました」と当時を振り返ります。

同社は現在、ビールの醸造所の設備や仕組みのデザイン、醸造プラント設計・施工、部品供給からメンテナンスに至るまで多岐にわたり業務領域を広げています。

コロナ禍での海外製設備の導入

ラフ・インターナショナルは、最近では伊勢角屋麦酒のイタリア製の缶フィラー(缶充填(じゅうてん)設備)の導入を手掛けました。

堀氏は「鈴木社長からお問い合わせいただき、イタリア製の缶フィラーを導入することになりました。発注当初はコロナ禍で製造が遅れており、500通を超えるメールのやりとりや、出荷のタイミングでも国際輸送の遅れなどがあり、かなり苦労いたしました」とコロナ禍での設備導入の大変さを語りました。

通常であれば本社からイタリア人の技師が来て、現場で調整してセットするところ、当時はコロナ禍で入国ができない状況でした。そこで、伊勢角屋麦酒では、オンラインでイタリアと3日間つなぎ、教えてもらいながら、自社ですべて調整したそうです。

鈴木氏は「海外は遠いため、壊れてもすぐに対応してもらえるわけでもないこともあり、いいものであってもリスクが伴います」とブルワリーとしての立場から話す一方、堀氏は「おかげで充填機の内部構造を知る機会もでき、結果的にいい経験になったと思います」と醸造設備を導入する立場から話していました。

缶フィラー導入にあたって注意した点

缶フィラー導入にあたり、特に気をつけた点について、堀氏は「せっかくできたいいビールが、充填機に入るまでに汚染リスクを回避しながら設計することに注意しました。タンク室から充填機までの距離が長いので、ホース部分をなるべく少なくしたライン設計を心がけました」と説明。

さらに「距離が長いので、どうしてもタンクのビールの温度が充填機にいく間に上がってしまう。そうするとなかなかうまく缶詰ができないので、弊社としてはサニタリー管自体をグリップオールで冷却しながら、ビールを充填機までに送るような設計にしました。そうすることで、タンクの温度とフィラーボールの到達する温度がほぼ一緒のまま比較的低温で充填できるため、ビールを充填するときのロスを軽減することにつながりました。大分苦労はしました」と苦笑いもみせつつ話していました。

クラフトビール業界のこれから

かつての地ビールブームの終焉(しゅうえん)について、鈴木氏が「仕込み装置が大きすぎるブルワリーが多かった」と話したことに加え、堀氏は「あのころは醸造家がいませんでした。当時はビールを学ぶために、海外のブルワーを招集し、1年、2年と一緒にビール造りをやっていくブルワリーがみられましたが、海外のブルワーがいなくなった途端に味が落ちるといったこともあり、それが淘汰の一因にもなったのかなと思います」と言及しました。

それが最近はブルワーのスキルも高くなっていると堀氏は続けます。「日本国内でもいいビールができているなという感じがあります。お客様にいい商品を提供していこうというブルワリーが多くなり、弊社も長年見てきたなかで日本のクラフトビール業界は成長したなと思っております」と声を弾ませていました。

さらに堀氏は「ビールの品質は大事です。品質管理は今後も重要ですし、販路拡大のためにもいいビールを供給していかなければならないと感じています。そして、流通させるために何をしなければならないか、いろいろパターンはあると思います。小規模だと冷蔵流通になると思いますが、ある程度中規模のブルワリーであれば、将来どこまで製造量をあげていくか。たとえば、海外に出していく場合を考えると、どうしても品質管理にあたって、遠心分離機だとかパストライザー(瓶詰め後の殺菌装置)だとか、殺菌して常温でも流通できるようにすることが必要になってくるのかなと思います」と品質保持の重要性について述べていました。

今後もクラフトビール市場は活性化されていくのかについて、堀氏は「インターネットがない時代と比べると、今はいろいろな情報があるので、ブルワーは相当勉強して、いいビールを造っているので、今後のクラフトビール業界は期待が高まるのではと思います」と未来を見据えていました。

醸造所の要望に対してソリューションを提供するアルファ・ラバル

同イベントを主催したアルファ・ラバルは、ビールだけではなく、船舶、化学、半導体、空調など幅広い業種に熱交換器や遠心分離機などを提供しています。

クラフトビールに関しても成長の過程に合わせて、さまざまな課題に対応できるよう、設備のソリューションを提供しています。遠心分離機では、ビールの風味を保ったまま、酵母を素早く分離することができ、また、自然沈降を待たずに短時間で酵母分離ができるので、タンク繰りが早くなり、発行貯酒タンクを増設せずにビールの製造量を増やすことができ、ビールロスも削減できます。スウェーデンを拠点とした外資系企業ながら、日本国内に4か所のサービスセンターを配置し、迅速な設備修理の対応をしています。

当日、MCも担当したアルファ・ラバルの五十嵐氏は「私たちはクラフトビールの醸造に関わるお客様からの要望に対してのソリューションを提供しています。多品種生産、安定供給、流通性の改善、歩留まり向上、安定操業といったことに向けて、お客様のサポートをしていきたいと考えております」とアピールしました。

【関連ページ】伊勢角屋麦酒
【参照サイト】【公式】クラフトビール・地ビールの通販 伊勢角屋麦酒
【参照サイト】Laff International
【参照サイト】Alfa Laval – 熱交換、分離、流体移送

文:梶原誠司、編:秋山哲一

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梶原誠司

梶原誠司

1975年生まれ。神奈川県横浜市出身。好きなビールは横浜スタジアムのベイスターズラガー。好きな野球チームは横浜DeNAベイスターズ。贔屓のチームが勝てば美酒。負ければほろ苦いビール。ビールが先なのか。野球が先なのか。正直、そんなことはどうでもいい。それくらい、球場で飲むビールが好き。