東京都国立市のクラフトビールブルワリー・KUNITACHI BREWERYは、2020年11月の初醸造から1周年を迎えました。国立で100年以上にわたって営業してきた酒販店の系列会社であるこの醸造所。すでに地域にとけこんで、KUNITACHI BREWERYのビールを提供する駅近のタップスタンドは地元の常連客に人気です。醸造長の斯波克幸さんに、地元国立とのつながりや醸造を仕事にするまでのストーリー、KUNITACHI BREWERYならではの醸造スタイルについてお聞きしました。
国立の歴史とともに歩んできた酒販店が、醸造所を開業
東京都の中央部、多摩地区に位置する国立市。KUNITACHI BREWERY(くにたちブルワリー、以下くにぶる)は、JR中央線・国立駅とJR南武線・谷保駅のちょうど中間点くらいのロケーションに醸造所を構えています。
くにぶるは、国立で100年以上の歴史がある酒販店「せきや」の系列企業。「せきや」はそもそも、江戸から明治にかけて国立で栄えた鋳物業をなりわいとした名家・関(せき)氏にルーツのある企業で、この土地との結びつきは江戸時代から始まっているとされます。鋳造によるモノづくりに携わっていた祖先をもつ企業が、お酒の小売業に転じ、再びモノづくり(=ビールの醸造)に回帰。くにぶるは2020年11月に醸造をスタートしました。
醸造所には1000リットル用と200リットル用、大小2種類の設備が備わり、大量生産にも対応しながら、小ロットで多様なビールの醸造も手掛けています。醸造設備の設計を担当したのは、醸造所や蒸留所設計のトップカンパニー・Laff International。綿密な計画のもとに張り巡らされた配管のビジュアルは整然として、デザイン性を感じます。
日本史→発酵→醸造、ブルワー斯波さんがビールにたどり着くまで
醸造長・斯波克幸さんは国立にほど近い府中市の出身。静岡のブルワリー・AOI BREWINGの醸造長を経て、ほぼ地元と言っていい国立に戻り、くにぶるの立ち上げに参加しました。
酒販店「せきや」の歴史もディープですが、斯波さんのたどった道もディープです。
斯波さんの父方は武家出身、母方は公家出身の家柄。そんな生まれから、斯波さんは小さいころから日本史に興味をもっていました。ブルワーになる前、音楽を志しながらさまざまな仕事を経験しましたが、その間も日本史や日本文化への興味は薄れず。勉強を続ける中で日本人の生活に欠かせない発酵食品に注目し、発酵食品造りに取り組みました。味噌などと並んで、アルコール分1度未満という法律の範囲内でお酒を造り、その流れでビールの醸造にも着手するように……
「自分で造ってみたら、醸造が楽しくて。それまでは大手メーカーのビールしか知らなかったんですが、お店でいろんな種類のクラフトビールを飲んでみるようになって、もっと面白くなって。ビールの多様性や食文化としての奥深さに魅力を感じるようになりました」(斯波さん)
仲間から、「醸造士になったら?」とアドバイスをされるほどのめりこんだ斯波さん。知り合いの、そのまた知り合いのつてでAOI BREWINGの社長に会うことになり、それがブルワーとしてのスタートにつながっていきました。
くにぶるの定番ビールは? ケルシュスタイルへの思い
斯波さんがAOI BREWINGに入社してブルワーとしてはじめて醸造したビールは、静岡市美術館とのコラボビール「あわい」でした。スタイルはケルシュ。
「ケルシュは古くからあるスタイルで、本来はドイツのケルンで醸造されたものだけが“ケルシュ”を名乗ることができます。ちょっと変わったスタイルで、エールですが、ピルスナーのようにすっきりした味わいで香りが豊か。上面発酵だけど下面発酵に近いような要素があって、モノとモノの間を表現しているイメージが僕にはあります。美術館も、作品と人との間にある器だと思っていて、人と作品をつなぐ存在である美術館にふさわしいビールを造ろうと考えた時に、僕の中ではケルシュ以外の選択肢はなかったんです」(斯波さん)
くにぶるが開業して、はじめて仕込んだビールもケルシュスタイルの「1926」。「1926」の名は、国立駅旧駅舎の竣工年に由来。このビールはくにぶるのフラッグシップとなっています。
「国立は、古くから栄えた谷保のエリアと、比較的新しく開発された国立駅周辺のエリアに大きく分けることができて、古さと新しさが同居した街なんです。ケルシュは古くからあるスタイルですが、アメリカではホップを大量に使った華やかな香りのケルシュが造られ、新しいエッセンスが入ってきている。そういうところが国立にぴったりで、ケルシュスタイルのビールをレギュラービールにしたいと思っていました」(斯波さん)
醸造の技でホップの個性を引き出した、「Hop Filament」シリーズ
くにぶるには定番のほかに、シリーズもののビールが数種類あります。「Hop Filament」(ホップフィラメント)は、1種類のホップで風味付けし、ホップの個性を楽しむビール。これまでに、人気のホップ品種「Citra」や「Centennial」、ドイツ産の新種ホップ「Tango」などを使ったビールをリリースしてきました。
「『Hop Filament』は、どれだけホップの個性を引き出せるか? をテーマにしています。主役はホップで、麦の配合もホップの個性を出すことに注目して調整しています」(斯波さん)
RAW ALE製法を導入、低アルコールでも飲み応えのある仕上がり
「INDIVIDUAL ORCHESTRA」(インディヴィデュアル オーケストラ)もくにぶるのシリーズもので、醸造所や醸造士以外のクリエイターや専門家とコラボレーションすることで、別の視点からの設計思想を融合させるというコンセプトのビール。現在第3弾までリリースされています。
「INDIVIDUAL ORCHESTRA」第1弾~第3弾(#1~#3)のビールに採用している製法、RAW ALE(ローエール)は、古来からあり、今も北欧などで行われている醸造方法。麦汁を沸騰させずに70~80度の温度帯で保温することで麦芽由来のタンパク質が麦汁に豊富に残り、ホップ由来の苦味を抑えつつ香りを引き出して、低アルコールでも飲み応えのあるビールに仕上がります。日本でこの製法を取り入れている醸造所は非常にレア。
「RAW ALEのような製法は、木桶でビールを造っていたような古い時代から行われてきたとされる醸造方法です。口当たりがやわらく優しくなり、使っている穀物の香りがすごく出ます。今どちらかというと、ビールはホップの飲み物という印象がありますが、RAW ALEで造ると、ビールっていうのは麦の飲み物なんだな、ということがよくわかる。そこが魅力です」(斯波さん)
この先も、ずっと続くブルワリーに。1周年を迎えたくにぶる
2021年11月に1周年を迎えたくにぶるは、記念ビール「2021」をリリースしました。「2021」は定番ビールの「1926」を、よりモダンで現代的にアレンジしたビールとして設計。「1926」に使っている2種類のドイツ産ホップをベースに、同じくドイツ産ホップの「Polaris」をプラスしました。ヘイジーなどの人気のビールスタイルを選択せず、伝統的なスタイルに穏やかな変化を加えることを意識しています。
地元に根付き、長く続くブルワリーにしていきたい、という斯波さん。「次の1年は、今年の経験を活かした挑戦的な1年にしたい」と語ります。1周年の節目には、記念ビールのリリースだけでなく、関連グッズなども販売中です。古さと新しさが共存する街・国立で、くにぶるが新たな文化や歴史を創り出していくのが楽しみです!
国立でくにぶるのビールを飲めるスポット
最後に、国立エリアでくにぶるのビールが飲めるスポットをまとめてご紹介しましょう。
量り売り専門店「SEKIYA TAP STAND」
まず、JR国立駅から徒歩約1分のところにあるビール量り売り専門店「SEKIYA TAP STAND」。このお店はくにぶるのビールやゲストビールを提供しており、プラカップでのテイクアウト、ペットボトル、グラウラーの量り売りに対応しています。スタンド形式で立ち寄りやすく、出来たての新鮮なビールを気軽に買えるショップ。
クラフトビール好きなら通いたい「SAKE-BOUTIQUE SEKIYA」
「SEKIYA TAP STAND」の隣にある「SAKE-BOUTIQUE SEKIYA」では、くにぶるのボトルビールを取扱っています。くにぶる以外の、国内外のクラトビールの品ぞろえも豊富。
ビールと地場野菜を使った食事が楽しめる「麦酒堂KASUGAI」
国立駅・谷保駅からそれぞれ徒歩で15分ほど(近くにバス停もあり)のロケーション、くにぶるの醸造所の隣にあるのが、「麦酒堂KASUGAI」。くにぶるのビールを飲みながら、地場の新鮮な野菜などこだわりの素材を使った食事が楽しめるビアレストランです。客席はゆったりとしていて、個室やテラス席も充実。4種のクラフトビールを試せるビアフライトもオンメニューしています。
くにぶるのビールは各地のビアパブや酒販店でも扱っています。国立発のクラフトビール、見かけたらトライしてみては?
【関連サイト】
KUNITACHI BREWERY
麦酒堂KASUGAI
くにたちNAVI 谷保駅
ふらっと立ち寄れる量り売り専門スタンド!国立「SEKIYA TAP STAND」でビールをお持ち帰り