「世界食料デー」って知っていますか? 毎年10月16日は世界の食料問題を考える日として国連が定める「世界食料デー」で、10月は「世界食料デー」月間です。
世界各地で飢餓や食料問題に関連したイベントが行われるこの時期、ビールの醸造を通じてアクションを起こそうと、静岡県掛川市のKAKEGAWA FARM BREWINGは廃棄されるパンを使ったクラフトビールをリリースしました。代表の杉浦健美さんに、この「廃棄パンビール」の取り組みや、ブルワリーと地元農家との連携などについてオンラインでおうかがいしました。
地元の食材を使ったカフェから始まったKAKEGAWA FARM BREWING
KAKEGAWA FARM BREWING(カケガワファームブルーイング、以下KFB)は、緑茶や果物栽培などの農業が盛んな、静岡県掛川市のブルワリー。東海道新幹線の停車駅・JR掛川駅の程近くで2018年に醸造を開始しました。
創業者の杉浦健美さんは地元出身。2009年に帰郷し、まずは地域の食材を提供することにこだわったカフェ「FUNNY FARM」を開業しました。
「掛川って交通の便も良くて、山も海も、食材もいろいろあって、けっこういい街なんです。でも新幹線は止まれど元々田舎ですし、当時、駅前はすでに破綻状態だと感じていました。なのでまずは駅前に必要な店、自分が行きたい店として、カフェ型の飲食店をスタートさせました。同級生に農家もいるし実家も兼業農家なので、できるだけ地元の食材を使った店にしようと思いました」(杉浦さん)
お店が軌道に乗って2店舗を経営するようになり、スタッフも増えてきた頃、新たな展開として頭に浮かんできたのが醸造所の開設でした。
「カフェや飲み屋としての運営は数年後には終わっていくかもしれないなと感じていました。先の事を考えたときに、特徴があって、お客さんに必要とされる店づくりをしたいと思い、自分たちのブランドとして飲食にフィードバックできる物が作れないかなぁと。それで、最初は農家をやろうと思いました。でも、もっといろいろ考えたんです。それから自分がビール好きだと再認識して。掛川でビールを造ってきた歴史はこれまでにないし、面白いかもと思って醸造所の開設を決めました」(杉浦さん)
杉浦さんは、当時ベルギーで醸造修業中だったブルワー・西中明日翔さんを口説き落として掛川に招致。2018年4月に本格的に醸造を開始し、翌5月からビールをリリースしました。
ビールのブランド名は「カケガワビール」。低アルコールでみかんのような柑橘の香りとモルトの甘味が楽しめる定番のブラウンエール「カケガワクラシック」のほか、特産品のお茶を使った「ほうじ茶エール」、新茶の時期にリリースされる「つゆひかりエール」、地元産の梅を使い、ハウスイーストで発酵させたセゾン「うめセゾン」など、掛川の農産物を活用したビールを造っています。
廃棄農産物を活用したビール造り、お客様参加型の廃棄パンビール
KFBがビール造りに使うのは、基本的に、廃棄になってしまう農産物。
「農産物って出荷できないものがすごく多いんです。B級品や、摘果など生産過程で出たものは地場の直売所やご近所さんに配ったりしますけれど、それでも消費しきれないので、味はA級品と変わらないものが廃棄されるパターンが当たり前にあります」(杉浦さん)
品質はいいのに出荷できない農産物をビールの素材として使うことで廃棄からレスキューするという流れは、日頃の醸造プロセスに取り入れられていて、食材を無駄にせず、おいしいビールに生まれ変わらせる取り組みはKFBが常にやっていること。ですが、10月の「世界食料デー」月間にはさらに特別なプロジェクトとして、廃棄パンを使ったビールを手掛けます。
「『FUNNY FARM』では数年前から、『世界食料デー』月間の時期に、フードロス削減に取り組むイベントを行っています。それにちなんでブルワリーの立場でやれる事といえば、廃棄パンを使ったビールを醸造することかなと」(杉浦さん)
2021年はお客様参加型のイベントにしたいという意向があり、SNSと店舗での張り紙で、各家庭にある食べ残しのパンを持ってきて欲しいと呼びかけました。9月の緊急事態宣言下だったこともあって大量には集まりませんでしたが、常連さん数名が、家庭の冷凍庫に眠っていた食パンを持ちより、近所の飲食店からも食パンが提供されました。
KFB定番のブラウンエール「カケガワクラシック」をベースに、マッシングの段階でパンを投入。パンが詰まってスタックしないように注意を払いながらの醸造だったとか。
「ブラウンエールなので飲みやすく、少し香ばしさを感じる仕上がりです。クラフトビールの味に慣れていない方でも楽しんでいただけるビールだと思います」(杉浦さん)
廃棄パンビール「Turn left over bread into great beer」は、樽、ボトルで全国に発送可能。発売開始は2021年10月下旬ごろから。ボトルビールはKFBのオンラインショップでも販売されます。
カフェ「FUNNY FARM」では2021年10月31日に「世界食料デー」月間にちなんだイベントを開催。ファーマーズマーケットや、形の悪い野菜を使ったチョッピングスープ作りのワークショップなどが企画され、「Turn left over bread into great beer」も提供される予定です。
廃棄パンビールを定番化?さらなる資源循環を目指して
KFBの廃棄パンビールは、今のところは「世界食料デー」月間にちなんだ限定醸造のビールですが、今後は定番のラインナップになるかもしれません。さらに、醸造の過程で発生した廃棄物の有効活用も目指しています。
「今は年1回のフードロスのイベントに合わせて作っていますが、定番で常に廃棄パンのビール造りができないかなと考えています」(杉浦さん)
「それと、ビール造りから出た廃棄物をうまく再利用・循環させることも検討しています。今、モルト粕は軍鶏農家さんへ軍鶏の餌として、フルーツは『FUNNY FARM』で焼菓子にして再利用などやっていますが、もっと違う方法も考えています」(杉浦さん)
醸造所が生む資源循環、ビールで楽しむローカルな文化
「今の恵まれた食生活で常に“もったいない精神”を持つのはなかなか難しいと思います。でも少しだけ、この期間だけ意識したり、気づくきっかけになればいいなと思います」と杉浦さん。
廃棄されるはずの食材を使ったクラフトビールは、各地の醸造所で造られています。「世界食料デー」月間を機に、食材を無駄にせずおいしく活用することに貢献しているクラフトビールの存在に、ちょっと目を向けてみるのもいですね。
杉浦さんはKFBの今後の展開について、「おいしいビールを作ることが一番。メーカーとしてはこれからも廃棄される農産物の活用や循環に取り組んで、地場の特産物を使うことで全国への掛川の発信に少しでもつながれば。クラフトビールは、海外ではローカルで愛される風潮があるんです。それってすごくいいことだし、僕達の目指してるところと同じだと思いました。掛川の人たちから愛されて自慢になるような醸造所にしたいです」と語ります。
地域に根付き、資源循環のハブにもなっている醸造所は、地域住民にとっても生産者さんにとっても、今後さらに大切な存在になっていきそう。「廃棄パンビール」をはじめ、KFBのクラフトビールにますます注目です!
写真提供(注記のあるもの以外):KAKEGAWA FARM BREWING
【関連サイト】
KAKEGAWA FARM BREWING 公式Facebook
「FUNNY FARM」公式インスタグラム
国連WFP 世界食料デーキャンペーン 2021
【販売サイト】
カケガワビール公式通販サイト