委託醸造で造るオリジナルクラフトビール

ドルフィンインダストリー

鹿児島市の繁華街・天文館でクラフトビアバーを営む我々、DOLPHIN INDUSTRYは、常陸野ネストビールで創業10周年記念ビール”SUMMER ORANGE IPA”を醸造し、その様子を以前こちらのコラムでご紹介した

ビール造りの楽しさに触れ、自ら造ったビールを自ら提供する魅力にはまり、ますますブリューパブへと進化させたいと思う気持ちが加速した。が、しかし、急に醸造所を造ることもできないため、第2弾の委託醸造へ取り掛かることを決めた。

今回の委託醸造先は黒酢で有名な鹿児島県霧島市の「福山黒酢株式会社」。かめ壺で黒酢を自然熟成させる会社で、鹿児島では誰もが名前を聞いたことがある有名な企業だ。

2016年はじめに発泡酒醸造免許を取得し、自社レストランでレッドエールとホワイトエールを提供している。研修の一環で工場見学に醸造所を訪れた際に、500Lタンク、260Lタンクの他に120Lの小さなタンクもあり、「この小さなタンクで少ロットでの委託醸造も可能です」とのお言葉を頂いたことがきっかけで、委託醸造をお願いすることになった。以前と違い、鹿児島県内での醸造となるので正真正銘のローカルなクラフトビールができそうだ。また、市街地から車で1時間の場所にあるので、発酵や熟成の様子も見に行くことができる。手塩に掛けて育てることができそうだった。

事前の打ち合わせでスタイルはIPAとし、ドライホッピングをすること、副原料には鹿児島のものを使うこと、レシピ作成も自分たちで行うこととなった。仕込み日は9月27日とした。

待ちに待った当日。まるで遠足にでも行くかのように、ワクワクとした気持ちで醸造所へ向かった。早速、担当者の指示のもと、麦芽を図り、釜へ投入。こまめに糖度を図り、糖化が進んでいるかチェックする。糖化が終わると、スパーシングしながら隣のタンクへ移し、煮沸開始。30分後にビタリングホップセンテニアルを投入。さらに15分後にアロマホップシムコーと、今回縁があって入手した鹿児島県産マンゴーを投入。マンゴーは事前に店で、ミキサーにかけ、漉し布で漉し、冷凍保存し持ってきたものだ。さらに煮沸終了時にアロマホップ2つ目のシムコーを投入した。シムコーホップは嗅ぐとマンゴーのような香りがするため、本物のマンゴーの香りとシムコーホップのマンゴーのような香りがレイヤードするIPAをイメージしたが果たしてうまくいくか否か。

釜

ワールプールを経て、熱交換器を通し、やっと120Lタンクへと移送が完了した。ここでイーストを投入し、本日の作業終了となった。

作業中

これから醸造所へ向けて発展していきたい僕らはまだまだビギナー。だが、しかし夢と希望だけは持っている。その想いを込めてルーキーIPAと名付けた。

仕込みが終わってから数日後、発酵終了時とドライホップ投入時との2回、実際に足を運び、自ら試飲をして、経過を見守ってきた。だんだんと色も落ち着いていき、味も熟成していく様子が感じ取れた。

ルーキーIPA
ルーキーIPA

そしてついに、醸造日よりちょうど一ヶ月後の初回リリース日2017年10月27日は店内満席。ルーキーIPAは飛ぶように売れ、瞬く間に樽は空になった。嘘くさくない本物のマンゴーのフルーティさが香り、ガツンと苦いIPAに仕上がった。お客さん同士の会話と、楽しそうな笑顔の手には、僕らの造ったビールがあり、それを飲み、語り、酔う。

これまでに何杯と提供し続けてきたように国内外のクラフトビールをサーブすることと、自分たちの造ったビールをサーブすることとやっていることは同じなのに、後者はやはり何か胸を熱くするものがあった。同時に、まだ見ぬ人たちのいる見知らぬ場所へ提供することができたら最高なんだろうなということも再確認した。

僕らは進化し続けなければいけない、変わらないために。

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若松 達彦

鹿児島市の繁華街・天文館でクラフトビールとハンバーガーの専門店DOLPHIN INDUSTRYを営む。サーフィンとカリフォルニアをこよなく愛す。出版社に勤めていたサラリーマン時代の経験を活かし、飲食店店主ならではの目線で執筆中。

よなよなの里