いつだったか、居酒屋で『日本の水』という商品を目にしたことがある。六甲とか南アルプスとか場所の指定もない、ブレンドした様子もない。だがしかし、「日本の水」と高らかに宣言している。「琴欧州」という響きに似たくくりの広さに戸惑いながらも飲んでみたところ、これと言った特徴のない軟水だった。

バンコクのメニューでは「日本味」という表記を目にしたことがある。「何だそれ!?」と驚いたが、こういった雑なくくりって意外と世の中多い。タイ風、アメリカンBBQ、イタリアンソース…当たり前のように存在している。この際、イタリアのアンチトマト的側面などは完全に無視されるのである。
ビールの世界でも雑なくくりというのは存在している。例えば、
「アメリカン」と付いたら、「ああ、ホップが強いんだろうな」と思うし、
「イングリッシュ」を冠していたら、「モルトが強調されてるんだろうな」、
「ベルジャン」だったら、「ベルジャン酵母使ってるのかな?」
「ジャパニーズ」だと、「何か日本産のもん使ってる?」 といったん判断できる。
今回チョイスしたアメリカ・イリノイ州シカゴはREVOLUTION BREWINGの「A LITTLE CRAZY」というアイテムは「ベルジャンスタイルペールエール」を名乗っている。アメリカ人が造るベルジャンとはどんなものだろう?と気になり、まだ明るさの残る夕刻、仕事終わりに開栓してみた。

グラスに注いでいる途中からもうマスカットのようなパッションフルーツのような香りが漂い始める。これはホップ由来だから、いわゆるビールの“アメリカンな”側面。で、ベルジャン酵母のニュアンスも感じられるのかな?と思いきや、乾いた風にかき消されて最後の声も聞こえない…ではなく、ホップの香りにかき消されてわからない。一般的に、ベルジャン酵母はフルーティーさを特徴とする酵母だ。
ただ、ベルジャンとかスタイルとか抜きにしてシンプルに苦くて美味い。後味の苦みがうっすら舌に残り、程なくして消えてゆく。アルコール度数は6.8%とやや高めだけど、ぐいぐい飲めてしまう。「これはIPAだよ」と言われて渡されたら、「ど真ん中のIPAだね」とドヤ顔で答えてしまいそうなくらい「ベルジャン」の要素は薄いから「ちょっとおかしいね」と思うのだけど、「あ、だからA LITTLE CRAZYなのかな?」と一人納得した。
このビールを造ったREVOLUTION BREWINGのトレードマークと言えば握り拳。

「ビールの世界に革命を起こしてやるぜ!」と高らかに宣言しているかのようである。実際、公式HPを見てみると、アーカイブに200種類くらいのビアスタイルがズラリと並ぶ。その全てにきちんと狙いやコンセプトがあって、「こ、こやつ、本気だな…」と納得させられる。
アメリカには5,000以上のブルワリーがあるけれど、このわずか1カ所のブルワリーのビールを全て飲むことすら難しい。飲み手の僕は「革命だ!」なんて肩肘張らず、今後もゆるやかにビールを楽しませていただこう。

