コロナ禍で数々のビアフェスがキャンセルとなる中、絶対に中止にならないイラストの中のビアフェス「イラスト乾杯フェス」が開催されました! イベントを企画したビアイラストレーターのイソガイヒトヒサさんに、この新しいフェスを思いついたきっかけや、セカンドバッチのビールを発売するほどに盛り上がったプロセスなどをお聞きしました。
似顔絵で参加するイラスト上のビアフェス、「イラスト乾杯フェス」
ビアフェスに行きたい! けれど、なかなか自由に外出できなかったり、イベントそのものが開催されないケースもまだまだありますね。オンラインイベントも定着して、もはや普通にビアフェスに行っていたのは遠い昔のことのようです。振り返れば、国内で新型コロナウイルス感染拡大防止のためにイベント開催を自粛する動きが出始めたのは2020年3月ごろ。その後の緊急事態宣言でイベント業界や飲食業界はさらに大きなダメージを受けました。
「当時、よく行く都内のビアバーが、普段はネガティブな投稿なんかしないのにぽろっと弱気なツイートをし始めたんです。その時、これは本当に危ないのかなという空気をなんとなく感じました」と、ビアイラストレーターのイソガイヒトヒサさんは言います。

©イソガイヒトヒサ
イソガイさんは、そんなビール業界のために「何かできないか」と模索し、似顔絵で参加するイラスト上のビアフェスを企画。感染状況が深刻でも中止にならない新しいスタイルのビアフェスに、最終的に111人が参加し、協力店舗への寄付につながりました。
イラストをラベルにした缶ビールはセカンドバッチまでリリースされ、盛り上がったこの新しいスタイルのイベント。思いついたきっかけは何だったのでしょうか。
イメージの原点は『ウォーリーをさがせ!』
イソガイさんは、ビールメーカーのアートワークや広告、ビール関連ウェブサイトのイラストなど、ビールにまつわるお仕事を中心に活躍されている“ビアイラストレーター”。雑誌『ビール王国』で執筆している連載「〆のビール」では、ブルワーやブルワリーオーナーなどビール業界人の似顔絵を描いています。ビアフェスの会場でイソガイさんに気付いてくれた来場者に似顔絵を描いてあげることもあるとか。
「これまでたくさんの似顔絵を描いてきて、漠然とですが、絵本の『ウォーリーをさがせ!』のような、人がたくさんいる密度の高い絵を作品として描いたら面白そうだなと思っていたんです」(イソガイさん)
もともと描きたいと思っていたイメージと、ビールが好きな人たちの似顔絵を集めて、1枚の絵の中でビアフェスを開催するアイデアが重なり、イソガイさんは、外出自粛要請や緊急事態宣言下の時短営業で苦戦しているビアバーに寄付する企画として「イラスト乾杯フェス」を思いつきます。
「それで、インスタグラムのストーリーズで僕のイメージを簡単な文章で書いてみたら、ビールが好きな人たちからリアクションがすぐにきたんです」(イソガイさん)

写真:@YUBOPHOTO
フォロワーからの好意的なコメントが寄せられる中、何か手伝いたいので一緒にやらせて欲しい、と即座に参加表明をしたのが、不定期で立ち飲みイベントを開催している有志のグループ「立ち飲み 余市」のメンバーでした。「今回のフェスは彼らがいたから走りきれました。頼もしかったし、一緒にやっていて本当に楽しかったです」(イソガイさん)。
「立ち飲み 余市」が過去のイベントでつながりを持っていた、東京・奥多摩のブルワリーVERTEREとクラフトビールを提供している高円寺の銭湯「小杉湯」、イソガイさんの通っている代々木のビアバー「Watering Hole」と池袋「Two Fingers」に声をかけ、協同でプロジェクトがスタートしました。
「イラスト乾杯フェス」ってこんなフェス
「イラスト乾杯フェス」のプロジェクトの概要やプロセスを、イソガイさんの解説イラストを引用させていただきながら紹介しましょう。
イソガイさんが、写真から似顔絵をライブペインティング!
参加者は、2020年5月から7月にかけてPeatixで募りました。参加者はチケットを購入して乾杯ポーズの写真を送り、写真をもとにイソガイさんが似顔絵を制作。動物も参加可能で、一緒に暮らす犬や猫と乾杯ポーズをとった写真を送ってくる方も。


数カ月かけて描かれた絵の制作過程は111人全員分、イソガイさん個人のインスタアカウントで日時を決めてライブ中継され、参加者は自分の似顔絵が描かれる様子をリアルタイムで見ることができました。描く方も見る方もビールを飲みながらのライブで、「今日は何のビールを飲んでるんですか?」などのやりとりも。それも1つのイベント的な楽しさを生み出しました。
乾杯ポーズのイラストでフェスに参加、オリジナルビール販売
似顔絵はイラスト上の会場にレイアウトされ、1枚の絵の上で開催される「イラスト乾杯フェス」が完成しました。


©イソガイヒトヒサ
イラストは500ml缶ビールのラベルとして印刷され、VERTEREが醸造したビールのパッケージに。ビール名は「Dahlia」(ダリア)で、スタイルはHazy Session IPA。ファーストバッチは900本限定のリリースでした。岩手、東京、茨城、静岡、愛知、福岡など各地のショップやバーで販売され、すぐに完売となりました。
協力店舗・スタッフに売り上げの半分をシェア
イラスト上には協力店舗の屋台やキッチンカーが描かれています。この企画の売り上げの半分は協力店舗に寄付されました。


写真:イソガイヒトヒサ
念願のリアルイベントを開催!
「イラスト乾杯フェス」オリジナルラベルのビールができ上がったのが11月下旬。その時期は緊急事態宣言も解除されイベントの規制も緩和されていたので、12月26日、東京・下北沢の「下北線路街空き地」で立ち飲みの屋外イベントを開催。「イラスト乾杯フェス」のビールをお披露目しました。


写真:@YUBOPHOTO

写真:@YUBOPHOTO
「イラスト乾杯フェス」の缶ビール、セカンドバッチリリース開始!
オリジナルビールのファーストバッチは早々に完売し、自分の似顔絵が描かれたビールを購入しそびれてしまった人もいました。そこで、2021年1月、「Dahlia2」として、スタイルをHazy IPAに変えてセカンドバッチのリリースが決定。販売店舗を大幅に増やして展開しました。


セカンドバッチの「Dalia2」。ゴクゴク飲めるHazy IPA
写真:My CRAFT BEER編集部
イラストのフェスだからこそ、楽しい!
人気イラストレーターに似顔絵を描いてもらえることだけでも貴重な機会で、しかもビールのパッケージになって残るというのも嬉しい。イラスト上で開催するビアフェスという新発想の試みで、「イラスト乾杯フェス」はリアルのイベントとはまた違った付加価値のある企画になりました。
イソガイさんが想定していなかった展開もありました。遠距離恋愛で、コロナ禍になって自由に移動できず会えなくなったカップルがこのイラスト上で一緒にフェスに参加するケースや、動物との思い出作りとして参加する人も。「そんな風に楽しんでくれる人もいるんだなと。111人分の似顔絵を描くのは大変でしたが、やってよかったなと思いました」とイソガイさん。

写真:@YUBOPHOTO
「イラストレーターの仕事は、リアクションが欲しくなることがあるんです。とにかく忙しいけれど、どこで誰が喜んでいるのかわからない、という仕事を続けていると気持ちが疲弊します。似顔絵のいいところは、描いている相手の反応がわかるところなんです」。協力店舗や「立ち飲み 余市」のメンバーと交流できたこともイソガイさんにとっていい経験だったそう。ボランティアではなく、マネタイズの部分をさぼらずにきちんと組み込んで寄付につなげ、しかもエンタメとして成り立たせたことも重要でした。
コロナ禍の窮状から生まれた「イラスト乾杯フェス」。今後もしまたこういう企画をやるなら、参加者と一緒にバレルエイジド等で仕込んだビールを10年ぐらい後に飲むようなプロジェクトもやってみたいと、イソガイさんはさらに新しいことを考え中。ビールの楽しみ方やビアフェスのスタイルがどんどん進化していくのが楽しみです。
【関連サイト】イソガイヒトヒサさんホームページ
【関連サイト】イラスト乾杯フェスインスタグラム
【関連サイト】「立ち飲み 余市」インスタグラム

