キンシ正宗株式会社は1781年(天明元年)創業の、京都市伏見区にある日本酒の生産・販売を行う老舗の会社です。ビール醸造の規制緩和が行われ、日本全国から多くの地ビールが誕生した1997年に「京都町家麦酒」を立ち上げており、京都市内の醸造所のなかでも早期にクラフトビール業界に参入しています。創業時から女性が中心となり、クラフトビール醸造を始めたキンシ正宗。女性醸造家の感性が光る「京都町家麦酒」の魅力に迫ります。
女性醸造家がつくる「キンシ正宗」のクラフトビール
1995年、日本酒離れが加速し日本酒醸造以外に活路を求めていた先代社長が新たな事業として取り組んだのがビール醸造。自宅でも気軽に楽しめるビールを生産することで、ビールから日本酒にも興味を持ってほしいとの思いがありました。新規事業を始めるにあたり、白羽の矢が立ったのが新卒で入社した三好ちづ子さん。現在も工場長として活躍する「京都町家麦酒」の屋台骨です。
1997年、新卒で入社した三好ちづ子さんはクラフトビール醸造の新規事業を任されました。大学時代にドイツ語を学んでいた経験と「京都生まれの女性がビールをつくる」というコンセプトから「京都町家麦酒」が誕生しました。日本酒もビールも“醸造”という点では同じ。これまでの日本酒醸造技術がビールづくりに生かされています。京都町家麦酒のシリーズのなかで、最初に醸造されたのがケルシュスタイルの「かるおす」。京都とケルン(ドイツ)が姉妹都市であること、すっきりとした味わいが京料理と相性が良いことからケルシュが採用されました。
千年以上湧き続ける京の名水「桃の井(もものい)」
キンシ正宗のビール醸造の特徴は、堀野記念館内の湧き水「桃の井」を使用していることです。桃の井は京の三名水のひとつ「染井(そめのい)」と同じ地下水脈で、香りが惹きたつ軟水です。元々は日本酒醸造に使用されていましたが、ビールにも活用することによって、「キンシ正宗」らしい上品で繊細なビールが仕上がります。ケルシュやドライスタウトなど、すっきりとしたビールスタイルに相性のよい水です。
料理に寄り添うビールとペアリング
京都町家麦酒は「和食に合うビールづくり」にこだわっています。キンシ正宗は創業以来、京都の料理屋と共に歩んできました。ビールづくりにおいても、料理との相性を追求し、料理に寄り添うことを意識しています。ビール自身の個性の強さではなく、料理との相性を第一とするビールづくりは、女性醸造家の感性が引き立っています。
かるおす(ケルシュ)×豆腐料理
「かるおす」はビール醸造の参入当時からのロングセラー銘柄です。ドイツのケルン地方でつくられているケルシュのスタイルで、爽やかなホップの香りと鼻から抜けるやさしい苦みが特徴です。のどごしがまろやかで、軽い口当たりが淡泊な和食とよく合います。
三好さんのおすすめの相性のよい料理は「豆腐料理や白身魚など」の和食です。冬は湯豆腐がおすすめ。ふわふわの豆腐に抹茶塩を少量かけて「かるおす」と楽しむと、絶妙なコンビネーションに驚くはずです。豆腐はぜひ京都産を!豆腐の角が取れるくらい煮込むとちょうどよい食べ頃です。
まったり(アルト)× お漬物
「まったり」はドイツのデュッセルドルフ地方を発祥とするアルトのスタイルで、深いコクが特徴です。しっかりとした味付けの料理と相性がよく、肉料理とのペアリングが一般的です。三好さんのおすすめのペアリングは京漬物。しば漬け、すぐき漬け(カブの一種)といった京都産の漬物と合わせると、味わいがまろやかになります。冬の晩酌にぴったりな組み合わせです。
くろおす(ドライスタウト)×抹茶スイーツ
「くろおす」は焙煎麦芽の深いコクがありながら、すっきりしたのどごしが特徴的なドライスタウトです。キレもよく、日本人好みの味わいです。くろおすとペアリングを楽しむなら、スイーツがおすすめ。抹茶スイーツやアイスなどとあわせると、ほうじ茶のような感覚で楽しめます。ドライスタウトは桃の井の湧き水との馴染みがよく、すっきりしたキレのなかに、甘さが感じられます。
定番銘柄のほかにも、はんなりIPAと京都金鵄麦酒の2種類が限定醸造されています。IPAは一般的に苦みが強いのが特徴ですが、桃の井の軟水によって、まろやかでやさしい仕上がりになっています。はんなりIPAはおかきや煎餅などの米菓と合います。
「京都はんなりIPA」はコロナ禍に誕生した新商品で、アルコール度数4%のライトなビールです。金色のゴールデンビールは乾杯ビールとして、シャンパンのように飲んでほしいという想いが込められています。お通しや先付などの前菜とのペアリングがおすすめです。
京都町家麦酒を飲める・買える場所
京都町家麦酒は堀野記念館のスーべニアショップ(土産店)のほか、京都駅周辺の土産店や市内の百貨店で購入できます。またドラフト(樽生)が飲みたい方は清水寺近くの「利き酒処336」で楽しめます。キンシ正宗のクラフトビール(樽生)を常時3種類おいています。小さい土産サイズは京都市内のホテルで取り扱いが増えており、宿泊先での飲み比べ用として人気が高いそうです。
三好ちづ子さんからMy CRAFT BEER読者にひとこと
京都町家麦酒では、お客様のニーズを第一にビールづくりに励んでいます。「呑んでいただける人こそのビールづくり」ぜひ京都町家麦酒を試していただき、また京都に来て思い出していただけたら嬉しいです。これからもお客様に喜ばれるビールを作り続けていきます。
まとめ
今回の取材で心に響いた「料理に寄り添うビール」という言葉。この奥ゆかしさは女性ならではの表現で京都らしい柔らかさと繊細さを感じました。日本酒の老舗メーカーであり、京都の料理屋さんとの深いつながりがあるからこその料理とのペアリング。実際に三好さんおすすめのペアリングを自宅で試してみると、その絶妙な相性に驚きました。料理を惹きたてるビールは、食卓をより深い味わいにしてくれます。京都町家麦酒は京都の奥ゆかしさを感じられる素敵なクラフトビールです。
ブルワリー情報
ブルワリー名:京都町家麦酒醸造所
国:日本
所在地:京都市中京区堺町通二条上ル亀屋町173
電話:075-223-2071(堀野記念館)
運営法人:マツヤ株式会社
直売所:堀野記念館 AM11:00~PM5:00(受付時間PM4:30まで) 火曜定休
※記念館は休館中。スーベニアショップのみオープン。
【公式サイト】京都町家麦酒公式サイト
【オンラインストア】京都町家麦酒公式オンラインストア