速報の通り、ワールドビアカップ(WBC)2024で受賞した国産銘柄は8本だった。受賞銘柄と聞くと飲みたくなってくるのは自然なことだ。「普段から飲めばいいのに」と思う人もいるかもしれないが、日々生まれては消える銘柄のすべてを飲んで自分の好みの銘柄を探すのは不可能なので、受賞銘柄の中から好みを探っていくのは、片っ端から飲んでいくよりよっぽど効率が良い。
受賞の基準を疑う自由もあるだろうが、「世の中のうち複数人が良いと思っている」という事実は強力である。しかもその「複数人」は多分、よく飲み慣れている。しかし一方で、「質は良いかもしれないが、好みではないから、次は注文しない」という判断をするのは当たり前であり、ほとんどの人は考えるより前にそうしているだろう。
そして何より、受賞ブルワリー関係者・取引先が喜びにわいている中でビールを味わうのには、他に代え難い楽しさがある。
受賞銘柄を飲むべき理由、いや、言い訳はこんなところだろうか。良かったら活用していただきたい。
筆者は受賞が分かった4月25日午前中から、受賞銘柄を飲みに行く計画を立て始めた。すると首都圏を拠点とするなら、半分くらいはありつけそうだと分かった。
横浜ビール
みなとみらい線・馬車道駅と京浜東北線・関内駅の中間くらいにある。ジャーマンスタイルアルトビア部門で「アルト」が銀を獲得した。伝統的なアルトらしく(だからこそ受賞したのだろうが)茶色で、穏やかな香ばしさとごくわずかにフルーティーな香りがあり、口に含むとしっかり苦い。アルトの中でも苦味が強い方だ。スタッフの何人かと話すと「ずっとつくり続けてきた銘柄で受賞できたのが本当にうれしい」と口をそろえる。
横浜ベイブルーイング
横浜ビールから歩いて京浜東北線の高架線をくぐって10分弱で行ける。フルーツウィートビール部門で「ゆずヴァイス」が金を受賞(同部門ではBEPPU BREWERY「かぼすセゾン」が銀)。昨年秋に初めて醸造した銘柄で、ヴァイツェンを基に神奈川県産のユズを使用している。今回は2回目の醸造で、初回と比べてユズの特徴を強くしているという。確かに、ヴァイツェンらしい香りはあまり感じず、ユズの香りや爽やかな酸味をはっきり感じる。しかし「ユズジュース」らしいわけではなく、香りやまろやかな口当たりなどヴァイツェンらしい特徴がユズと融合している。
漬けカツオと合わせると、「カツオと柑橘」という食べ慣れていて美味しく感じる味わいが口の中で完成した。社長は授賞式に出席し、スタッフは午前中から店を開けて常連客と授賞式をストリーミングで視聴して喜びを爆発させたという、筋金入りである。
デビルクラフト
横浜の関内から意外とアクセスが良いのは、デビルクラフトの自由が丘店である。馬車道駅まで歩いて東急東横線直通のみなとみらい線に乗って最寄りの自由が丘駅まで行くと、40分ほどでたどり着ける。デビルクラフトはオートミールスタウト部門で「ブラックイグニアス」が金賞。毎日更新されているタップリスト(樽のビールのメニュー)にこの銘柄が載っていたので来ることができたとスタッフに伝えると、「正直、『誰も見ていないんじゃないか』と思いつつ更新し続けてきましたが…」。こうした地道な積み重ねが「緊急時」に生きるし、担当者は称賛されるべきである。
ビールはオートミールらしいまろやかさがありつつも、口当たりが重くなりすぎずに杯が進む。枝豆と合わせると、ピルスナーと合わせるときのようなうま味の強化ではなく、まろやかさの強化が起きてちょっと変わった楽しみ方ができた。
キリンビール
最も簡単にありつける受賞銘柄はこの「スプリングバレーシルクエール」だ。昨年のジャズベリーに続き、この銘柄が受賞したことも実に結構なことだと思う。なぜなら、クラフトビールと僭称して売っていることは、審査基準に入っていないからである。クラフトビールという用語・概念には、大手メーカーによるビールが客観的に含まれてきたことはなく、むしろ「大手以外」という言わばカウンターカルチャーとして確立されてきた。
しかし、特に日本ではキリンを筆頭に「大手のクラフトビール」といった矛盾した表現を使われており、混乱を引き起こしている。言葉の成り立ちを考えればこうした表現はあり得ず筆者は困惑しており、「WBCを主催しているブルワーズアソシエーションはクラフトビールの業界団体なので、WBCで受賞したビールはクラフトビールである」という珍説・迷言が出てきてもおかしくないと危惧している。念のために確認しておくと、WBCの出品に製造規模や経営の独立性は問われず、基本的にどんなビールでも出品できるのである。なお缶を買って帰るなり、自宅に送られてくる場合には、到着してすぐは中身が揺らされて炭酸ガスが落ち着いていないので、飲むのは翌日以降が推奨される。
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長谷川小二郎
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