男とビールはパンクであれ

CAFE&BAR 旅人の家

「いやあ、僕、ビール苦手なんですよ。」

大阪ミナミのとあるビルの2階にある、さまざまな種類のビール瓶がこれでもかと並んだカウンターの前で言うのもなんだかなと思いながらも、受け答えをする。ずらっと横一列に並んだビンたちは、どこか隊列を成しているようにも見えた。こんなことを言うと、襲いかかってくるかもしれない。

襲いかかってきたときの弁解のために言うが、こんなことを言ったのも隣に座る松井という男が、飲んでいたクラフトビールを僕にすすめてきたせいである。僕と同い年だが、髪は長く、伸びた髭は放置され、とてもじゃないが同い年とは思えないし、まともな企業に勤めているとも思えない。ふらっと寄った別の飲み屋で、とある出来事があって知り合いになって以来、月に一度ほど一緒に飲みに行くようになった。とある出来事の話は、話し出すと長くなってしまうことと、松井がうるさいので別の機会にとっておくことにする。

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「苦手苦手って、近頃の若いやつはなんでもかんでも苦手にして逃げすぎなんだよ。多少苦手でも、それを味わわないと意味がねえよ。」と持っていたビンをくるくると回しながら言う。

「近頃の若いやつはって、松井も俺と同い年じゃないか。」

「年は一緒でも、年季が違うんだよ。松は長生きだからな。言うだろ、桃栗三年柿八年、松千年って。」

松は長生きなんだ、というのは松井の常套句のひとつだった。なぜかへんてこなその理屈も、松井が言うと妙な説得力がある。

「松は長生きだから美味いと感じるかもしれないけど、俺はまだ若いから美味いと感じないんだよ。松くらい生きて美味いと思ってから飲めばいい。」

「なんで上手に演奏しなくちゃなんないんだよ。音楽じゃなくて俺たちはパンクをやってるんだ。上手くなるまで待ってたらジジイになっちまうよ。」

「なんだよそれ。というか、誰の言葉?」

「ジョーイ・ラモーンも知らねえのかよ。パンクロックの風上にもおけねえやつだなお前は。」

「風上に置いてくれなんてお願いした覚えもないし、俺は愛煙家だから、風下の方が人様に迷惑をかけなくて済むよ。というより、どうして急にパンクロックの話なんだ。」

「俺が今飲んでるのがパンクIPAってクラフトビールなんだよ。知ってるか?このビールを作ってるブリュードッグって会社はまさにパンクだぜ。戦車を使ってパフォーマンスをしたり、動物の剥製にビールを入れて売ったりもしたんだよ。動物愛護団体もカンカンだ。どうだ、パンクじゃねえか。」

「パンクかどうかは分からないけど、確かにいろんなところからクレームが飛んで来そうだ。」

「この名前も、かつてパンクがポップスを吹き飛ばしたように俺たちもビール文化をぶっ潰すって意味でパンクってつけてるらしいぜ。スクラップ&ビルドなんだよ、世の中は。新たに作るには、壊すしかない。」

「その理論でいくと、パンクもそのうち潰されるけど。」

「細かいことはいいんだよ。ようするに、うまくなるまで待ってたらジジイになっちまうんだって。美味いと思える頃には、パンクはもう潰されちまってるかもって話だ。」

「音楽とビールは違うし、なにより俺は美味いと思えるようになってから飲みたい。」

「屁理屈ばかりだな、お前は。まあ、つべこべ言わずに飲めよ。飲んだら分かる。迷わず飲めよ、飲めば分かるさ。」

屁理屈はどっちだ、と思ったものの口にはせず、松井が飲んでいたビンに手を伸ばす。 グレープフルーツのような風味と、苦味が一緒にやってくる。正直、想像していたビールとは違った味で、奇しくも普通のビールよりも僕は美味しく感じた。 どうだうめえだろ、と囃し立てて来るが、正直に出すのが少し悔しくもあり、なんともいえない表情で返す。
 
「隊列を成しているビールの軍からこいつを選んだのは、やっぱり美味しいから?」

「それもそうだが、男はやっぱりパンクだろ。こんなに日本を感じないような世界観の店で、普通の酒なんて飲んでられるかっての。」

そんなお前は日本を代表する松の木じゃないか、と言いたくなったが、 反論されるのが目に見えていたので、代わりにビンの残りを全部飲み干した。

どうだパンクだろ、と言わんばかりに松井の方を見ると、それでこそパンクだ、とにやついた顔をした。

〈 飲んだのはこのクラフトビア! 〉

パンクIPA

パンクIPA

2007年にスコットランド創業し、過激なマーケティングとレベルの高い品質で若者を中心に高い人気を誇るクラフトビールメーカー、ブリュードッグが製造するフラッグシップIPA。

普通のビールに比べて、大量のホップを使用し、爽快なグレープフルーツのような香りが特徴。英国や北欧で最も人気のあるクラフトビールの1つであり、そのファンはヨーロッパに止まらず、日本でもスーパーやコンビニでも購入でき、六本木にはオフィシャルバーもある。

パンクIPAの他にも、アルコール度数55%のビール「The End of History」や、世界初となるバイアグラ配合のビール「Royal Virility Performance(ロイヤル・ビリリティ・パフォーマンス)」など 独特なラインナップを展開している。

・ブリュードッグバー 公式サイト
URL:http://brewdogbar.jp

〈 飲んだのはこのお店! 〉

CAFE&BAR 旅人の家

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食べログURL:http://brewdogbar.jp
〒542-0083 大阪府大阪市中央区東心斎橋2丁目8-5 ニューグランドビル 2F
 
独特のゆるい雰囲気を醸し出す、隠れ家のようなお店。30種類を超えるビールの種類が手頃な価格で飲める。バックパッカーや旅行好きが集まる、日本を感じないが世界を感じるお店。 店長であるチューリンさんの優しく味のある雰囲気に、常連になる人が多数。筆者も常連です。

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白川 烈

白川 烈

1994年生まれ。 小中高でのいじめや自殺未遂など自身の経験をキッカケに、 20歳の頃より全国各地での講演活動やエッセイを通した執筆活動を行なっている。”なんてことのない ただの日常のなかにこそ、普遍的でたいせつなものが佇む”をコンセプトに「 #DAYSTORY 」というエッセイ集を執筆中。基本的に大阪に生息中。関西の方、ぜひクラフトビール飲みにいきましょう。
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