ビール醸造で生まれる副産物・麦芽粕は、その多くが産業廃棄物として処分されています。実は栄養豊富で、工夫次第でおいしく食べることができる麦芽粕を食材としてアップサイクルしようと、京都のブルワリーやデザイン会社が中心になって「麦芽粕再利用プロジェクト」をスタートし、麦芽粕ブランド「1/6」(ONE SIXTH、ワン・シックスス)を立ち上げました!
そもそも麦芽粕をどうやって活用しているのか、どんな商品に生まれ変わるのか。2024年1月15日(金)まで続くクラウドファンディングの内容も含めてレポートします。
※アップサイクル=捨てられるはずの素材に付加価値を持たせ、新たな製品にすること
栄養豊富な麦芽粕をおいしく活用「麦芽粕再利用プロジェクト」
麦芽粕(モルト粕、ビール粕)は、ビール醸造の過程で麦汁をとった後に残る麦芽の搾りかす。特に都市部のクラフトビールブルワリーでは、産業廃棄物としてお金を出して処理する事例が多い素材です。この麦芽粕を再利用することでブルワリーのゴミ処理費用を抑え、「ゼロ・ウェイスト」を実践しようとはじまったのが「麦芽粕再利用プロジェクト」です。
「麦芽粕再利用プロジェクト」を運営するのは、京都市下京区の株式会社翠灯舎。代表の田中郁后さんはおもにデザイン業やイベントのプロデュースを手掛け、障がいのある方が作成した製品を販売するセレクトショップの運営にも携わっています。
田中さんはデザインの仕事を通じて京都のクラフトビールブルワリーと出会い、その流れでビールイベントのプロデュースなども行うようになりました。コロナ禍に入って飲食店の営業が縮小を余儀なくされビールの売上も落ちる中、醸造所の力になれないかと考えて見つけたのが醸造工程で廃棄されている麦芽粕でした。
麦芽粕ブランド誕生!ツルツルの麦芽粕麺、麦芽粕粉など販売予定
「麦芽粕再利用プロジェクト」の活動として、田中さんは2023年10月に麦芽粕の商品ブランド「1/6」(ONE SIXTH、ワン・シックスス)をローンチ。
2023年12月時点で発表されている「1/6」の商品ラインナップを紹介しましょう。
ミシュラン掲載店がレシピを開発した、シコシコ食感の麦芽粕麺
「1/6」の麦芽粕麺は、「ミシュランガイド京都・大阪2023」のビブグルマンに選ばれた人気ラーメン店「麺処 虵の目屋」(京都市中京区)がレシピ開発した、麦芽粕粉を使った麺。コシのしっかりしたシコシコ麺で、和・洋・中いろんな味わいに合います。少し固めに茹でてお鍋の〆にするのもおすすめ。つるっとあっさり目な味に合う細麺と、つけ麺などの濃い味付けにぴったりな太麺、2種類の展開。
※2023年12月時点ではオンラインショップでの発売はなし。後述するクラウドファンディングのリターンとして選べます。
パンやお菓子作り、飲み物に混ぜても◎な麦芽粕粉
麦芽粕を乾燥させて製粉した麦芽粕粉は、麦の甘味と麦芽特有の香ばしさがあります。食物繊維たっぷりで栄養豊富。小麦粉に混ぜてパンやお菓子作りに使ったり、ヨーグルトやアーモンドミルクに混ぜて高栄養のドリンクにするのもおすすめ。
※2023年12月現在、「1/6」オンラインショップで販売中。
ほかに、麦芽粕ブランド「1/6」のキャラクターをあしらったTシャツやフーディー、ステッカーなどのオリジナルグッズもあります。
※2023年12月時点では、オリジナルグッズのオンラインショップでの発売はなし。後述するクラウドファンディングのリターンとして選べます。
京都市のブルワリー・Kyoto Beer Labが麦芽粕を提供
「麦芽粕再利用プロジェクト」でアップサイクルする麦芽粕は、京都市のブルワリー・Kyoto Beer Lab(京都ビアラボ)のもの。
Kyoto Beer Labのフラッグシップは地元・京都産のお茶を使った「CHABEER」(茶ビール)シリーズ。茶葉の特徴とビアスタイルの掛け算でレシピを工夫した「深蒸し茶IPA」、「ほうじ茶スタウト」、「かぶせ茶ホワイトエール」が定番。京都ならではの素材を活かして個性的なビールを造っています。
麦芽粕は栄養豊富だけれど加工が大変……強力なパートナーとの出会い
麦芽は麦汁を搾った後も、たんぱく質・食物繊維が豊富で栄養価が高く、しかも低脂質・低グルテン。しかし食材として安全においしく食べるためには乾燥や粉砕などの工程が必須で、それがハードルとなって活用が進んでいないのが現状。
田中さんは、食品加工や菓子製造を得意としている「社会福祉法人エクスクラメーション・スタイル・キョウト」とつながり加工を任せられるパートナーを得たことで、麦芽粕の再利用プロジェクトを事業化できると確信したそう。
「エクスクラメーション・スタイル・キョウト」は、就労移行支援や就労継続支援B型事業を行っている福祉事業所で、障がいのある方が活躍しています。田中さんは麦芽粕の再利用で循環型の社会を目指しつつ、障がいのある方の賃金向上も目指しています。
Kyoto Beer Labの麦芽粕がエクスクラメーション・スタイル・キョウトで加工されるまで
Kyoto Beer Labの麦芽粕を回収し製粉するまでの流れは以下の図の通り。「社会福祉法人エクスクラメーション・スタイル・キョウト」は麦芽粕の回収から加工・包装作業までを担当しています。
醸造所の仕込みの日、麦芽粕が出るタイミングに合わせてフレッシュなうちに麦芽粕を冷蔵車で回収。次の工程に進むまで冷凍保存します。その後24時間乾燥させ、粉砕機で製粉。細かい粉末にすることで外皮の硬い食感が気にならなくなり、活用の選択肢が増えます。
製粉機を買い替えたい!クラウドファンディング実施中
「麦芽粕再利用プロジェクト」では今後生産性を上げていくために、麦芽粕粉の加工過程でとても重要な“製粉”のパートで使う機械を大型のものへ買い替え予定です。
そこで現在、製粉機購入に充てる費用を集めるため、クラウドファンディングを実施中(2024年1月15日まで)。リターンは麦芽粕粉の麺や多用途に使える麦芽粕粉、麦芽粕粉をつかったスイーツなど。詳しくは下記のクラウドファンディングプロジェクトページを参照してください。
プロジェクト名:廃棄されている「麦芽粕」を、障害のある人の力を借りながら再利用していきたい!
期間:2023年11月21日(火)~2024年1月15日(月)
リターン:麦芽粕粉の麺(「麺処 虵の目屋」がレシピを開発・冷凍の生麺で提供)、麦芽粕粉など
※詳しくはクラウドファンディングページを参照
目標金額:150万円
MotionGalleryクラウドファンディングページ
麦芽粕再利用の規模拡大を
麦芽粕を産業廃棄物にせずに何かに活用していこうと取り組むブルワリーは徐々に増えていますが、食材として再利用される麦芽粕の量は少ない状況。「いつか京都市内の麦芽粕だけでもすべて再利用できるようになれば、麦芽粕の加工をもっと多くの福祉事業所に手伝っていただけるようになり、その活動は京都外の地域でも行われていくようになるのではないか」と田中さん。
麦芽粕も貴重な資源。手間をかけて食品としてアップサイクルしてくれる事業を応援してみては?。より詳しい情報は、クラウドファンディングのページや、「麦芽粕再利用プロジェクト」のオフィシャルサイトをチェックしてください。
【プロジェクト運営会社・関連団体・ブランド概要】
「麦芽粕再利用プロジェクト」
運営会社:株式会社翠灯舎(京都市下京区)
代表取締役社長:田中郁后 創立:2011年6月
社会福祉法人エクスクラメーション・スタイル・キョウト
京都府八幡市を中心に、就労移行支援や就労継続支援B型事業を行っています。一人ひとりがそれぞれの役割に力を発揮して、協力しながら進むことを願っています。主に、陶器の製造、食品加工・菓子製造を行い、京都府城陽市でグループホームも運営。
1/6(ONE SIXTH、ワン・シックスス)
1/6オンラインショップ
「麦芽粕」という新しい素材を使ったさまざまな食品をはじめとする製品を生み出していくブランドです。「1/6」というのは循環少数で、一定の数字のパターンが規則的に繰り返されています(0.1666666…)が、その繰り返しの範囲が一定である必要がないという数字です。同じことの繰り返しだけでなく、繰り返しの中にも変化がある1/6 という数字で、麦芽粕を中心に循環していく社会を表しています。
※この記事内の画像はすべて「麦芽粕再利用プロジェクト」提供
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