クラフトビール好きなら知っておきたいビールのオフフレーバーとは

ワインや日本酒、焼酎、ウイスキーと同様に、ビールにも「オフフレーバー」が存在します。オフフレーバーが発生したビールは、キレや香り、味わいなどが損なわれてしまい、本来の「美味しさ」を感じることができません。普段オフフレーバーを意識してビールを飲むことなど、それほどないかもしれませんが、オフフレーバーについて知ることでビールの奥深さがより理解できるはずです。ここでは、ビールのオフフレーバーについて、基礎知識を学んでいきましょう。

オフフレーバーとは

オフフレーバーは、日本語では「異臭」と訳されがちですが、ビールをはじめとする酒類全般や食品に関しては、その製品が本来持っている美味しさを損なう香りだといえます。例えば、グレープフルーツのような香りが楽しめるビールから、時間を経てタマネギのような香りが生じてしまうような場合、それはオフフレーバーと捉えることができます。

徹底した品質管理のもと、大量に製品化されている大手ビール会社のビールでは、私たちが購入し開封した後に「おかしい」と感じることは稀です。麦芽や酵母選びなど、すべての醸造工程を管理され、製品化されるため、オフフレーバーに出会ったことがない方も多いことでしょう。

しかし、ビールは酒類の中でも劣化しやすく、保存中にオフフレーバーが発生することがあります。まず、この保存中に発生するオフフレーバーを確認していきましょう。

保存中に発生するオフフレーバー

ビールは、工場・ブルワリーを旅立った後、倉庫や店鋪を経て、私たちの手に渡ります。この過程で発生する代表的なオフフレーバー3種を紹介します。

カードボード臭

ビールが酸化劣化することにより生じるオフフレーバーのひとつが「カードボード臭」です。ダンボールに似たような臭いに似ているため、このように呼ばれています。濃い色のビールや味わいの濃い、強烈な個性を持つビールなどであれば、カードボード臭が発生しても分かりにくいですが、軽快な味わいのビールに発生すると臭いは顕著です。

老化臭

老化臭も酸化劣化により生成されるオフフレーバーです。カードボード臭とは違い、もったりと甘く違和感のある香りとされています。時間の経過とともに酸化したビールはさまざまな成分が増しており、老化臭には複数の化合物が相乗的に関与していると考えられています。中でもDMTS(ジメチルトリスルフィド)は、日本酒の老臭(たくあんのような香り)にも関連する成分だとされています。そのほかホップの苦味成分の分解物も老化臭に関与しており、ホップを添加しないビールでは老化臭の生成が少ないことも報告されています。

日光臭

日光臭も保存中に発生するオフフレーバーとして有名です。日光や蛍光灯、水銀灯などがビール(瓶ビールなど)に照射されることで生じるMBT(3-メチル-2-ブテン-1-チオール)による焦げたような、ローストされたような香りで、海外ではスカンク臭などとも言われています。濃い味のビールでは日光臭は目立ちませんが、これもカードボード臭と同様、軽快な風味のビールでは味わいを損なうオフフレーバーとしてはっきりと認識できます。

日光臭は紫外線が関与するため、濃い茶色の瓶や紫外線を遮断するようにコーティングされた瓶に詰められ、さらに遮光用のシートで覆われたトラックで配送されます。海外ではこのMBTを生成しないように開発されたイソフムロンという苦味成分が使用されたビールがあり、透明ボトル、緑色ビンなどでも販売されています。日本国内では使用が認められておらず、ドイツなどでも使用が控えられています。

醸造工程で発生するオフフレーバー

保存中に発生するオフフレーバーの特徴を覚えておけば、倉庫や店鋪などで正しく保存されていたかということがある程度分かります。また、できるだけオフフレーバーが発生しないようにビールを保存するコツも分かってくるでしょう。さて、ビールは醸造中にもオフフレーバーが発生する危険性が潜んでいるため、それらを防止するために数多くの対策がなされています。

大手ビール会社では対策されていることもあり、オフフレーバーに出会うことも少ないですが、個人醸造のブルワリーで造られるビールの一部からオフフレーバーを感じることもあります。参考までに、どのようなものがあるのか覚えておきましょう。

ダイアセチル

バターの香りに例えられるオフフレーバーです。主に発酵初期段階に酵母が出す香りで、ビールの爽やかな香りが失われる可能性があります。ただし、一部のビアスタイル(イングリッシュスタイルのエールビールなど)ではわずかなダイアセチルは許容されています。

硫化ジメチル (DMS)

煮た野菜、青のり、キャベツなどを思わせるオフフレーバーで、一定値以上にビール中に存在するとこれらの香りを感じます。硫化ジメチルはいくつか発生要因がありますが、麦芽由来の有機硫黄化合物が酵母によって還元されて発生するケースや発酵中の有機硫黄化合物が酵母の働きによって硫化ジメチルを生成するケースなどがあります。

コゲ臭、ゴム様の香り

発酵工程にて生成されるオフフレーバーです。日光臭でもある香りも含まれていますが、発泡酒などアミノ酸含有量が低い麦汁中にてメチオニンが不足したり、煮沸時のpHを低くした際などに生じ、濃度が上昇する傾向があるようです。

ビールは香りも繊細なお酒

そのほか、はちみつを思わせる香りや金属臭、カビ臭、硫化水素など、ビールにおけるオフフレーバーとされる香りは数多く存在します。クラフトビールでは、フレーバーホップが使用されていることから、その香りの強さにオフフレーバーがマスキングされることがあるようですが、中にはそのアロマを覆い尽くすようなオフフレーバーが生じるクラフトビールもあります。

ちなみに、ビールでオフフレーバーと扱われている香りも、ワインや焼酎、ウイスキーでは個性として捉えられることもあります。クラフトビール好きの方であれば、「香り」にも強い興味を持っているはず。ぜひ、今後は銘柄だけを追いかけるのではなく、ビールのオフフレーバーについても探求してみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
安井哲二「ビールのカードボード臭について」(2001年96巻2号p. 94-99)
岸本徹「ビールのオフフレーバーに関する近年の知見」(2013年44巻1号p. 13-20)
鰐川彰「ビールのオフフレーバー制御」(107巻・ 8号, p.559-570(2012-08))
尾崎一隆、鰐川彰「ビールのオフフレーバーとその制御」(2010年41巻4号p.246-255 )

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中込 公一

中込 公一

ワインライター。ワインを中心に取材・コラム執筆をしながら、クラフトビールネタもこっそりと執筆中。原料や醸造法、科学的なアプローチでクラフトビールの知られざる世界をお伝えします。