東京・板橋区にあるTOKYO ALEWORKSは、“Back to Basics” をキーワードに、常に基本に立ち返りながら新たな挑戦を続けるブルワリー。ニューヨーク出身の2人がクラフトマンシップを発揮して醸造するビールは硬派であり、かつ斬新です。人と人をつなげるコミューナルブリューイングの意味するものとは? ビール業界のみならずウイスキー業界でも名を馳せる、ボブ・ストックウェルさんにオンラインで取材しました。
板橋から世界へ、NY出身の2人が醸造する硬派なクラフトビール
江戸時代、江戸四宿の1つとして栄えた歴史のある街、板橋。TOKYO ALEWORKS(トウキョウエールワークス)は、板橋に本社を置くアルコール飲料のインポーター、スコッチモルト販売株式会社が2018年に開業したブルワリーです。運営や醸造を担うのは、ニューヨーク出身の2人。ボブ・ストックウェルさんとランディー・カーンクロスさんです。
ストックウェルさんは少年時代、ニューヨークで剣道を習っていました。高校時代に交換留学生として1年間日本に滞在し、さらに剣道に熱中。筑波大学に進学して所属した剣道部に、たまたまウイスキー好きの先輩がいたことから、今度はウイスキーの世界に没頭します。不動産会社で勤務後、大手企業でウイスキーの広報の仕事に就き、スコットランドの著名な蒸留所で醸造を学ぶ機会を得ます。
自分でウイスキーを作ってみたいという気持ちもありましたが、次第にビールへの興味も増していきました。「ウイスキーは、いい商品に仕上げるためには熟成に10年、20年以上かかるものもあります。自分で飲むというより子どもの世代のために作っているような感じですよね。でも、ビールは1カ月もあれば作れます。ウイスキー作りは面白いですが、自分で飲むために作るならビールもいいな、と思ったんです」(ストックウェルさん)
ウイスキーもビールも、主原料は麦。ストックウェルさんはスコットランドの大手メーカーで醸造を経験してきたため、大きな蒸留所で身につけたマッシングの技術をクラフトビールの世界で活かせるという強みもありました。
千葉のブルワリー、ロコビアで不定期に仕事を手伝いながらビールの醸造に携わり、2018年、TOKYO ALEWORKSの開業時から製造・品質・タップルーム責任者に就任。旧知のカーンクロスさんと共にビール作りをスタートさせました。
“Back to Basics” 常に基本に立ち返る
ビール作りのコンセプトは“Back to Basics”。常に基本に立ち返る。原点を見失わずにビールを創造していく中で、新しい発見と可能性が開かれていくという考え方です。TOKYO ALEWORKSのビールのラインナップはバラエティに富んでいますが、クラシックなビールスタイルが目立ちます。
「武道の世界には『守破離』という修業のプロセスの考え方がありますよね。まずは守、守る。他のブルワリーがあまり作っていないような、クラシックなビールを忠実に作りたいんです。アメリカのクリームエールとか、イギリスのESBスタイルとか。すごくおいしいウィートエールを作って、そこにブルーベリーを入れた「ブルーベリー・パンケーキ ウィートエール」というビールがTOKYO ALEWORKSにはありますが、それは破。破る、の段階です。最後は離。完全にマイスタイルで、新しいものにも挑戦していきます」(ストックウェルさん)
プロセスが大事だと思う、というストックウェルさん。それはブルワリーだけでなくクラフトビールを初めて飲むユーザーにとっても同じことで、いきなりぶっ飛んだビールを出して戸惑わせてしまうのではなく、スタンダードなものから飲んでみたい方もいるだろう、と言います。
「流行している魅力的なビールスタイルはたくさんありますが、そればかりになっては面白くない。クラシックなスタイルから新しいものまでいろんな体験ができる、そういうブルワリーを目指しています」(ストックウェルさん)
定番のビールの中で「ジュニアーズ クリーム エール」は、ストックウェルさんのお父さんが好きだったビールへのオマージュ。クリームエールは大手のビールメーカーが作っているような大麦麦芽とホップで作るラガービールを、ラガー酵母ではなくエール酵母で醸造するビール。のど越しが良くゴクゴク飲めるビールですが、エール酵母のキャラクターからフルーティーな味わいが感じられ、炭酸が弱めなのでクリーミーな口当たりになります。炭酸が弱いという特徴は、食事しながら飲んでもすぐにおなかがいっぱいにならないというメリットも。
“Communal Brewing” 地域とのつながり
TOKYO ALEWORKSのロゴの下部には、“Communal Brewing”の文字があります。ブルワリーは地域コミュニティの一部であり、人と人をつなぐブリューイングを目指す、という意味が込められています。
TOKYO ALEWORKSは板橋区民まつりに参加して行事を盛り上げ、地元の慈善団体への寄付などを通じて地域との連携を図ってきました。「コロナ禍の1回目の緊急事態宣言の時、タップルームはクローズして、テイクアウトのみで営業していました。その時、近所に住むお客さまにいっぱい来ていただいて売り上げが維持できたんです。これがコミュニティなのかなと思いました。こちらからサポートするだけではなく、支えていただいていると感じましたね」(ストックウェルさん)
2021年の緊急事態宣言下では近隣のビアパブやブルワリーとともに「NORTH TOKYO STAMP RALLY」を主催。東京の城北エリアのブルワリーをつなぎ、より広い範囲でユーザーの流れを作り出しています。
また、TOKYO ALEWORKSの特徴ある事業の1つに、体験醸造があります。醸造に興味のあるお客さまがスタッフと共に醸造のプロセスに立ち会い、体験できるプログラムで、自分で作ったクラフトビールを味わうことができます。アメリカではホームブリューイングが当たり前に行われていて(日本では法的に禁止)、ストックウェルさんもアメリカでは自分で醸造をしていたそう。体験醸造を通じてブルワーとコミュニケーションできるのはユーザーにとって貴重な機会となっています。
ボリューム感あふれるバーガー!こだわりのバンズの原料は?
TOKYO ALEWORKSの醸造室と隣り合ったタップルームでは、ボリューム感のあるハンバーガーやプレッツェルのサンドイッチが人気です。
バーガーのバンズやプレッツェルには、ビールの醸造で出た麦芽粕を利用。TOKYO ALEWORKSで出た麦芽粕を板橋区内のパン店に持ち込んでパンを焼いています。「糖が出きった後の麦芽ですから、糖質が低いというもメリットもあります」(ストックウェルさん)。資源の循環にも健康にも配慮し、さらにおいしいなんて、かなり欲張りなバーガーですね。
“Craft Revolution” クラフトに、革命を!
TOKYO ALEWORKSが掲げる総合的なモットーは、“Craft Revolution not just Evolution ”。「クラフトを進化させるだけでなく、革命をしましょう、ということです。クラフトビールと限定せずにあえてクラフト、としています。ビールのみならず板橋のいいもの、日本のクラフトを発信していこうと思っています」(ストックウェルさん)
現在新しいことにも挑戦していて、コーヒーのバリスタや焙煎士とタッグを組み、ストックウェルさんはウイスキーとビールの専門家として加わって、究極のバレルエイジドコーヒーを開発するプロジェクトが進行しています。また、佐賀県嬉野市産のお茶を使い、ドライホッピングならぬドライティーイングという手法を試し、抹茶の風味やアロマを最大限に活かした日本独自のビールスタイル創出にも挑戦中です。
醸造や熟成の技術を、他の分野の技術や見識と融合させて、今後TOKYO ALEWORKSから新しいクラフトを生み出す革命が起きるかもしれません。クラシックなスタイルから斬新なアイデアまで、多くのユーザーがコミットできるTOKYO ALEWORKSのクラフトの世界に、この先も大注目です。
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【関連サイト】TOKYO ALEWORKS TAPROOM
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