ホップの里の地産地消!クラフトビール醸造所から農場へ、ホップ粕で育った「遠野ホップ豚」

ビールとホップ豚

岩手県産のブランド豚「遠野ホップ豚(とん)」を知っていますか?

「遠野ホップ豚」は、ホップの生産地として知られる岩手県遠野市の特産品。ビールの仕込み後に出たホップ粕を飼料にして大切に育てられたブランド豚です。なぜホップ粕を飼料にしたのか? ホップ粕はどんなプロセスを経て飼料になるのか? ホップ粕を提供する遠野麦酒のブルワーと「遠野ホップ豚」を企画・販売する日清丸紅飼料株式会社の担当者に、「遠野ホップ豚」が生まれた背景やホップ粕の活用方法をお聞きしました。

ビールの醸造で排出される麦芽粕・ホップ粕って?

ビールの主原料は、麦芽とホップ。ビールを醸造すると、麦芽の絞りかす“麦芽粕”や、麦汁にホップを加えた後のホップの残りかす“ホップ粕”が大量に排出されます。

ホップ
遠野産のホップ 
写真提供:上閉伊酒造

“麦芽粕”や“ホップ粕”は産業廃棄物となることが多いですが、捨てずに有効活用しようと模索するブルワリーや事業者も出てきています。今回は、ホップの里・岩手県遠野で、ホップ粕を畜産飼料にアップサイクルしているケースを取材しました。

飼料会社、養豚場、ブルワリーがコラボ!ホップを食べて育った「遠野ホップ豚」

ビール
ZUMONAビールの名でおなじみの遠野麦酒のクラフトビール。遠野産フレッシュホップを使ったビールが人気!

2022年1月から2月にかけて横浜赤レンガ倉庫で開催された食フェス「鍋小屋2022」は、各地の鍋料理を提供するブースが多数出店し盛況のうちに幕を閉じました。イベント参加ブースの1つ、岩手県遠野市のブルワリー・遠野麦酒(上閉伊酒造)は、岩手産ラム肉を使った「ラム生姜鍋」を提供。会場で、生姜の辛味が利いたアツアツの鍋とクラフトビールを楽しんだ方もいらっしゃるのでは? 

イベント
横浜赤レンガ倉庫で行われた食フェス「鍋小屋2022」の様子。岩手県遠野市のブルワリー・遠野麦酒(上閉伊酒造)のブース
鍋
「鍋小屋2022」で提供された「ラム生姜鍋」。「遠野ホップ豚」のソーセージ入り!

その「ラム生姜鍋」の具材として使われていたのが、「遠野ホップ豚」のソーセージ。「遠野ホップ豚」は、ホップ粕を食べて育った豚です。遠野麦酒のホップ粕を、遠野市の南に隣接する気仙郡住田町の農場・株式会社いわて清流ファームで飼料にアップサイクルし、養豚に活用しています。

ホップ粕を養豚場へ、地産地消の取り組み

遠野麦酒のヘッドブルワー坪井大亮さんは、麦芽粕・ホップ粕の活用について「私が上閉伊酒造に入社した2006年頃は、近所の牧場で牛の飼料にしていました。その後、農家さんが畑の肥料にしていたこともあります」と振り返ります。遠野麦酒はこれまでも継続して、麦芽粕・ホップ粕を地元で有効活用してきました。

イベント
遠野麦酒のヘッドブルワー坪井大亮さん

そこからどんな経緯で「遠野ホップ豚」が生まれたのでしょうか? 「遠野ホップ豚」を企画・販売している日清丸紅飼料株式会社東北支店畜産営業課の上片平峻也さん、井浪優さんにお聞きしました。

キャプチャ
日清丸紅飼料株式会社東北支店畜産営業課の上片平峻也さん(左)、井浪優さん(右)。オンラインでお話をうかがった

「遠野ホップ豚」の構想が立ち上がったのは2016年頃のこと。日清丸紅飼料株式会社と株式会社いわて清流ファームで「なにか地産地消の取り組みができないか」と話が挙がったことからはじまりました。地元のさまざまな農産物を見ていく中で注目したのが、ビールの原料・ホップ。遠野市は日本随一のホップ生産地で、これまで半世紀以上にわたってホップ栽培を続けてきた歴史があります。

早速、地元で採れたホップを飼料に添加しブランド豚を造る取り組みを開始すると、縁があって、遠野産フレッシュホップでビールを醸造している遠野麦酒とつながりました。ホップ粕の処理や飼料への添加・給餌方法など試行錯誤を経て、構想から約2年後の2018年に「遠野ホップ豚」の商品化が実現しました。

ホップ粕が飼料になるまで

ホップ粕はどんなプロセスを経て飼料になるのでしょうか。

醸造所
遠野市にある遠野麦酒の醸造所
写真提供:上閉伊酒造

遠野麦酒といわて清流ファームはお互いに連携し、遠野麦酒でホップ粕が出ると、いわて清流ファームのスタッフがトラックで引き取りに行くサイクルができています。

「ホップ粕は、腐らないうちに回収しないといけないんです。ですから、ホップ粕が出たらすぐにいわて清流ファームさんが上閉伊酒造さんまでホップ粕を取りに行かれています」(井浪さん)

農場
気仙郡住田町・いわて清流ファームの農場
写真提供:日清丸紅飼料・いわて清流ファーム

フレッシュなうちにホップ粕を回収し農場に持ち込んだ後は、大型の乾燥機でホップ粕を乾燥させます。この工程は、飼料として活用するために欠かせないひと手間。

ホップ
乾燥前のホップ粕 
写真提供:日清丸紅飼料
ホップ
乾燥後のホップ粕 
写真提供:日清丸紅飼料

「基本的に、飼料は乾燥していないと給餌ができません。湿っているとそもそも豚が食べなかったり、腐敗リスク等もあるので。ホップ粕は水分含有量が高いのでどうするか、となったところで、いわて清流ファームさんの方で乾燥する場所や乾燥機を準備していただきました」(井浪さん)

飼料
乾燥させたホップ粕は、飼料に混ぜて給餌される
写真提供:日清丸紅飼料・いわて清流ファーム

「ホップ粕は当社が提供している飼料に混ぜて、成長した段階の豚に給餌します。ホップ単体ではなく、それまで与えてきた飼料に混ぜているので問題なく食べてくれているという印象ですね」(井浪さん)

「遠野ホップ豚」の味わい、どこで買える?ふるさと納税返礼品も!

「遠野ホップ豚」はホップに豊富に含まれるポリフェノールの抗酸化作用によりドリップロスが少なく、旨みを逃さず鮮度が長持ちするのが特長です。

「食べた感想として、お客様から『あっさりしていておいしい』というコメントを良くいただきます」(井浪さん)

鍋
ホップに含まれるポリフェノールの抗酸化作用で、旨みを逃さない

「遠野ホップ豚」の精肉は、遠野市内のスーパー「キクコーストア」各店で販売中。食フェス「鍋小屋」で提供されたソーセージはイベント用に特注されたもので、レギュラー商品としての販売はしていないそうですが、今後加工商品を展開する可能性もあるとか。

精肉
「遠野ホップ豚」のロース肉 
写真提供:日清丸紅飼料

「遠野ホップ豚」は、岩手県遠野市、住田町、釜石市のふるさと納税返礼品にもなっています。精肉セットや味噌漬けが選べますので、各自治体のホームページやふるさと納税の検索サイト等でご確認ください。

地産地消から資源循環へ

上片平さんは「遠野ホップ豚」の今後の展望について語ってくれました。

「地産地消に加えて、今後、地域での資源循環というのが求められてくると思います。私たちもこれから、いわて清流ファームさんと一緒に目指していきたいです。例えば、いわて清流ファームさんで出た豚のフンを堆肥化し、ホップの農場さんで使っていただいて、そこでできたホップを上閉伊酒造さんで醸造に使っていただく。そのホップ粕を豚が食べて……という、そういう循環までもっていけるのが理想かなと考えています」(上片平さん)

農場
いわて清流ファームのスタッフ、藤田祥平さん
写真提供:いわて清流ファーム

地産地消の取り組みからはじまった「遠野ホップ豚」のプロジェクト。ホップ粕を食べて育った豚は、ビールに合うはず! 遠野を訪れた際には、地元ブルワリーのクラフトビールとペアリングして味わってみてください。遠野麦酒が出店するビアフェス等、食のイベントで見かけることもあるかもしれません。ぜひ注目を!

【関連サイト】
日清丸紅飼料株式会社
株式会社いわて清流ファーム
遠野麦酒(上閉伊酒造)

【参照ページ】
日清丸紅飼料のお役立ちブログ「遠野ホップ豚 新しい銘柄豚が誕生」
 
【関連ページ】
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