「紅しょうが天にIPA」ブルックリンブルワリーからの提案 ー 醸造責任者来日記念ペアリング会

B by the Brooklyn Brewery ペアリング会

11月18日に東京・兜町のB by the Brooklyn Brewery(ブルックリンブルワリー)にて、同ブルワリーの醸造責任者ギャレット・オリバーが来日してのペアリング会が開催された。オリバー氏はペアリングに関する書籍を出すほど料理やビールの合わせ方に造詣が深く、またもちろん長年の醸造経験や醸造責任者ならではの話題もあり、ビールも話題も濃厚なランチ会になった。

伝道師ギャレット・オリバー

今回来日しペアリング会を開催したギャレット・オリバー(Garret Oliver)は、米国ニューヨークの世界的に有名なブルックリンブルワリーの醸造責任者で、1994年の入社時から現在までその立場であり続けている。ビールはその前から醸造しており、今年で35年を超える。手掛けたビールの受賞は数多く、また料理とビールの合わせ方にも造詣が深く、これまで17カ国で1000回以上のペアリング会を開催してきた。合わせ方の実践の面で、他の追随を許さない第一人者だ。

ギャレット・オリバー 登壇

2003年に”The Brewmaster’s Table”というペアリングに関する書籍を執筆し、2011年には”The Oxford Companion to Beer”というビール事典の編著も手掛けている。こうした卓越した実績だけでなく、明るい人柄や分かりやすい説明をすることも相まって、世界トップクラスの「ビール伝道師」であることは間違いない(彼の話し声も本当に素晴らしいので、YouTubeなどでぜひ味わってほしい)。

B by the Brooklyn Brewery

東京・兜町で2020年2月に開店したブルックリンブルワリー公式店でありつつ、世界初の旗艦店でもある。運営は、ブルックリンブルワリーとキリンビールが2017年に立ち上げた合弁会社「ブルックリンブルワリー・ジャパン」で、キリンビールがブルックリンブルワリーの株式を24.5%取得したことを契機に始まった資本業務提携の一環でもある。他に一般消費者にも分かりやすいのが、後述もする銘柄「ブルックリンラガー」や「ソラチエース」などを国内委託製造していることだ。

B by the Brooklyn Brewery B by the Brooklyn Brewery ブルックリンラガー

計6組のビールと料理

当日は、参加募集に対して応募・当選した30組60人が参加。ビールと料理は1組ずつ計6組提供され、まさに1対をつくっていく「ペアリング」の会となった。最後のビールは普段なかなかお目にかかれない銘柄だったこともあり、参加者の満足度も高かったようだ。一つずつ振り返ってみよう。

B by the Brooklyn Brewery キッチンの様子

「フォニオライジング」×フライドポテト

「フォニオライジング」×フライドポテト

フォニオは西アフリカ原産の雑穀で、乾燥や害虫などに対する耐性が強い。フォニオライジングはその名の通り、フォニオを麦芽比率50%で使ったビールで、アルコール度数は6.5%。ジャーマンピルスナーのようなはっきりしたホップと穏やかな麦芽の香りがして、ライ麦使用のビールのような穀物由来の香辛料らしさの他、ほのかにフルーティーな香りもある。

これにチリペッパーやおそらくパプリカなどの香辛料がかかったフライドポテトを合わせると、華やかな香辛料らしさが高まり合った。

「ブルックリンラガー」×スパイシーフライドチキン

「ブルックリンラガー」×スパイシーフライドチキン

ブルックリンラガーのビアスタイルはヴィエナラガーで、ヴィエナは「ウィーン風の」の意のドイツ語だ。見た目は褐色で、味わいはホップの香りや苦味は控えめで、麦芽の香ばしさや甘味の方が強い。少なくとも日本では、この銘柄が国内生産されてよく流通していることもあり、最も入手しやすいヴィエナラガーだろう。

スパイシーフライドチキンと合わせると、どちらもメラノイジン(加熱などによって糖とアミノ酸が結合してできる褐色物質)があるので、この香りが高まり合う。実に単純だが、強力、つまり多くの人が美味しいと思う合わせ方だ。しかしオリバーも説明で「唐揚げ」と言っていたように、食べ物の発祥地をビールに合わせる必要はなく、むしろその枠を外した方が多彩な合わせ方ができて面白い。褐色物質が出ているという面では、おでんだっていいのである。

「ソラチエース」×赤キャベツとチーズのコールスロー

「ソラチエース」×赤キャベツとチーズのコールスロー

ソラチエースはサッポロビールが育種したホップの品種だが、ブルックリンブルワリーが今に続く定番銘柄にいち早く使い始めた。銘柄名もそのまま「ソラチエース」である。このホップの香りはココナッツ、レモングラス、ディルなどの他、日本に住む人からはヒノキとも形容される。基礎となるビアスタイルはセゾンで、農家を想起させる香りを持ち、発酵度が高いのでアルコール度数7%で甘味が比較的残っていない。

この料理と合わせると、ソラチエースらしい香はディルと高まり合い、セゾンらしい香りはチーズと高まり合った。似た香りを合わせるという、またもや単純かつ強力な組み合わせだが、まさに「ツーペア」になって、複雑さも出てきている。オリバーの他のおすすめは刺身やトマトソースで、確かにどちらもハーブがよく使われている。大葉や穂紫蘇(ほじそ)はもちろんハーブに分類できる。

「ストーンウォールIPA」×日本橋タコス

「ストーンウォールIPA」×日本橋タコス

ストーンウォールIPA(THE STONEWALL INN IPA)は濁ったセッションIPAで、アルコール度数は4%台、グレープフルーツやレモンを思わせる香りと苦味がある。

日本橋タコスは揚げた紅しょうがを主たる具にしている。このビールと合わせると、苦味が共通しているので違和感のない安心の美味しさを味わえる。ここで一つ前に提供された「ソラチエース」が残っていたので合わせてみると、ショウガの香りとセゾンやソラチエースの香りがよく高まり合った。ショウガの苦味とビールの甘味の和らぎ合いも好ましい。筆者はこちらの組み合わせの方が好みだった。

「ディフェンダーIPA」×ティンガデポヨ

「ディフェンダーIPA」×ティンガデポヨ

ディフェンダーIPAはアルコール度数5.5%で、はっきりした苦味がある。辛味と合わせると苦味の鋭さが増すし、苦味は脂っこいものをさっぱりさせる。オリバーは豚骨スープも例に挙げていた。ティンガデポヨは鶏胸肉をトマトソースで煮て割いた料理で、こちらもタコスに仕立てられ、パクチーがまぶされていた。

これらを合わせると、ホップの香りとパクチーの香りが高まり合い、ホップの苦味によってトマトのうま味が伸びた。「似た特徴を合わせると言っても、似ているとすぐ分かるわけではない」「異なる味を合わせて新しい味わいをつくる」という複雑な結果をもたらしていて、この日最も良い組み合わせだった。

「ブラックアプス」×兜町tealのバニラジェラート

「ブラックアプス」×兜町tealのバニラジェラート

ブラックアプスはバーボン「フォアローゼス スモールバッチ」の木樽で熟成させたインペリアルスタウトで、アルコール度数は実に11.5%。ココナッツ、ワイン、日本酒を思わせる香りがあり、それらはアルコール度数ほど重たく感じないが華やか。

バニラジェラートと合わせると、バニラの香りが非常に高まり合った。「甘いものにはよくコーヒーを合わせるので、コーヒーに近いビールもうまくいく」という「なんとなく」の合わせ方を大きく超える結果だし、バーボンにバニラ様の香りがあることを知らないと提案できない組み合わせである。

以上、ペアリングという1対1という合わせ方ではあったものの、意外な食材と合わせ方も登場した面白い会だった。発祥地や色を合わせるといった「なんとなく合う」「子供でも既に経験している」という合わせ方を超えた、新しい合わせ方を探求していこう。

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長谷川小二郎

執筆、編集、英日翻訳。ビール専門誌『ビールの放課後』発行人・編集長。2008年から、米ワールドビアカップ(WBC)、グレートアメリカンビアフェスティバル(GABF)など、国際的かつ上位ビール審査会で審査員。日本地ビール協会(クラフトビアアソシエーション)講師として、ビールと料理を合わせる理論と実践を学べる「ビアコーディネイターセミナー」講師。日本ベルギービール・プロフェッショナル協会上級認定講師として「ビールKAISEKI(会席)アドバイザー認定講座」テキスト執筆・講師、「ベルギービール・プロフェッショナル ベーシック講座」講師。書籍最新作は日本語版監修・訳『クラフトビールフォアザギークス』。他に共著・訳『今飲むべき最高のクラフトビール100』など。日本ビール検定1級は6回連続合格、2022年は首席。

よなよなの里