産業機械の製造販売を手掛け、プレート式熱交換器や染色仕上機械の分野において国内トップシェアを誇る株式会社日阪製作所。同社は1950年代にキリンビール尼崎工場に国内第一号となるプレート式熱交換器を納入した実績があり、以後、多くの事業者のビール造りを支えてきました。
今回はビール造りに欠かせない設備として、大阪市中央区のブリューパブ「テタールヴァレ」と同市北区の2号店「センターポイント」にて、同社の熱交換器を導入しビールを醸造してきた、ブリューパブスタンダード株式会社代表取締役の松尾弘寿(まつおこうじ)さんに、同店の運営状況や開業に至るまでの設備選定、熱交換器の重要性や使用感などについて、お話を伺ってきました。ビールのブルワリーをこれから立ち上げる方、また開業後の設備導入、リプレースを検討中の方はぜひ参考にしてください。
開業に至るまでと現況
テタールヴァレはお店併設の小規模醸造所で醸造するビールと、塊肉やビストロ料理を楽しめるブリューパブです。2016年にオープンし、2023年4月に7周年を迎えました。
もともとブリューパブを開きたいと思っていた松尾さんがクラフトビールをお店で出したいと思ったのは20年ほど前。東京で働いていて、“地ビール”ブームが下火になり、“クラフトビール”として盛り上がりはじめたころでした。ただ、単にビールを仕入れて売るよりは実際に造って提供したいとの思いから、2008年ころから情報収集。飲食店で働いていた経験と、大阪府高槻市にある壽酒造の「國乃長ビール」で3年間、ビール造りをしてきた強みを生かし、同店の開業に至りました。
オープン後は間もなくテレビ局の取材があったことや、当時は近隣のブリューパブも2軒しかなく、同店が3軒目と珍しかったこともあり、瞬く間に人気店に。その1号店が手狭だったため、より広い場所でお店を開きたいと考え、2号店となるセンターポイントを2年後にオープンしました。同店もテレビ局ほかの取材が多く、順調に客足を伸ばしていた最中、コロナ禍に入り、大きな影響を受けました。松尾さんは「2023年4月時点でも100%までは戻っていない印象ですが、ようやく戻ってきたところ」といいます。
松尾さんはコロナ禍の厳しい状況を経ながらも、思い通りの店舗運営ができていると話してくれました。
「私がフレンチの料理人だったこともあり、テタールヴァレではビストロやパブメニューを提供できており、また、オフィス街で人が集まって宴会をするような場所にしたいと願っての店舗運営もできています。また2号店のセンターポイントは住宅街にありますが、日本ではあまりみかけないアメリカのテキサスバーベキューのメニューを提供できています。これはニューヨーク・ブルックリンに行き、現地のお店で見て取り入れたいと思ったスタイルで、日本以外の方もよく来てくれています」
醸造所立ち上げ時の設備選定について
このように店舗運営を続けてきた松尾さんに醸造所の立ち上げ時はどのように設備選定をしたのかお話を伺ったところ、テタールヴァレでは、松尾さんが勤務していた國乃長ビールの倉庫にあったジャンク品を集めて加工し、不足分は発注して、醸造設備を組んだと教えてくれました。
「ある程度、醸造設備を配置して、もうすぐオープンというときに、大きい鍋だけが足りなかったため、東大阪の町工場の友人に手書きの図面を持っていき、依頼して作ってもらいました。また、國乃長ビールで醸造していたこともあり、麦汁をしっかり冷却するために熱交換器は外せない設備ということで、日阪製作所に問い合わせて発注しました。それ以外の冷却系はポンプを買い、ホースをつなぎ、といったように投資を抑え、手作りしました」
なぜ熱交換器が必要なのか
なぜ熱交換器がビール造りに欠かせないのか。松尾さんは次のように答えてくれました。
「麦汁を貯めるタンクを冷やそうと思うと、蛇管だとどうしても冷却効率が悪くなってしまいます。熱を伝える力は液体の流れる速さが早ければ早いほど強くなります。これが蛇管だと麦汁をタンクに浸けただけの状態になってしまう。タンクの中の液体は動いてないため、熱が伝わりません。しっかり冷やすことはビールの品質に直結し、一気に冷やすことも大切になります。そのために熱交換器が必要になります」
「さらに言うと、銅蛇管を使って熱交換をする場合、冷却効率が悪いだけでなく、金属の管の中に麦汁を通して冷やす以上、ある程度の面積が必要になります。面積をとるため、かさばりますし、場所もとってしまい、作業しにくいデメリットも生じてしまいます」
日阪製作所の熱交換器の導入に至った経緯と導入のメリット
さらに、なぜ日阪製作所の熱交換器を導入したのか。松尾さんに伺うと「インターネットで熱交換器を扱っているところを調べていて、日阪製作所を知り、条件に応じた発注が可能なことが一番の決め手でした」と話してくれました。
「日阪製作所は大阪の企業のため、特に相見積もりをとることもなく、導入を決めました。価格も想像していたより安価でした。また『このぐらいの温度をこの温度に何分で冷やしたい』と伝えると、その条件に合わせて提案し、作ってくれたのが私にとっては一番のポイントでした。醸造する量に対して、処理する量が足りていなかったため、その後、追加で発注しました。必要なときに必要なものを条件に応じて発注できるのは、パッケージで設備をいれる場合にはないメリットで、安心感もありました」
そのほかのメリットについては、導入することで麦汁を十分に冷やすことができるだけでなく単純に作業時間の短縮につながること、発注までのやり取りを通じて熱交換器のことをさらに知るきっかけになったことを挙げてくれました。
松尾さんから開業する方へのメッセージ
国内の品評会で多くの受賞実績があり、店舗運営を続けるうちに新規開業のコンサルティングも手掛けている松尾さんに、これから開業する方に対して、設備導入のアドバイスをするとしたらどのようなことに気をつけてほしいか、メッセージをいただきました。
「醸造設備は高額な投資になるため、パッケージだとオーバースペックになりがちな部分も考えつつ、設備業者にきちんと相談してから発注したほうがいいと思います。あとは、小規模醸造所がほとんどだと思うので、熱交換器一つとっても置く場所に困ることがないようにしてもらえたらと思います」
「未経験からブルワリーを立ち上げる方は、限られたスペースに収まるサイズ感で、パッケージから設備を選ぶことになるため、設備を吟味する感覚はないのではないでしょうか。私たちもブルワリーの開業支援をするなかで、オーバースペックの部分を削るとか、よりよい組み合わせだとか、コスト削減に関する内容も伝えることがありますが、これから開業しようとしている方をみていると、あまり設備について知らないまま使っている感覚があります」
「繰り返すようですが、熱交換器は質のいいビールをつくるために必要ですし、熱交換器を使う際は、詰まって雑菌が繁殖しないようにフィルターをかけてから麦汁を通すようにするとか、衛生面にも配慮し、使うための知識を入れてから使ってほしいです。使っていくうちにどうしても汚れはたまっていくため、定期的なメンテナンスも欠かせません」
「最後に、設備選定の際、メーカーでフルセットでスペックも充実したものをそろえるとなると、コストもかなり高額になります。フルセットでそろえるのももちろんいいですが、そうしない場合も、同じように質の高いビールを提供するために、コストを抑えながら設備選定をする過程は店舗経営にも役立ちますし、開業当初からコストについて考えておくべきだと思います」
後記
松尾さんからは、質の高いビール造りには熱交換器が欠かせず、冷却の効率化による作業時間の短縮も期待できること、また、設備導入にあたっては、オーバースペックにならないよう、作業スペースにも配慮すること、熱交換器の使い方を知ることやメンテナンスが重要であることなどのお話を伺うことができました。
日阪製作所の担当の方からは「各醸造所の条件に合わせ、適切な熱交換器を提供することができるため、ぜひご相談ください」とお話をいただきました。日阪製作所の熱交換器を導入したい方は以下のページからお問い合わせください。
取材協力:ブリューパブスタンダード株式会社