神奈川県茅ヶ崎市にある酒店「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」は、国内外のクラフトビールの品ぞろえがすごいと評判のお店。SNS上では“狂ったマインマート”の異名で知られています。お店を訪問してみると、ビールの数やブルワリーの取り扱いの幅広さはもちろんのこと、スタッフのビール愛がすご過ぎる……。
茅ヶ崎で長く営業してきた酒店は、なぜ“狂ったマインマート”になったのか。そのストーリーや、店長・林さんとスタッフの推しブルワリーをうかがってきました!
さまざまなお酒がそろう「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」
神奈川県茅ヶ崎市・辻堂海岸に近いエリアに、地元で愛される酒店「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」があります。ワイン、日本酒、焼酎などさまざまなお酒を取り扱っていますが、クラフトビールの品ぞろえが特に充実。日本全国のブルワリーをはじめ、アメリカ、ヨーロッパ、さらにオセアニアやアジアなど世界のブルワリーを網羅し、200種類を超えるクラフトビールが店頭に並んでいます。
「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」のルーツは、茅ヶ崎市萩園で約50年前に開業し、お酒をメインに扱うようになって40余年になる酒店「三嶋屋」にあります。「三嶋屋」が常盤町に店舗を広げたのは20年ほど前。当初はワインの輸入会社が展開する販売店のフランチャイズでした。その後、酒類専門店「マインマート」の加盟店となり「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」が誕生。現在は「三嶋屋」を母体としたお店として営業を続けています。
林昭紀さんはご実家を継いで店長となり、ワインアドバイザーの資格を取得するなど知識を深め、ワインの品ぞろえに力を入れてきました。栃木県の「ココ・ファーム・ワイナリー」や新潟県の「カーブドッチ」など日本各地のワイナリーを巡って仕入れ先を独自に開拓。日本酒も、試飲しておいしいと感じた酒蔵に直接掛け合ってラインナップを充実させました。
“狂った”きっかけは宇宙戦争!
そんな歴史をたどってきた「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」は、クラフトビールの品ぞろえを爆発的に増殖させることになる転換点を迎えます。そのきっかけの1つは、あるブルワリーとの出会いでした。
「開業当初から鎌倉ビールさんやサンクトガーレンさんといった神奈川県内のブルワリーのビールは取り扱っていたんです。それから大阪の箕面ビールさん等、日本各地のビールも少しずつ並べるようになると『こういうビールはある?』とだんだんお客様から要望が出はじめて。教えていただいたブルワリーを調べて仕入れているうちに行きついたのが、宇宙さんでした」(林さん)
お客様のリクエストに応えてクラフトビールを深堀りしていくうちに、山梨県の超人気ブルワリー・宇宙ブルーイングを知り、仕入れてみようとネットオーダーにチャレンジした林さん。業界で「宇宙戦争」と語られる熾烈なビールの争奪戦に加わることになります。
「最初は何が起きているのかわからなかったんですが、ビール発売開始時間の何秒後かに売り切れてしまうんですよ。まったく注文ができませんでした。え、こういう世界なの? って。それでいろいろと環境を整えて仕入れることができるようになると、今度は“あの店には宇宙のビールがある”ということでさらにクラフトビールのお客様が増えたんです」(林さん)
「#うちゅう買える」のハッシュタグや口コミでビール目当てのお客様の数が加速度的に増え、アメリカのブルワリー情報に精通した方からのマニアックなオーダーも受けるようになって、海外のビールの種類も大増殖。林さんの推しとして後述する地元茅ヶ崎のブルワリー開業などもあり、ビールコーナーはますます盛況となって、現在の“狂ったマインマート”が形作られることになりました。
クラフトビールが好き過ぎるスタッフが集結
クラフトビールの品ぞろえがすごいと広く知れわたることによって、お店にはある変化が。
「ビールは縁をつないでくれるんですよね。最近、スタッフが増えました。クラフトビールがたくさんあるからと、ビールが好きな方が応募して来てくれるんです」(林さん)
ビールの仕入れは今も林さんが担当していますが、ビールの陳列やポップの準備などはビールの知識があるスタッフにお任せできるようになり、林さんの業務は以前に比べてかなり楽になったのだとか。
取材当日に勤務していたスタッフお2人にもお話を聞きました。
竹内さんは現役の学生さんでバイト歴は3年ほど。竹内さんが働きはじめた頃はまだクラフトビールの取り扱いが少ない状況でした。
「私はもともとはビールのことを全然知らなかったんです。ここでバイトをはじめて1年ぐらいしてからですかね、だんだんクラフトビールが増えて、ビールが好きな従業員も増えて。商品を並べたり、ポップを書いたり、ほかのスタッフとビールの話をしたりして、私もクラフトビールが好きになりました」(竹内さん)
もうお1人の淺田さんは湘南ビールを手掛ける神奈川県の酒蔵・熊澤酒造の元公式アンバサダーで、イベントなどを通じて湘南ビールの広報活動をしてきました。そもそもは「マインマート」に通い、人気のクラフトビールを制限本数ギリギリまで購入する常連客でしたが、いつしかスタッフとして就業することに。
竹内さん・淺田さんをはじめ取材日にはオフだったスタッフも含め、ビール愛あふれるメンバーは、個々にSNSで発信したり、ビール選びに迷っているお客様からの質問にも対応して「マインマート」の売り場を盛り上げています。
店長・スタッフの推しは? 地元をはじめ国内外のブルワリーからセレクト!
では「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」のみなさんに、推しブルワリー・推しビールをお聞きしてみましょう!
まずは店長・林さんから。3ブルワリー3銘柄を選んでいただきましたが、そのうち2種は地元神奈川県のビール。最近取り扱いはじめたというドイツ・バイエルン地方のビールもチョイスしてくださいました。
地元【茅ヶ崎】発!Passific Brewing
林さんの推しブルワリー1つ目は、地元・茅ヶ崎のPassific Brewing。茅ヶ崎市出身で、長野の志賀高原ビールや東京のCRAFT ROCK BREWINGで経験を積んだブルワー・大庭陸さんと、東京出身の山本俊之さんが2021年9月にスタートしたブルワリーで、「海を越え山を越え、ビールと旅するブリュワリー」をコンセプトに、茅ヶ崎と地方都市との繋がりを大事にしてビールを造っています。
「醸造所をオープンする前の段階でブルワーさんが店に来てくれたんです。茅ヶ崎でブルワリーをやるのでビールを扱ってもらえないかと。それはもう、逆にこちらからお願いしたいくらいです、ということでブルワリー開業時からお取り扱いさせていただいています。入荷したらどれもすぐに完売してしまうくらい人気で、新商品が発売になると電話での問い合わせもすごいですよ」(林さん)
Passific Brewingのビールの中で林さんが選んだのは「Passific IPA」。ホップのブレンドと酵母の組み合わせで心地よい苦味と生絞りの柑橘のような果汁感を打ち出した、ジューシーな味わいのIPAです。
「『Passific IPA』はPassific Brewingの定番ビールの1つです。柑橘感満載。バランスがいいですね。『Passific Lager』も定番で、これもやっぱりおいしいです」(林さん)
食事にも合う!デイリーに飲みたい【鎌倉】YOROCCO BEER
神奈川県内のブルワリーの中から林さんがもう1つ推してくれたのは、YOROCCO BEER。2012年に逗子市でスタートし今は鎌倉でビールを造っている醸造所で、地元はもちろん全国に根強いファンが多数いる、言わずと知れた人気ブルワリーです。
「YOROCCOさんのビールはデイリーに飲めますよね。“デイリービア”、そこを一番目指しているんじゃないかと思います。
『Bright Moments』はHelles(へレス)で、ドイツ系のラガー。(大手メーカーの)ラガーよりもちょっと穀物感があります。今はIPAやヘイジーが流行していますが、これは昔ながらのスタイルです。食事にも合わせやすいですし、滋味深い。定番ビールでは『Peninsula saison Farm House Ale』もおいしいですね」(林さん)
超濃厚ヘイジー!【ドイツ・バイエルン】BREWHEART
林さんの推し3つ目は、ドイツのBREWHEART。インポーターが直接紹介してくれたことがきっかけで、最近取り扱いをはじめたブルワリーです。
BREWHEART創業者のAndreas Erfurtさんは元マイクロソフト社のエンジニアで、出張先のアメリカでクラフトビール文化に刺激を受け、ホームブルーイングでアメリカンスタイルのビールを作っていたそう。2018年にファントムブルワリーとして醸造をはじめ、その後独立してドイツ・バイエルン州でブルワリーを開業しました。定番は作らず、IPAはいずれもDDH(ダブルドライホッピング)。チャレンジングなチョイスで尋常でない量のホップを使って仕込んでいます。
BREWHEARTのビールの中から林さんが選んだ1本は「YEAST OF EDEN」。
「『YEAST OF EDEN』というネーミングは、『East of Eden』(小説・映画の『エデンの東』)の、EastをYeastにしたパロディです。これはめちゃめちゃ濃くておいしい! ザ・ヘイジー。アルコール度数は10%と結構高いですがそれを感じさせず、飲みやすいです」(林さん)
スッキリ自然な飲み心地【ポートランド】BREAK SIDE
スタッフのお2人にも推しを聞いてみました!
竹内さんは、愛知県Y.MARKET BREWINGの定番ヘイジー「Lupulin Nectar」や、スウェーデンのBrewski、「IPAは色味が明るくキレイ系で、味わいが優しい」(竹内さん)というアメリカ・ペンシルバニア州のTired Hands、コロラド州のWeldWerksなど、かなり多くの銘柄をレコメンドしてくれました。なかでも推しなのはBREAKSIDE。
BREAKSIDEはアメリカ・オレゴン州ポートランドを拠点に2010年に開業したブルワリー。レストランとブリューパブとしてオープンし、ビールが高評価を得て急成長しました。「BREAKSIDE IPA」はBREAKSIDEのフラッグシップで、シトラスとトロピカルフルーツのアロマが全開の1本。取材当日は店頭に在庫がなかったのですが、竹内さんが一番推している銘柄は「BREAKSIDE IPA」と双璧を成す人気ビール「WANDERLUST IPA」。
「BREAKSIDEは定番のIPAがいくつかあります。『BREAKSIDE IPA』もおいしいですが、1番おすすめしたいのは『WANDERLUST IPA』。もう、本当に飲んだ瞬間衝撃的で。IPAってちょっと飲み応えがあって苦い系のものが多いですが、これはスッキリ感があって飲みやすくて。いろんな甘味や複雑な味わいがあるんですけれど、すごく自然な感じで飲めました」(竹内さん)
アートラベルもかわいい【茅ヶ崎】熊澤酒造・湘南ビール
「私はもちろん、アンバサダーをさせてもらった熊澤酒造さんの湘南ビールをおすすめします」と淺田さん。
熊澤酒蔵は明治5年(1872年)に創業した酒蔵で、現在湘南エリアに1つだけ残っている蔵元。1996年から「湘南ビール」のブランド名でビールの醸造をはじめ、無ろ過、非加熱処理で仕込んだフレッシュなビールを造り続けています。
「私はこの『大仏ビール』がすごく好きです。シュバルツというスタイルで、黒ビールのなかでも軽い感じ。軽さとほろ苦さがあって、ずっと飲んでいられます」(淺田さん)
湘南ビールはイベントラベル・アートラベルのバリエーションも楽しみ。シュバルツは、季節によってハロウィンラベルやクリスマスラベルなどが販売されます。定番のビールに加えて、2022年4月にはヘイジーが発売になったり、長期熟成したプレミアムシリーズ、神奈川産の食材を使ったローカルプロダクトシリーズなど、限定醸造のビールもバラエティ豊か。
海にも近いロケーション!ビールを選ぶ楽しさがある“狂ったマインマート”
ビール愛あふれるスタッフが迎えてくれる「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」は、ビアギークも、何を買っていいか迷ってしまうお客様も、情報量が多く熱量を感じるポップを読みながらじっくりとビールが選べるお店。スタッフとの会話も楽しみたくなります。お店は海からも近いので、ここでビールを買って海岸で飲んで、茅ヶ崎・辻堂エリアの小さな旅を満喫するのも◎。ビールの新入荷情報は公式インスタグラムで随時投稿されるのでチェックしてください!
【関連サイト】
「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」公式インスタグラム
「マインマート 茅ヶ崎常盤町店」通販サイト MMM booze shop
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