静岡県沼津市の人気ブルワリーRePuBrew(リパブリュー)は2022年春、静岡県三島市に新たなビール醸造工場を設立します。新工場で造るビールのコンセプトワードは「地球ビール」。ビール醸造に使う電力の大部分を太陽光発電でまかなう計画で、大規模ソーラーパネルを購入・設置する費用を調達するため、クラウドファンディングを開始しました。
RePuBrewはなぜ持続可能なエネルギーを使ったビール造りに取り組むのか? プロジェクトが始まったきっかけや今後の展望を、ヘッドブルワーであり会社代表でもある畑翔麻さんにお聞きしました。
人気ブルワリーRePuBrewが新工場をオープン!コンセプトは「地球ビール」
国内の人気ブルワリーのなかでも、新商品がパッケージでリリースされるとすぐに売り切れてしまったり、ビアパブで樽が開栓されるとすぐに打ち抜かれてしまったり……と、入手困難でなかなか飲む機会がないビールがありますよね。そんなブルワリーの1つが、静岡県沼津市のRePuBrew。2017年に醸造をスタートして以来、「Repubrew本生」「69IPA」「沼津HazyIPA」「アミューズグール」といったビールを主軸にしながら、年間60種類ほどの多種多様なビールをリリースし続けている醸造所です。
ビールの人気に対して製造量が追いつかなくなっている現状から、会社代表の畑翔麻さんは1年ほど前から新たな醸造拠点の敷地を探していました。そして今回、静岡県三島市に新工場を設立することを決断。新工場の名前は「Natural Roots Studio」(ナチュラルルーツスタジオ)、新工場で造るビールのコンセプトは「地球ビール」で、工場設立の計画を「地球ビールプロジェクト」としました。
「地球ビール」は、地球環境に配慮して造るビールです。新工場の屋根に大規模なソーラーパネルを設置して、醸造に必要な電力の70%を太陽光発電でまかなうプラン。醸造に欠かせない水とエネルギーというインフラを、工場内に出る三島のきれいな湧き水と自然の太陽光でまかなうことによって、持続可能なビール造りに取り組もうとしています。
身近に迫ったゲリラ豪雨の被害、「異常気象」を実感…
畑さんはなぜ、新工場で地球環境にフォーカスし、太陽光発電にこだわったのでしょうか。
きっかけは、2021年7月の豪雨でした。
2021年7月3日に静岡県熱海市で起きた大規模な土石流は大々的に報道され、ショッキングな映像が何回も流れたので記憶に残っている人も多いのでは? 実は同日、沼津では同じ大雨の影響で沼津市と清水町を結ぶ黄瀬川大橋が崩落しました。畑さんはその影響を直接受けたそう。
「黄瀬川大橋は車通勤で毎日使っていました。橋が崩落して通れなくなって、しばらくは別の道で遠回りしなきゃいけなくて。かなり渋滞していましたよ」(畑さん)
「異常気象」や「気候変動」という言葉はもちろん知っていたものの、静岡は自然が豊かで、これまでそんなことを実感したことはなかったという畑さん。通勤路の橋が崩落しただけでなく、近隣の小さい山でもがけ崩れが起きて、気象災害をはじめて身近で体験しました。
そもそもなんでゲリラ豪雨が増えているのか、豪雨が増えるとどうなるのか疑問に思って調べてみると、原因は地球の温暖化。さらに、豪雨や台風の雨は雨量が多すぎてほとんどが海に流れてしまい、豪雨が続くと小雨や雪が時間をかけて土にしみこんでできる湧き水が少なくなって、きれいな水の確保が難しくなることがわかってきました。
「ビール造りには水が大量に必要なんです。ビール職人としては、きれいな水が採れなくなるのは怖いことで。じゃあそれをどうやって守っていったらいいのか、考えました」(畑さん)
持続可能なエネルギーでCO2排出削減、新工場が目指すもの
そこで、後世までビールを造っていくことができる状況を造り出そうと、新工場では地球環境や温暖化に配慮。CO2排出量を減らすために太陽光による自家発電の導入を決めました。
とはいえ、100%自然エネルギーに頼ると醸造するクラフトビールの品質に影響が出る可能性があるため、使用電力の70%を太陽光でまかなうことを目標にしました。畑さんが目指すのは「すべてが“完璧なエコ”でなくていい。私たちにできる事をする」ということ。CO2排出量は極力少なくしながら、静岡の豊かな自然の中で「CO2ネットゼロエミッション 」(人が排出するCO2の量と森林等のCO2の吸収・除去量の均衡をとること。CO2排出量実質ゼロのこと)の実現に挑戦します。
「多くの人を巻き込みたい」クラファン始動!
畑さんは、新工場「Natural Roots Studio」に設置する大規模ソーラーパネルの調達費用の一部を集めようと、2021年10月30日から「CAMPFIRE」でクラウドファンディングを始めました。費用が膨大であるという理由もありますが、一方で、多くの人に知ってもらおうという意図も。
「環境を守っていこうとなると、うち1社だけがその方向を見ても全体としては変わらないなと。それで、クラウドファンディングをやろうと思いました。いろんな人を巻き込んでいこうと」(畑さん)
クラウドファンディングでは、「Natural Roots Studio」初仕込みのクラフトビールが届くリターンも用意されています。ほかに、畑さんの友人の2人組キャンプYouTuber伊豆のぬし釣りさんとのコラボビールやコラボグラス、新工場の敷地内で伊豆のぬし釣りさんを交えたキャンプに参加するリターン、三島市の酒販店・日家さん特製の三島豚スペアリブとビールのセットなども選べます。
RePuBrewのビール、Natural Roots Studioのビール、今後の展開
RePuBrewは、年間60種類をこえる多様なビールをリリースしていますが、新工場「Natural Roots Studio」では逆に、定番となるビールをじっくり造っていく予定だとか。新工場ができれば製造可能数量にして現状の10倍以上のビールが生産できるようになるので、ビアギーグとしては畑さんの造るビールが入手しやすくなって嬉しい限り。新工場ができても沼津の醸造所はそのまま稼働するので、畑さんは、攻めたスタイルのクラフトビールも引き続き手掛けていきます。
「ブルワーとしてはこれを作りたい、だけどニーズがない、ということはあって。ニーズがあるビールを造れば間違いなく会社は大きくなっていくんですが、私たちがやろうとしているのは会社を大きくすることじゃなくて、いかに生活水準をあげていくかということ。生活水準っていうとお金の話のように聞こえますが、実は仕事の満足度や、人生楽しいよね、というのが生活水準だと思っていて。面白いクラフトビール、面白い味わいっていうのは、需要がなくても小ロットで造るべきだと思っています。それで私たちの満足度とか達成感、面白いビールを造れた、というところの水準はあがっていくと思うので」(畑さん)
RePuBrewがこれまでに取り組んできた、資源循環や地産地消
RePuBrewはこれまでにも、サステナビリティを意識した運営や地域振興に取り組んできました。
例えばビールの副原料には地域で採れたフルーツや野菜など、地元の生産物を使用。ビールの醸造で出た麦芽粕はすべて堆肥場に提供し、その堆肥を使って栽培された食材を、沼津のブリューパブや、三島にある直営の飲食店「スライダーハウス24Tapリパブリュー三島店」で使っています。そのことで麦芽粕を有効活用するだけではなく、麦芽粕が廃棄されたらそれを焼却するために排出されたはずのCO2が削減できています。
2020年9月に開業した「スライダーハウス24Tapリパブリュー三島店」は、地元のブランド牛「あしたか牛」のパティを使ったハンバーガーが看板メニュー。バンズは三島市内のパン店から仕入れ、野菜も地元のJAと協力してなるべく三島野菜を使って、地元の食材を提供するレストランをコンセプトとし、地産地消の拠点となっています。
クラフトビールから広がるフィールド
10代の頃から醸造醗酵学に興味を持って専門的に勉強してきた畑さん。ブルワーとして独立して会社代表になってから、醸造そのものにとどまらず、地域への貢献や環境への配慮など、活動のフィールドは拡大しています。
「毎年毎年、年を重ねるごとに意識や考えは徐々に変化していて、新しい情熱が生まれています」(畑さん)
「地球ビール」という新しい取り組み。自然エネルギーで造られるクラフトビールを楽しみにしたいです。クラフトビールが好きな方に限らず、サステナビリティに関心がある方、沼津や三島にゆかりのある方等々、ご興味をもった方はぜひクラウドファンディングのページをチェックしてください!
写真提供(注記のあるもの以外):RePuBrew
【関連サイト】
CAMPFIREクラウドファンディングページ
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