今回ご紹介するのは、ぽてっとした丸みを帯びた外観の『チューリップ型』と呼ばれるグラスです。この型を製造する代表的なメーカーは『デュヴェル』というベルギーのビールメーカーです。デュヴェルという言葉は「悪魔」を意味するのですが、デュヴェルはなぜこんなに丸っこくてかわいらしいグラスを製造しているのでしょうか。
チューリップグラスで楽しむ泡と香り
チューリップ型グラスを見たことがありますか?このグラスはその名の通りチューリップのような形で、飲み口がすぼまっているタイプのビアグラスです。見た目がかわいらしいので、こちらのグラスで提供されると、思わず家に連れて帰りたくなる衝動にかられる方もいるのではないでしょうか。
チューリップ型グラス製造で代表的な企業であるデュヴェルは、ビールメーカーとしてイエローがかった美しい黄金色でアルコール度数が高いながらも飲みやすいと評判のビールを製造しています。第一次世界大戦終戦を記念してつくられ、当初は「ヴィクトリー・エール」と名付けられていましたが、試飲会の際、これを飲んだ近所の靴屋が「このビールはまさに悪魔だ」といったことから現在の名前になったといわれています。
デュヴェルは泡立ちが良く、適当なグラスに注ぐと泡がこぼれてしまいます。そこで使用されているのがチューリップ型のグラスです。もともとベルギービールはビールの製造元ごとにその個性にあったグラスが製造されていますが、デュヴェルは泡がこぼれないようなグラスを製造しました。その特徴は、くびれとすぼまった口にあります。泡が上昇してゆく際、くびれ部分で泡がおさえられて固くなり、その後もビールを注いでゆくと、固くなった泡はグラスの口を超え、まるでカリフラワーのように盛り上がり、全部注いでも泡がこぼれ落ちることがないのです。
またこのグラスはビールの美味しさにも影響を及ぼします。
まずはビールの美味しさにおいて重要な、香りに影響があります。チューリップ型のグラスは泡がなかなか消えにくくなっているため、泡が最後まで表面を覆っていることがままあります。この泡の蓋によって香りを逃しにくく、長い時間香りを楽しむことができるのです。さらに口の近くにくびれがあるので、このくびれによって若干香りの立ち上がりが速くなり、鼻を近づけるとアロマをはっきりと感じられるようになっています。
そして、なんといってもビールの味わいにおいて重要な、独特の泡にも影響を及ぼします。チューリップ型グラスでは、くびれから飲み口まで計算されたカーブによって、ビールと泡が均等に口の中に流れ込むよう設計されています。泡はすぐに消えがちなので最初の一口以外なかなか楽しめないものですが、チューリップ型グラスだと泡も思う存分楽しむことができます。
チューリップ型グラスに注いだビールで飲み切る前に忘れずに見てもらいたいのが立ち上る気泡です。チューリップ型グラスはビールを注ぐと、下から小さな泡が立ちあがり続け、この泡が美しく、眺めていると海底から立ち上る気泡を思わせます。「悪魔」という意味のビールメーカーがこんな美しい幻想的な姿をみせてくれるのはなんだか素敵で、意外性を感じます。
チューリップ型のグラスは泡と香りを楽しめるグラスです。さまざまなビールの個性を引き出してくれるグラスですので自宅にひとつ置いてみて、美しい気泡を眺めながらクラフトビールを楽しんでみてはいかがでしょうか。
河合麻美
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