クラフトビールの過去・現在・未来 「ビアEXPO」「日本クラフトビール業界団体連絡協議会」から考えられること(前編)

4月22日、東京・両国の麦酒倶楽部ポパイにて記者発表があり、2025年4月23日に日本のクラフトビール(地ビール)誕生30周年イベント「ビアEXPO2025」が開催され、それに伴って「日本クラフトビール業界団体連絡協議会(クラビ連)」が発足したのは、4月22日公開の記事「クラフトビール誕生30周年記念イベント『ビアEXPO』2025年に開催」でお伝えした通りだ。本稿では前後編にわたり、記者発表で共有されたビアEXPOの目論見やクラビ連の設立の目的、さらに各種データから考えられることを述べていく。

麦酒倶楽部ポパイについて

まず注目すべきは、今回の記者発表の場となった、麦酒倶楽部ポパイである。同店は1985年に洋風居酒屋として開店、その後1995年に地ビール専門店に業態替えした。その当初は10銘柄程度の提供から始まったが、その後取り扱い数を増やし、現在では70銘柄を提供している。さらに2014年に直営のブルワリーとして新潟県南魚沼市に「ストレンジブルーイング」(2021年閉業)、次いで2020年に東京都墨田区に「両国麦酒研究所」を立ち上げた。

ストレンジブルーイングと両国麦酒研究所のクラフトビールのラインナップ

つまりポパイは、地ビール・クラフトビールを登場から扱い続け、自らもビールを製造してきた、他の追随を許さない先駆者なのである。

それでいてコロナ禍にあっては、炒った麦芽を使ったコーヒー風の飲み物を提供するなどアルコール飲料なしの営業や、ペットボトルに詰めた自社ビールの即売、料理の持ち帰りの対応など、新しい取り組みを積極的に始めて宣伝し、良い意味で老舗らしくなく、懸命に営業を続けた。ポパイという小規模ビジネスを応援し続けて良かったと思えたし、懸命な声掛けにほだされて実際に何度か店に足を運んだ。

ポパイが今回の記者発表の場となったのは、業界が本気で取り組んでいることを示すなど、深い意義が感じられるのだ。

麦酒倶楽部ポパイ

麦酒倶楽部ポパイ

「地ビールの日」はなぜ4月23日なのか

ビアEXPOは2025年4月23日に開催予定で、4月23日が「地ビールの日」と定められていることにちなんでいる。ちなみに2025年のこの日は水曜日なので、例えばこの日を始まりに業界向けプログラムが始まり、週末に向かって消費者向けプログラムが増えていき、日曜日(27日)が最終日になるというシナリオが考えられる。

そもそもなぜ、4月23日が地ビールの日なのだろうか。中心となって定めたのはクラビ連参加団体の一つである日本地ビール協会(CBA)で、1999年に日程の案を公募した。この日はドイツのビール純粋令が施行された日であり、ドイツでの「ビールの日」にもなっていることから、複数の応募があった。

そのうち採用された推薦文は以下である。

「“ビールとは一体何か”を世界で最初に 定めたのが、1516年4月23日にドイツ・バイエルンのヴィルヘルム4世が発令した「ビール純粋令」だそうです。ドイツでは1995年からこの日を記念して、4月23日を“ビールの日”としています。4月23日といえば、GWも間近です。厳しい冬を越えた慰めと春を迎えた喜び、そしてこれから来る暑い季節を思いながら、4月に土地のビールを飲もうというのはいかがでしょうか?」

筆者なりの解釈を加えれば、ビール純粋令は、ビールには材料として大麦とホップ、水、酵母だけが使用できるとしたことで、ビールとは何なのかのいったんの整理になり、それがさらに品質向上のきっかけの一つになった。誕生してまだ若い地ビールがこの品質向上にあやかるのは良いことだ。

ビアEXPOの何が「日本初」?

記者発表の資料を見ると、1ページ目にある「日本初ビアEXPO」という表現が目に飛び込んでくる。目に飛び込んでくるというのはさほど大げさではなく、メディアのコンテンツを作る仕事をある程度したことがある人なら、「初」「一番」「最高」といった「最上級」の表現は注意を要する言葉として意識する。明確な根拠が求められるからだ。ビアEXPOのどの面が日本初なのだろう。

その答えは、セミナーなどのカンファレンス、消費者向けイベント、BtoB向け展示会など個別の開催は従来あったが、それらをすべて含んだイベントはこれまでにないということだった。

確かに、例えば各地で開催されてきたビールフェスティバルでは、多少のセミナーを含むことが一部あったが、展示会も一緒になっているものは聞いたことがなかった。また、FOODEX JAPANやスーパーマーケットトレードショーといった食品業界全体向けの展示会では、ビール醸造機器や新作ビール銘柄が同じ会場で展示されることはあったが、同時に消費者向けにビールが提供されることは聞いたことがなかった。

そうした要素を含んだ包摂的なイベントとして近いものの一つに、米国のクラフトブルワーズカンファレンス・ブルーエクスポアメリカ(CBC)がある。毎年開催で、内容はBtoB向けセミナーや見本市だ。コロナ禍の2020年を除いて、偶数年には世界最大の国際的ビール審査会であるワールドビアカップ(WBC)と連続する日程で開催されてきた。WBCと連続開催する場合は最終日にWBCの授賞式も開催される。消費者向けプログラムはないが、会場周辺のクラフトビール提供店には関係者が自然と集まり、街はフェスティバルの雰囲気にあふれる。2022年の来場者は4日間で約1万人だった。

CBCの様子01

CBCの様子 © BREWERS ASSOCIATION

CBCの様子02

CBCの様子 © BREWERS ASSOCIATION

日本で、これくらいの大きな規模であったり、消費者向けプログラムも含めたりして開催するのは、非常に難しいことだと思う。理由は後編で改めて説明するが、それほどの規模や多くのコンテンツが求められるほどに、市場規模が拡大する可能性は高くないと見られるからだ。しかし高い目標を掲げなければそれに近づくことすらできない。難しいかもしれないが、期待を込めて見守りたい。

クラビ連発起の3団体

前編の最後に、後編で各種統計を観察するための基本にも関わってくる、クラビ連の参加団体を簡単にまとめておく。

記者発表会の様子

記者発表会の様子
左:日本地ビール協会理事長・山本祐輔氏
中央:全国地ビール醸造者協議会会長・田村源太郎氏
右:日本ビアジャーナリスト協会理事長・藤原ヒロユキ氏

全国地ビール醸造者協議会(Japan Brewers Association、JBA)は、①クラフトビールの品質向上・技術研鑽、②クラフトビールの市場拡⼤、③酒類製造業者としての税務執⾏と要望、④業界団体として情報収集・管理、調査研究・課題検討など、を目的に1999年に設立された。特に③に関しては、中小規模のビール製造者への軽減税率適用を獲得しており、JBAに加盟しているかどうかは問わず、多くのブルワリーがこの恩恵を受けている。

⽇本地ビール協会(Craft Beer Association、CBA)は、ビール⽂化の普及・振興と、ビールが醸す⼈々との交歓を⽬的に1994年に発⾜した。以来、ビアスタイル(ビール醸造様式)とテイスティング技術の啓発を中⼼として、①ビアテイスターの育成・認定、②ビール審査会の主催、③「ジャパン・ビアフェスティバル(ビアフェス)」の主催・共催、④ビールを通じた国際交流、の活動をしている。ちょうど先週開催された米国の世界最大のビール審査会ワールドビアカップを主催するブルワーズアソシエーションとの提携団体としても知られ、実際に審査員の派遣や、主催審査会へのビール出品受け入れなどをしている。

⽇本ビアジャーナリスト協会(Japan Beer Journalists Association、JBJA)は2010年設立で、ウェブサイトやSNSで情報発信をし始め、2012年からは「ビアジャーナリストアカデミー」を開講し、ビールの広報・宣伝で実績をあげてきた。

後編では、これら3団体がある中でクラビ連を発足させた理由や、記者発表会で説明された各種統計、そしてそれを可能とする前提であるクラフトビールの定義について解説する。

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長谷川小二郎

長谷川小二郎

執筆、編集、英日翻訳。2008年から、米ワールドビアカップ(WBC)、グレートアメリカンビアフェスティバル(GABF)など、国際的な上位ビール審査会で審査員。ビールと料理を合わせる理論と実践を学べる「ビアコーディネイターセミナー」講師、「ベルギービールKAISEKI(会席)アドバイザー認定講座」テキスト執筆・講師、「ベルギービール・プロフェッショナル ベーシック講座」講師。最新作は日本語版監修・訳『クラフトビールフォアザギークス』。他に共著・訳『今飲むべき最高のクラフトビール100』など。日本ビール検定1級は5回連続合格。