ビールの主原料の1つである麦芽は、醸造に使う麦汁を仕込んだ後にろ過され、麦芽粕となります。麦芽粕は産業廃棄物として処理されるケースがほとんどですが、アップサイクルしようと模索するブルワリーも。
今回は、麦芽粕を堆肥化して野菜の栽培に活用している都市農家「岩田園」と東村山のブルワリーDistant Shores Brewingの取り組みに密着。麦芽粕は、醸造所を離れた後どこに運ばれてどう使われるのか? 麦芽粕活用の現場をレポートします!
ビール醸造の過程で出る麦芽粕とは?
ビールの主な原料は、麦芽とホップと水。醸造過程のはじめに麦芽を温水に入れて麦汁を造りますが、その際に出る麦芽の絞りかすが麦芽粕(モルト粕、ビール粕)です。
麦芽粕はビール醸造の副産物として必ず発生し、産業廃棄物となって捨てられるケースがほとんど。しかし絞りかすとはいえ、麦芽粕には栄養成分がしっかり残っていて、十分に活用できる素材です。麦芽粕を廃棄せず上手く使おうと工夫するブルワリーも出てきています。
今回は、麦芽粕をアップサイクルする現場に密着取材。ブルワリーと農家さんが連携して麦芽粕を活用する事例の1つをご紹介します。
東村山の人気ブルワリーDSBと東大和「岩田園」の出会い
編集部が訪れたのは、東京都東村山市にあるブルワリーDistant Shores Brewing(ディスタントショアーズブルーイング、以下DSB)の醸造所。ヘッドブルワーは英国出身の芦川マイケルさんです。
「麦芽粕は英国でも活用されています。パンに入れたり、燃料にしたり、農家で堆肥に使ったり」と語るマイケルさん。2017年にDSBを開業して以来、醸造過程で大量に出る麦芽粕を廃棄せずに活用できないか、と考えてきました。
しかし東村山ではなかなか貰い手が見つからず、声掛けの範囲を広げて、DSBのクラフトビールを扱っている東大和市の酒販店「尾崎商店」さんの人脈を頼って相談することに。そこでつながったのが、「尾崎商店」さんと幼なじみの地元農家「岩田園」の岩田智哉さんでした。
岩田さんは元システムエンジニア。会社を辞め「東京都農林総合研究センター」で1年間の研修を経て、最新の農業技術を学んだ後に実家の農家を継ぎました。「岩田園」が目指すのは化学肥料と農薬をできるだけ削減した農業。化学肥料の使用を最小限にするために堆肥として使える素材はないかと探していたタイミングで、DSBの麦芽粕を紹介されました。
岩田さんは、DSBの麦芽粕を貰い受けるようになってから活用法を試行錯誤。やりとりを始めて1年ほど経った今では、麦芽粕を堆肥化する方法も定着しました。
DSB×「岩田園」、麦芽粕アップサイクルに密着!
DSBの麦芽粕は醸造所を出た後、どのようにアップサイクルされるのでしょうか? 編集部はDSBから「岩田園」に運ばれる麦芽粕に同行し、堆肥化の現場を見せていただきました!
マイケルさんから麦芽粕情報を入手→岩田さんが駆けつける
某月某日。マイケルさんから岩田さんに「麦芽粕が出そうだよ」と連絡が。岩田さんはマイケルさんと日程を調整して、「岩田園」のトラックで醸造所を訪れます。到着すると、小分けにまとめられた麦芽粕がすでに準備されていました。
この日の麦芽粕は、DSBの人気ビール「ジュース竜巻」(Hazy IPA)を1200リットルのタンクで仕込んで出たもの。イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダ産の麦芽が使われているそう。特に、イギリスの麦芽は品質のいいものを使っているということでした。
麦芽粕が「岩田園」に到着
DSBで積み込まれた麦芽は東村山市から東大和市へ移動し、「岩田園」に到着。畑では、キャベツ、ニンジン、ブロッコリーなどが収穫期を迎えていました。
畑の一画には、堆肥を作るスペースが
広い畑の一画には堆肥を作るスペースが設けられ、これまでに運ばれてきた麦芽粕がストックされて発酵・熟成していました。
麦芽粕を開封、堆肥場へ
新たに運んできた麦芽粕を開封して堆肥場に追加します。麦芽粕は発酵させなくても、このまま土に混ぜただけでも肥料になるそう。
科学肥料の使用は最小限に。土づくりに活用
麦芽粕は発酵させた後に牛糞堆肥と混ぜ、畑の土づくりに活用。麦芽粕と牛糞堆肥をベースにした肥料を使うことで、化学肥料の使用は最小限に抑えられています。
野菜を収穫!
密着した当日に畑にあった、キャベツ、ニンジン、ブロッコリー、カリフラワーなど、「岩田園」で露地栽培されている野菜類にはすべてこの麦芽粕の肥料が使われています。麦芽粕の効果なのか、どの野菜も大きめで味が濃い!
麦芽粕で育った「岩田園」の野菜をDSBのテイスティングルームで販売!
DSBの麦芽粕を活用して育った「岩田園」の野菜は、日曜日にオープンしているDSBのテイスティングルームで販売しています。
DSBテイスティングルーム以外にも「岩田園」の野菜の販売拠点は東京都多摩地区内に複数あります。
「岩田園」の野菜が購入できる場所
(出荷数や野菜の種類などは季節によります。2021年12月現在の情報)
・みのーれ立川
・みどりっ子 中原店
・東大和市役所直売(毎週木曜日)
・橋本農園 とんがり屋根の直売所
そのほか、福祉施設など
岩田さんは朝、野菜を収穫し、できるだけその当日に各販売所に持ち込んでいるとか。ご近所の方や、近くにお出掛けになった際はぜひ岩田さんが麦芽粕を活用して育てた新鮮な野菜を手に取ってみてください。
化学肥料と農薬を削減、スマート農業にも取り組む「岩田園」
「岩田園」では、化学肥料と農薬を削減した露地栽培で「東京都エコ農産物認証」を取得。他に、ビニールハウスでのトマトの「養液栽培」にも力を入れています。
岩田さんは「東京都農林総合研究センター」で勉強した“東京式養液栽培システム”を導入。一般的に使われるロックウール(人造鉱物繊維)の代わりに自然由来のヤシガラ(ココピート)を使い、水をかけ流しにするのではなく循環させることで廃液が発生せず、環境負荷が少ない農法です。岩田さんは前職のSEの経験を活かし、IT技術を使った無駄のない温度管理・栽培管理にも着手。露地栽培でもハウスでも極力、持続可能な農業を実践しています。
ブルワリーが起点となる地域の資源循環
麦芽粕がおいしい野菜の栽培に貢献する現場は、地域での資源循環や、フードロス削減、ゼロウェイストを実現している場でもありました。麦芽粕で育った野菜をテイスティングルームで買えるのもうれしい! 消費者にとってもありがたいことですね。
麦芽粕のアップサイクルに取り組むDSBと都市農家「岩田園」の連携は、絶妙なチームワーク。ビアギーグの皆さんも、地域に根差すブルワリーと持続可能な農業を目指す農家の取り組み、クラフトビールから生まれる循環に、ちょっと関心を寄せてみてはいかがでしょうか。
【関連サイト】
Distant Shores Brewing
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