【EBINA BEER】海老名で見つけた本場のピルスナー!チェコ出身ブルワー渾身のビール×チェコの居酒屋メニュー

EBINA BEER
EBINA BEER

“ピルスナー”というビアスタイルを知っていますか? ピルスナーは19世紀にチェコ共和国で生まれたビール。大手ビール会社が生産するビールはほとんどがこのピルスナーに該当し、黄金色で喉越しが良くさわやかな味わい。ビールのなかでもっともポピュラーなスタイルと言えます。

海老名ビール

神奈川県海老名市にあるクラフトビールブルワリー・EBINA BEERのブルワーは、チェコ出身のトーマス・レハクさん。トーマスさんは故郷で親しんできたピルスナーの味わいにこだわり、本場チェコの伝統的な製法を追求しています。元は音楽家として世界の第一線で活躍してきた経歴をもつトーマスさんに、ブルワーに転身したストーリーやピルスナーへの思いを聞きました。

チェコ出身ブルワーが本場のピルスナーを提供!EBINA BEER

EBINA BEER(エビナビール)は、JR線・小田急線・相鉄線が乗り入れる海老名駅が最寄り。駅ビルや複合施設・タワーマンションなどが立ち並ぶにぎやかな駅周辺でひときわ目立つ大型商業施設「ららぽーと海老名」の向かいに、醸造所併設のレストランバーがあります。

海老名駅
EBINA BEERの店舗は小田急線・相鉄線海老名駅から徒歩約7分、JRの駅からは約5分のロケーション
EBINA BEER
お店はガラス張りで、通りから醸造設備が見える

EBINA BEERの運営会社代表取締役で醸造主任のトーマス・レハク(Tomas Rehak)さんはチェコ共和国の首都プラハ出身。2017年にEBINA BEERを開業するまでは音楽家として活躍し、クラシック音楽ファンやオペラ好きなら誰もが知っている歴史あるオペラハウス・プラハ国立歌劇場や、プラハフィルハーモニック交響楽団のチューバ奏者を務めてきました。

EBINA BEER
EBINA BEER醸造主任、トーマス・レハクさん

世界の第一線で音楽活動をし、演奏旅行で各国を巡っていたトーマスさんは、縁あって日本人の平井史香さんと結婚した後も、家族でプラハを拠点に生活。忙しい日々のなか、プライベートな時間に没頭していたのはビールの自家醸造でした。休日となれば家でビールを仕込み、キッチンを占有して家族にたしなめられるほど。手造りのビールは史香さんや友人にも大好評で、トーマスさんはビール醸造にますますハマり、次第に醸造家になることを考えるようになります。

EBINA BEER
EBINA BEERのロゴマークには、ト―マスさんが音楽家として演奏してきた楽器チューバのイラストが

2016年ごろ、再開発が進む史香さんの出身地・海老名で新築の建物のテナントを募集しているとの情報があり、醸造所のオープンを打診してみると家主が快諾。トーマスさんは20年以上に渡り切磋琢磨してきた音楽の世界からビール醸造家に転身することを決め、家族で日本に移り住むことに。EBINA BEERは2017年2月にレストランバーをオープンし、同年7月、醸造をスタートさせました。

一方で所属オーケストラはトーマスさんを引き留め、トーマスさんがプラハを去ってからもチューバ奏者の席を空けて待っていたそう。

「私は音楽が大好きです。でも、ビールも好き。プロとしてビールを醸造したいと思いました。トップのオーケストラで演奏するのは本当に大変なことで、音楽もビールもプロで、となると時間が足りない。人生は1つしかなくて、半分にはできないですね。でもよく考えて、音楽を辞めて日本で醸造をはじめることにしたんです。日本に来て1年くらいたった時、もう帰らないという意味でオーケストラに、これまでありがとうございましたと伝えました」(トーマスさん)

チェコ発祥のビアスタイル、ピルスナー

トーマスさんはオーケストラの巡業でヨーロッパやアメリカ・アジアと世界各国を旅し、行く先々でさまざまなスタイルのビールを飲んできました。

「例えば南ドイツに行ったらいつもヘーフェヴァイツェンを飲んでいました。アメリカのIPAも好きですね。でも正直、一番好きなビールはチェコのボヘミアンピルスナー。理由ははっきりわからないけれど、はじめて飲んだビールもピルスナーですし、若いころから飲んでいてこのビールの味に慣れているんです。他のスタイルのビールはたくさん飲めませんが、ピルスナーは何杯も飲めます。ピルスナーが世界で一番飲まれているのは、おいしくて、飲みやすいからでしょう」(トーマスさん)

2021年のデータ(※注1)を見ると、チェコは「国別1人当たりビール消費量」が29年連続で世界1位。ビールが大好きな国民を抱えるチェコ国内には多くのブルワリーがあり、多様なビールが造られています。なかでもチェコ発祥で、チェコ国内だけでなく世界的にポピュラーなビアスタイルがピルスナーです。

チェコの地図
醸造所が示されたチェコの地図。トーマスさんが指をさしているのが首都プラハ。ピルスナー発祥の地ピルゼン(Plzeň プルゼニ)はプラハの南西にあり、ピルスナーウルケル社(Plzeňský Prazdroj)が今も醸造拠点を構える。プラハの南、チェスケー・ブジェヨヴィツェ(České Budějovice)市にはブドバー(Budvar ブドヴァル)社の醸造所がある。他にも、国内に大小たくさんの醸造所が
ピルスナーウルケル
中央はピルスナーの源流「ピルスナーウルケル」のボトル。右は歴史ある「ブドバー」のもの

ピルスナーは、チェコ西部ボヘミア地方の都市・ピルゼンで生まれたビール。1842年から醸造されている「ピルスナーウルケル」がそのはじまりです。ピルスナーはその後ドイツ等に伝わりバリエーションが派生しますが、トーマスさんがこだわっているのは本場チェコの “ボヘミアンピルスナー”。

「ドイツのピルスナーもおいしいですが、ちょっとドライです。ボヘミアンピルスナーは、モルトのボディがしっかりしています」(トーマスさん)

トラディショナルな製法で丁寧に造られたフラッグシップビール

EBINA BEERで醸造をスタートさせてからトーマスさんが最初に造ったビールも、もちろんボヘミアンピスルナー。今も看板商品であり続けている「PILSNER」です。

EBINA BEER
EBINA BEER「PILSNER」(Pilsner)

EBINA BEER「PILSNER」は、チェコのホップ、Saaz(ザーツ)とPremiant(プレミアント)のみを使用し、トーマスさんが「本当のチェコの味」と表現する1本。シンブルなレシピですが、モルトの豊かな風味が引き出され、深いコクが楽しめるビール。

EBINA BEER
EBINA BEERの醸造設備

醸造は、トラディショナルな製法・デコクションにこだわっています。

デコクションは、麦芽と温水を混ぜて糖化する過程で一部を煮沸し、段階的に温度を上げる方法。トーマスさんは煮沸を3回繰り返す“トリプルデコクション”を実践。その後、低い温度で発酵させてから長期熟成します。そもそもピルスナー(ラガービール)はエールに比べて熟成に時間をかけますが、トーマスさんは炭酸ガスを人工的に添加するのではなく発酵で生まれるガスを活かしたナチュラルカーボネーションで発泡させるため、さらに手をかけます。熟成期間はエールビールの実に2倍くらいなのだとか。

チェコ産モルト

チェコ産モルトが入っていた袋。「BERNARD」は老舗のブルワリーで、モルトも生産している。「RAJHRAD」は街の名前。フロアに麦を広げて麦芽化する、古くからの製法で造られた高品質なモルトがパッケージされていた。EBINA BEERではドイツ、イギリスの麦芽を使うことがほとんどだが、チェコ産を使用することもある

トラディショナルな製法は仕込みに手間がかかり、長期熟成はタンクの回転率という点で大きな負荷となりますが、トーマスさんは伝統の味を追求。

「トリプルデコクションはチェコの伝統的な手法です。インフュージョン(煮沸しない製法)だと、モルトの味がちょっと足りない、薄いと感じます。ボヘミアンスタイルはドライな味わいじゃだめなんです。デコクションで造ったボヘミアンピルスナーは麦の甘さがしっかり残って、モルトの味がよくわかります。

ナチュラルカーボネーションを採用するのは、例えば、シャンパーニュ(シャンパン)の自然な炭酸はやさしい口当たりで、ワインに炭酸を添加した安いスパークリングワインの炭酸とは違いますね。その違いはビールにも出ます。それに、人工的に炭酸ガスを加えるやり方に比べてCO2排出量が少なく、環境負荷が抑えられます」(トーマスさん)

店内では常時8tapを提供

EBINA BEER店内では常時8種のビールを提供しています。定番ビールは、ラガーが「PILSNER」、「EBINA LAGER」(エビナラガー)、「DARKLAGER」(ダークラガー)の3種と、酵母が活きたドイツ現地の味を再現した「HEFE WEIZEN」(ヘーフェヴァイツェン)、フルーティーな「PALE ALE」(ペールエール)、強い苦味がある「UPPUN IPA」(うっぷんIPA)。

タップリスト
EBINA BEERのタップリスト。定番ビールと限定醸造ビール、合わせて8種を提供
EBINA LAGER
EBINA BEER「EBINA LAGER」(Lager)

「EBINA LAGER」は、チェコのホップ(Saaz、Premiant)と、アメリカとニュージーランドのホップ(Amarillo[アマリロ]、Nelson Sauvin[ネルソンソーヴィン])、計4種のホップを使ったラガービール。Amarilloはドライホッピングして、強い苦味は出さずに香りのみを付加しています。のど越しスッキリ、さわやかな苦さ。ホップの繊細な香りが楽しめる1杯。

EBINA BEER「Kyselý」
EBINA BEER「Kyselý」(Sour Wheat Special)

2023年3月にドラフトで提供されていた限定醸造の「Kyselý」(キセリー)は、お客様からの要望で造ったというサワーエール。ビール名Kyselýは、“酸っぱい”という意味のチェコ語です。小麦を使用し、レモネードのようなさわやかな酸味が特徴。強烈な酸っぱさではなく、バランスの取れたフルーティーな味わい。評判は上々で、限定でボトルも販売し(2023年5月現在完売)、今後もバッチを重ねる可能性あり。

EBINA BEER
EBINA BEERのボトルビール

地元農家とコラボ!自家栽培の唐辛子ビールも

EBINA BEERは地元・海老名の生産者さんとのコラボにも取り組んでいます。海老名市産の柚子を使った「ゆずピスルナー」は毎年冬季にリリース。2023年1月には、イチゴ農家・武井いちご園が栽培した神奈川県オリジナル品種のイチゴ「かなこまち」を使った「EBINA PREMIUM STRAWBERRY BEER」を発売しました。

STRAWBERRY BEER
EBINA BEER「EBINA PREMIUM STRAWBERRY BEER」

トーマスさん自身も自分の畑を持ち、麦芽粕を肥料にして唐辛子を栽培。ペールエールをべースに自家製唐辛子を入れた「AnglyTom」(Chili Ale)が秋ごろにリリースされ、毎年好評。ちなみにEBINA BEERの麦芽粕はすべて、近隣の農家で肥料として利用されています。

チェコの居酒屋メニューも!

レストランバーでは、ビールと合わせてチェコの郷土料理を提供。トーマスさんのお母さんが来日した際、お店のキッチンで調理のアドバイスをしたこともあるということで、現地の味が楽しめます。

チェコ料理
チェコのポピュラーな家庭料理、「ブランボラーク」。ビールに合う!

「ブランボラーク」はチェコのパブや居酒屋のような店“ホスポダ”でもよく出てくるポピュラーなメニュー。すりおろしたジャガイモとニンニクに、卵・小麦粉などを混ぜて揚げています。ニンニクの風味が程よく、ビールのおつまみにぴったり。添えられているザワークラウトのような酢漬けは箸休めになります。

チェコ風ポテトサラダ
おつまみメニュー「チェコ風ポテトサラダ」

「チェコ風ポテトサラダ」は、ピクルスの入った酸味のあるポテサラ。ほかに「カマンベールチーズのオイル漬け」もチェコのおつまみメニューで、カマンベールチーズをハーブ入りのオイルで漬けた一品です。

世界の音楽家が集う!海老名でチェコの味わいを堪能

EBINA BEERのボトルビールは、EBINA BEER店内やオンラインショップで購入できるのはもちろん、EBINA BEER向いの「ららぽーと海老名」館内にある「北野エース」や、EBINA BEER近隣の「デイリーヤマザキ」でも取り扱っています。海老名のお土産にも喜ばれそう。

ららぽーと海老名
「ららぽーと海老名」はEBINA BEERの目の前

トーマスさんのオーケストラの元同僚が演奏のために来日する時には、EBINA BEER店内が音楽家でいっぱいにあることもあるそう。チェコの文化にも触れることができるEBINA BEER。時間と手間をかけてていねいに造られた本場のピルスナーを味わいに、海老名に足を運んでみては?

EBINA BEER
住所:〒243-0436 神奈川県海老名市扇町5-4 104
営業時間:
火~金17:00~22:30(ラストオーダー22:00)
土・祝11:30~22:30(ラストオーダー22:00)
日11:30~21:00(ラストオーダー20:30)
定休日:月曜

【※注1】
2021年 世界主要国のビール消費量(キリンホールディングスニュースリリース)

【関連サイト】
EBINA BEERオフィシャルサイト
EBINA BEERインスタグラム

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のび子

日本文化にまつわる分冊百科の編集担当を経て、料理専門誌編集部へ。食のサステナビリティ、クラフトビールが生み出す地域のコミュニティ・資源循環を取材。超少食だが酒はわりと強い。

よなよなの里