ライフスタイルの変化にともなって、ビールを飲むシーンは多様化してきました。健康を気づかう方も多くなり、国内の大手酒類メーカーからは、糖質オフ・プリン体オフ・微アルコールなどの“機能性”アルコール飲料が数多く販売されています。
クラフトビール界でも、飲み手の多様なニーズに応えるビールがリリースされているのを知っていますか? 今回は、アルコールが苦手な方・飲めない方も楽しめて、さまざまな場面でビールが飲める可能性を広げる、ノンアルコール・低アルコールのクラフトビールをピックアップしてご紹介します!
ホップの香り・麦の味わいを楽しむクラフトのノンアル・低アルコールビール!
そもそも、“ノンアルコール飲料”とはどういうものを指すのでしょうか。酒類業9団体が作成した「酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準」によれば、ノンアルコール飲料の定義は“アルコール度数0.00%で、味わいが酒類に類似しており、満20歳以上の者の飲用を想定・推奨しているものとする”とされています。一方酒税法では、酒類は“アルコール分1度以上の飲料”との記述が。アルコール度数0.01%から1%未満のビールは酒類ではなく、ビールテイスト飲料とも呼ばれます。
今回の記事では、クラフトビールブルワリーが造るアルコール度数0.00~1%未満のノンアルコールビール(発泡酒)・ビールテイスト飲料をご紹介。記事後半では、アルコール度数4%未満の低アルコールビールもセレクトしました。ノンアル・低アルコールでも、クラフトビールならではの個性的な味わいを楽しめるラインナップです!
ホップがガツンと香る、デンマークToØl「Implosion 0.0」
ToØl(トゥオール)は、自家醸造を経て、醸造所を持たないファントムブルワリーとして2010年にスタートした、北欧デンマーク・コペンハーゲンのブルワリー。オーナーはTore GyntherさんとTobias Jensenさんです。2005年、当時学生だった2人にビールの醸造方法を伝授したのはサイエンスの教師で、後にMikkeller(ミッケラー)を立ち上げることになるMikkel Borgさん。
Ølはビールを意味するワードで、そこにToreさんとTobiasさん、2人のオーナーの名前に共通する頭文字Toを加えたのがブルワリー名の由来です。
ToØlのノンアルコールビール「Implosion」(インプロージョン)は、デンマークのプロバイオティクスメーカーと独自のノンアル酵母を開発して誕生しました。これまでのバッチではアルコール度数が0.3%でしたが、このバーションはToØl史上初の0.0%。後味は非常に軽くスッキリしていますが、量産品のノンアルとは一線を画する味わい。酵母由来の果実を思わせるやさしいアロマがあり、ホップの柑橘系の香りがガツンとしっかり感じられます。
ノンアル専門ブルワリーBravus Brewingのスタウト「OATMEAL DARK」
Bravus Brewing(ブラバスブリューイング)は、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴで2015年に創業した「アメリカ初のノンアルコールクラフトビール専門のブルワリー」。独自の特殊な技術で、クラフトビールのおいしさをそのままキープしたアルコール度数0.5%以下のビール(ビールテイスト飲料)を醸造しています。
「OATMEAL DARK」はアルコール度数0.5%以下のスタウト。チョコレート、キャラメルの風味と、ロースト感があり、オートミール由来のスムースな飲み心地。Bravus Brewing はほかにアルコール度数0.5%以下のIPAやアンバーエールなども定番商品としてラインナップしています。
まるでビールのような“ビールテイスト飲料”常陸野ネストビール「ノン・エール」
常陸野ネストビールは、茨城県那珂市鴻巣で1823年から酒造りを続けてきた木内酒造が醸造するクラフトビール。日本酒造りのノウハウを活かしてビールを造り、アメリカ、イギリス、タイなど世界20カ国に輸出されているブランドです。
「ノン・エール」は、厳選した麦芽(Pale、Munich、Crystal、Chocolate)とホップのみを原料に、ビールの旨味を残して醸造したビールテイスト飲料。アルコールを0.3%含みます。ホップの香りも苦味も楽しめて、SNS上でも「おいしい」と高評価のコメントが多数。
香ばしくコクのある味わい「ベアレン ノンアルコール黒ビール」
岩手県盛岡市のベアレン醸造所は、2001年に創業したブルワリー。ドイツ南部の街から運んできたヴィンテージな設備を使いヨーロッパの伝統的な文化を尊重してビールを醸造しています。クラシカルなスタイルのビールを多くラインナップしていますが、“うまいノンアルでみんなをハッピーに”を掲げ、お酒を飲めない方も仲間はずれにしないノンアルコールビールをリリース。
「ベアレン ノンアルコール黒ビール」は、厳選したドイツ産ロースト麦芽とホップ、水のみで造られた、人工甘味料・着色料・保存料等一切未使用のノンアルコール飲料。泡立ちはクリーミー、ロースト感が豊かで香ばしくコクのある味わい。ソーセージやビーフシチューなどの肉料理、ナッツやスモークチーズ、ブラウニーなどのスイーツとも合います。北海道小樽市の株式会社アレフに委託し製造しています。
アルコール度数4%未満!低アルコールのクラフトビール
ノンアルコールではないものの、超低アルコールのクラフトビールもご紹介。ビアスタイルのなかで“セッション○○”という種類がありますが、クラフトビア・アソシエーション(日本地ビール協会)が公開している『ビアスタイル・ガイドライン2004』によれば、セッションビールは「いずれかの伝統的なビアスタイルに該当するが、アルコール度数だけがそのスタイルの基準より低いビールを指す」「アルコール度数は5.0%を超えてはならない」とあります。例えばセッションIPAは、ざっくり言ってアルコール度数低めのIPAです。
今回はアルコール度数4%未満の国産セッションビールを2銘柄セレクトしました。
度数の低さを感じない、Passific Brewing「Ultra Light」
Passific Brewing(パシフィックブリューイング)は2021年、茅ヶ崎市を拠点に開業したブルワリー。志賀高原ビール、株式会社ステディワークス(「クラフトビアマーケット」、「CRAFTROCK BREWPUB&LIVE」等運営)を経て独立したブルワー・大庭陸さんと、山本俊之さんが共同で立ち上げました。地方都市との繋がりを大事にし「海を越え、山を越え、ビールと旅するブルワリー」をコンセプトにしています。
「Ultra Light」は、度数2.8%と超低アルコール。2022年4月現在流通しているのは3バッチ目で、それまでのバーションから酵母を変えて醸造しています。
Passific Brewingが発信している『Note』の記事によれば、「Ultra Light」の名は、アメリカ南北を縦断するような長距離のハイキングをする中で生まれた“Ultralight Hiking”というカルチャーに由来しているそう。「より軽く、より遠くまで」をキーワードに、荷物を軽くした先にある自然との一体感を楽しむマインドです。「Ultra Light」は軽さもありながら、程よく苦味があり豊かな香りと飲み心地。度数の低さを感じない1本。
シングルホップのセッションIPA、KUNITACHI BREWERY「世界は点滅するモザイク模様のように」
東京・国立市にあるKUNITACHI BREWERY(くにたちブルワリー)は、「古いは新しい」を醸造哲学に掲げるブルワリー。1000リットルのビールを醸造できる大型設備と、200リットルの小型設備を備えクラシカルなスタイルと実験的なシリーズに挑戦しています。
KUNITACHI BREWERYの定番ビールの1つ「世界は点滅するモザイク模様のように」は、アメリカ産の人気ホップ「Mosaic」(モザイク)のみを使ったビールで、アルコール度数3.5%のシングルホップセッションIPA。「Mosaic」がもつ多様な香りをバッチを重ねるごとにさまざまに表現するシリーズです。4バッチ目(2022年4月現在SOLDOUT)は海外製のキャンディーや風船ガムのような甘い香り、マンゴーなどのトロピカルフルーツの香り、タンジェリンオレンジ、黒ブドウ、ブルーベリーのような香りも感じられる仕上がり。
誰もが、さまざまなシーンでクラフトビールを楽しめるように!
お酒を飲まない・飲めない理由は人それぞれ。アルコールにアレルギーがあったり、妊娠中や療養中だったり。お酒の席が苦手だという方もいるでしょう。また、昼間から飲みたい、お酒を飲みたいけど泥酔はしたくない、というケースもあるかも。
ビールのスタイルが多様化し選択肢が増えることで、多くの人たちがあらゆるシーンでクラフトビールを楽しめるようになったらいいですね。量産品とは一味違う、ノンアルコール・低アルコールのクラフトビールをぜひ一度試してみてください!
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ToØl
常陸野ネストビール
Bravus Brewing
ベアレン醸造所
Passific Brewing(公式インスタグラム)
KUNITACHI BREWERY
【参照サイト】
国税庁HP お酒に関するQ&A(よくある質問)
酒類の広告審査委員会HP 酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準 ノンアルコール飲料関係