兵庫県神戸市のグラノーラ専門店「一粒万倍グラノーラ」が製造販売する「モルトクラッカー」は、ビール醸造の副産物・麦芽粕を使ったクラッカー。香ばしい風味とほんのりスパイシーな味わい、ザクッとした食感が人気で、取扱店が拡大中です。
今回は、「一粒万倍グラノーラ」を運営するイートリート株式会社代表取締役の板垣香織さんとストアマネージャーの前田さんに、麦芽粕を食材として活用した理由や、おいしくアップサイクルするための工夫をお聞きしました。そもそも「モルトクラッカー」は板垣さんのアメリカでの経験からはじまった商品。板垣さんは今年欧州で開かれた食の分野のカンファレンスでこの取り組みをプレゼンし、現地でも大きな反響があったそう。板垣さんが思う、アップサイクルの未来とは?
麦の味が濃い!「モルトクラッカー」
ビールを造るために麦芽から麦汁をとったあと、その搾りかすとして生まれる麦芽粕。産業廃棄物となるケースが多いのが現状ですが、捨てずに有効活用しようという取り組みも少しずつ広がっています。

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神戸市・元町エリアにある手造りグラノーラ専門店「一粒万倍(いちりゅうまんばい)グラノーラ」が製造販売している「モルトクラッカー」は、栄養価が高く、調理方法を工夫すればおいしく食べることができる麦芽粕を食品としてアップサイクルした商品です。ホップこそ使っていないものの、クラッカーは麦の味が濃厚でまるで“食べるビール”? イメージとしては小麦の全粒粉のクラッカーに近い味わいですが、麦芽の香ばしさと独特な風味があり、色は深いこげ茶色、食感はハードで食べ応えがあります。
「モルト&マサラナッツミックス」、「モルトクラッカー」2種類の展開
2023年8月現在、商品は「モルト&マサラナッツミックス」と「モルトクラッカー」の2種類の展開。

「モルトクラッカー」は、麦芽粕のクラッカーのみをパッケージした商品。「モルト&マサラナッツミックス」は、14種類の香辛料をブレンドした”チャットマサラ”で味付けしたナッツ(アーモンド・カシューナッツ・クルミ)とレーズンの甘じょっぱい組み合わせに、モルトクラッカーをミックスしたもの。

「モルト&マサラナッツミックス」をベースに造られているため、2商品ともクラッカーにチャットマサラの味わいが移り、スパイシー。お酒のおつまみや小腹が空いた時のおやつにぴったり。クリームチーズやフムスなどをディップするのもおいしい食べ方です。生ハムなどと一緒にオードブルに添えれば、小麦粉のクラッカーよりも見た目的にも味的にもインパクトがあるかも。
アメリカで出会った、麦芽粕アップサイクル
板垣さんが麦芽粕アップサイクルの事例に出会ったのは、クラフトビール文化が成熟しているアメリカでのこと。2016年、若者2人がアメリカで立ち上げたスタートアップ企業が麦芽粕を使ったグラノーラバーを販売しているという記事を読み、麦芽粕を食材として活用した商品があることをはじめて知りました。その後、ニューヨークで毎年開かれている食の見本市「Fancy Food Show」でアップサイクルへの関心の高まりを実感します。

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「『Fancy Food Show』はアメリカの食のトレンドがつかめるイベントです。その会場でも麦芽粕を使った商品を見かけるようになり、取り組みの広がりを肌で感じました」(板垣さん)
板垣さんはこのことをきっかけに麦芽粕の特性や栄養価などについて自分で調べ、文献を読みはじめました。
神戸IN THA DOOR BREWINGとコラボ、どう調理する?乾燥の壁
ニューヨークから帰国した板垣さんは、神戸のファーマーズマーケットでいつも顔を合わせる地元のブルワリー・IN THA DOOR BREWINGのスタッフと話し、麦芽粕を譲ってもらうことに。麦芽粕が入手できると、早速、麦芽粕を使った商品の開発に取り掛かりました。

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麦芽粕はブルワリーから運び込まれた後、しっかり脱水してからオーブンに入れて焙煎し、乾燥させます。乾燥した麦芽粕は粉砕し“モルトフラワー”にします。
「乾燥させないまま、麦芽粕をクッキーやパンの生地に入れてみたこともあるんですが、あまりうまくいきませんでした。試行錯誤して、ドライにした後に粉にすればいろいろ使えるとわかったんです」(板垣さん)
当初はブルワリーからもらった麦芽粕をそのままオーブンに入れて乾燥させていましたが、水分量が多く、完全に乾くまでにかなり時間がかかりました。エネルギーを大量消費してしまっては本末転倒で、これではまずいと、しっかり絞って脱水してからオーブンに入れる手順に。乾燥後は、用途によって粗さを調節しながらミルやミキサーで粉末にします。

モルトクラッカーはモルトフラワーと小麦粉、オリーブオイルと少しの塩を混ぜた生地を薄くのばし、オーブンで焼いてから手で割って仕上げます。型で抜いたり成型したりしていないので、大きさは不揃いでまばら。そのため、形の不具合によるロスもありません。
売れない…… → 販路拡大へ
「一粒万倍グラノーラ」ではクラッカーのほかにも、麦芽粕をグラノーラに混ぜたり、グラノーラバーにしたり、さまざまなアップサイクル商品を開発してきました。
直営店やファーマーズマーケットで販売したものの、発売直後は思うように売れなかったのだとか……。

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転機になったのは、東京都を中心に食品スーパーや酒店を展開する「信濃屋」のバイヤーとの出会い。2020年、「モルト&マサラナッツミックス」を信濃屋と共同開発しオリジナル商品として販売することが決まり、販路が拡大しました。翌2021年にはお客様の要望を受け、クラッカーのみをパッケージした商品「モルトクラッカー」も発売になります。
「信濃屋」ほか雑貨店でも
「モルト&マサラナッツミックス」、「モルトクラッカー」は、「信濃屋」だけでなく雑貨店等でも取扱い中。2023年8月現在の販売店は次の通り。

【「モルト&マサラナッツミックス」「モルトクラッカー」取扱いショップ】
「モルト&マサラナッツミックス」のみ、または「モルトクラッカー」のみ扱っているショップもあります。
・「一粒万倍グラノーラ」ブランド商品
「一粒万倍グラノーラ」オンラインショップ
※神戸市・元町の店舗でも販売。「TODAY’S SPECIAL Futakotamagawa」(東京都世田谷区・二子玉川)
アクセス等は店舗情報ページを参照)
※2023年8月現在、「モルト&マサラナッツミックス」のみ販売。季節限定の取扱いのため、在庫がなくなり次第販売終了予定。・信濃屋オリジナル商品
「信濃屋」オンラインショップ
※一部実店舗で販売。「FOOD&COMPANY」オンラインストア
※2023年8月現在、「モルトクラッカー」のみ取扱い。一部実店舗でも販売。すべて2023年8月時点の情報です。
モルトクラッカーを世界にプレゼン、ファイナリストに
板垣さんはもともと建築家として活躍し、現在は食と建築の2つのカテゴリーで仕事をしています。今、海外で広がりつつある “フードデザイン”は、食の体験を総合的に研究する新しい学問で、板垣さんの2つの専門分野が活かせる研究領域。板垣さんは2022年、“フードデザイン”を学ぶためイタリアのミラノ工科大学に留学。在学中に「モルトクラッカー」に興味をもった教員から学内のラジオ番組に呼ばれ、プロジェクトについて話しました。

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さらに、イートリート株式会社として、2022年にポルトガル・リスボンで開催された「efood2022」(International food design and food study conference、第3回フードデザイン国際カンファレンス)にも参加。麦芽粕アップサイクルの取り組みをプレゼンテーションし、世界から集まった100以上のプロジェクトの中からファイナリストに選出されました。

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「ラジオ番組に呼ばれたり、カンファレンスでファイナリストになったりして、アップサイクルへの注目度の高さを改めて感じました。日本の文化では昔から酒粕やおからがあって、ただおいしいから食べてそれがアップサイクルになっている、という話をしたら、すごく良い反応があったんです。そのうち、麦芽粕もそんな食材になっていったらいいですよね」(板垣さん)
“おいしさ”で広げたい、麦芽粕のアップサイクル
「アップサイクルには手間がかかります。大手の会社が商品化しないことにはそれなりの理由があると思うんです。
でも、私たちのような小さなお店がアップサイクルに取り組んでも、問題の『解決』にはなりません。ものすごい量の廃棄があるなかで、私たちが活用しているのは全体の0.0何パーセントくらい。アメリカでは、地域のブルワリーから麦芽粕を集めて再利用するシステムができているところもあります。本来は日本でも、もっと大きな仕組みをつくるのが一番いいと思うんですが、なかなか難しいですね。こういう取り組みをしています、と表明して、麦芽粕って実は食べられるんだ、おいしいんだ、ということを発信することくらいしかできないんです」(板垣さん)

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板垣さんが麦芽粕について知るきっかけになったアメリカのスタートアップ企業ReGrainedは、事業内容が評価され、大手の資本が入って成長しています。日本でも今後、もっと大きな仕組みでアップサイクルが広がっていくのか。また、それを支える顧客が増えていくのか。「環境問題に関心のある人だけでなく、関心のない人たちにまで浸透しないと広がらないですよね」(板垣さん)。
多くの人に広げるために大事なのは“おいしい”ということ。板垣さんがカンファレンスで強調したのは“ Upcycle means delicious!! ”。「モルト&マサラナッツミックス」「モルトクラッカー」は、麦芽粕アップサイクルという取り組みを置いておいてもおすすめできる、おいしい商品。クラフトビールやナチュールワインのおつまみに、一度食べてみて!
「一粒万倍グラノーラ」神戸元町本店
〒650-0011神戸市中央区下山手通3-3-1 ウェルストンビル1F
営業時間:12:00~19:00
定休日:水曜 ※火曜日は不定休
※営業時間等は2023年8月時点の情報です
【関連サイト】
「一粒万倍グラノーラ」オフィシャルサイト
【「My CRAFT BEER」麦芽粕アップサイクル関連ページ】
ビールに合うザクザク食感のグラノーラバー!麦芽粕アップサイクルに取り組む【和歌山】VOYAGER BREWING
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