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この名刺、何でできているでしょうか?ビールの原料をアップサイクル!クラフトビールペーパー

クラフトビールペーパー

一見するとよくあるクラフト紙。触ってみるとざらっとした風合いで、褐色の紙のところどころに繊維が……。冒頭の画像に写っている名刺には、ビール醸造の副産物・麦芽粕を混ぜ込んだ紙が使われています。

麦芽粕はほとんどが産業廃棄物として処理されますが、捨てずに有効活用する取り組みも出てきています。今回は、麦芽粕をアップサイクルした再生紙「クラフトビールペーパー」を企画・販売する株式会社kitafukuを取材。着想から製品化までの道のりなど、「クラフトビールペーパー」のストーリーをお聞きしました!

ビール醸造の過程で出る麦芽粕とは?

ビールの主な原料は、麦芽とホップと水。醸造過程のはじめに麦芽を温水に入れて麦汁を造りますが、その際に出る麦芽の絞りかすが麦芽粕(モルト粕、ビール粕)です。

麦芽粕
ビール醸造で出る麦芽粕
写真:株式会社kitafukuプレスリリースより

麦芽粕はビール醸造の副産物として必ず発生し、特に都市部のブルワリーでは産業廃棄物として捨てられるケースがほとんど。しかし絞りかすとはいえ麦芽粕は工夫すれば十分に活用できるポテンシャルのある素材です。

ビール×紙?麦芽粕を活用した「クラフトビールペーパー」

「クラフトビールペーパー」を企画・販売している株式会社kitafukuは、横浜市を拠点にするIT企業。代表取締役の松坂匠記さんと取締役の松坂良美さんが二人三脚でIoTデバイス製作やプロモーション事業を手掛けています。

2020年の夏ごろ、会社が2期目に入ったタイミングで何か新しいプロジェクトを始めようと、2人は自社オリジナルのブランドやプロダクトについて話し合いを重ねました。

kitafuku
松坂良美さん(左)は北海道、匠記さん(右)は福岡県出身。“kitafuku”は、それぞれの出身地名を組み合わせてできた会社名。2人とも、ゆかりのある地域を大事にしたいという思いが強い

「エンジニアなのでIT分野の自社サービスを作るという案もあったんですが、手に取れて形が残るプロダクト、“モノ”を作ることに興味がありました」(良美さん)

「そのころ、自分たちの購買行動というか、モノを選ぶ基準がだんだん変わってきていました。ストーリーがあるものやこだわりのあるものを届けられたらいいなと」(匠記さん)

モノを作るならば、環境負荷に配慮したプロダクトにしたいという見解で一致した2人。時期的にコロナ禍と重なり、学校給食の食材が余ったり、飲食店が通常通り営業できない状況になる中で食品ロスの問題に注目しました。

麦芽粕
ブルワリーから麦芽粕を回収し、紙の原料に
写真提供:株式会社kitafuku

そこで思い出したのが、2人が同じ会社に勤めていたころの同僚・矢田和也さんのこと。彼は2020年、奈良市の製紙会社・株式会社ぺーパル内で「loss change project」(ロスチェンジプロジェクト)を立ち上げ、廃棄される食材を原料にした「フードロスペーパー」を開発。廃棄米と古紙を混ぜた再生紙「kome-kami」の製造に取り組んでいました。

クラフトビールペーパー工場
クラフトビールペーパーを製造した工場
写真:株式会社kitafukuプレスリリースより

「もともと紙製品が好き」という良美さん。矢田さんと相談して、廃棄食材をアップサイクルした紙を作ることに。

紙に混ぜるのは、kitafukuのある横浜市にまつわる素材にしたいと検討し浮上したのが、クラフトビールの麦芽粕でした。横浜はクラフトビールブルワリーが多いエリア。知り合いのデザイナーの縁で、2人は横浜市内のブルワリーの1つ・横浜ビールを訪問。そこで麦芽粕の廃棄が課題になっていると知ったことがきっかけでした。

製紙会社との綿密なやりとりでたどり着いた配合率“6%”

麦芽粕で紙を作ると決まってから「クラフトビールペーパー」を実際に形にしてリリースするまでにはかなりの試行錯誤があったとか。

クラフトビールペーパー
手前の1枚はテスト製造として手すきで作った「クラフトビールペーパー」。麦芽粕を10%混ぜ込んだ。麦芽の繊維がはっきり出て風合いがあるが目立ちすぎているため、NGの判断に

横浜ビールに協力してもらい、はじめて麦芽粕を預かってテスト製造に乗りだしたのは2020年11月から12月ごろ。kitafukuも製紙会社のスタッフも麦芽粕の取り扱いに慣れておらず、さらに年末年始の混乱もあって、工場内で原料の麦芽粕にカビが発生してしまうというトラブルもありました。

クラフトビールペーパー
「クラフトビールペーパー」よりも厚みのあるカード紙「クラフトビールカード」。2022年7月現在、2色の取り扱いがある

なるべく麦芽粕を多く活用し、かつ印刷のしやすさなど紙としての利便性もキープするために、麦芽粕の含有量を変えながら何度も手すきでテスト紙を製造。製紙の機械が麦芽粕を異物として認識するとストップしてしまうので、機械が円滑に稼働するかどうかも大きな問題でした。テストを重ねて最終的に行き着いたのは、麦芽粕含有率6%という値。

「3%だとモルト感が全くない。じゃあ5%は? もう少し上げてみよう……と試して。6%だと安定していけそうだ、となりました」(匠記さん)

名刺、ポストカード、ギフトボックス、多様な展開

2021年6月には量産体制が整い、まずはポストカードやコースター、名刺・ショップカード、原紙をリリースしました。最初のクライアントとなった横浜のブルワリー・NUMBER NINE BREWERYは、醸造所を併設したレストラン「QUAYS pacific grill」で出すビールのメニュー表や醸造長の名刺にも「クラフトビールペーパー」を採用。

クラフトビールペーパー
「クラフトビールペーパー」を使ったアイテム。左はレストラン「QUAYS pacific grill」のメニュー表。kitafukuが販売したのは一般用のインクジェットプリンタやレーザープリンタでも印刷が可能なB5の原紙で、メニューが変わるごとにNUMBER NINE BREWERYが自前のプリンタで印刷している
クラフトビールペーパー
「クラフトビールペーパー」の商品のなかで一番人気なのは名刺。左は「クラフトビールペーパー」、右は厚手の「クラフトビールカード」を使用。名刺はkitafukuに印刷内容をデータ入稿してオーダー、印刷済みの状態で納品される。価格は1枚あたり18.4円から(2022年7月現在)

2022年2月にはより厚みと強度のある段ボール紙「クラフトビールカード」を開発。NUMBER NINE BREWERYは製造にあたって麦芽粕を提供し、「クラフトビールカード」を加工した箱をECの配送用や贈答用のギフトボックスとして導入しました。

クラフトビールペーパー
「クラフトビールカード」のギフトボックス。持ち手があって、テイクアウトにも◎
ギフトボックス
持ち手を折り込めば宅配便で送るのに適した形状にもなる2way仕様(左)。缶ビール6本が入る仕切り付き(右)

ブルワリーから製紙会社へ、麦芽粕を運ぶ苦労……

クラフトビールブルワリーで出た麦芽粕は、どうやって製紙会社に運ばれ、紙になるのでしょうか。

2022年5月のある日、これまでで一番大量の麦芽粕を運んだ1日を振り返っていただきました。

各ブルワリーのスケジュールを調整

麦芽粕
水分をたっぷり含んだ麦芽粕はかなりの重量。できるだけ小分けにして運ぶ
写真提供:株式会社kitafuku

事前に複数のブルワリーの醸造日程をすり合わせてスケジューリング。回収日よりも前に麦汁を絞る作業を終えていたブルワリーには、麦芽粕を冷蔵庫で保管してもらうようにお願いしました。そのほかのブルワリーは回収日当日に出た麦芽粕を冷ましてから袋詰めしてもらうように依頼。足が早くすぐに状態が変わってしまう麦芽粕は、鮮度や温度管理に気を使います。

ブルワリーを巡回し、麦芽粕を回収

麦芽粕
スケジュールを合わせ、1日で複数のブルワリーから麦芽粕を回収。運搬のエネルギーを最小限におさえた
写真提供:株式会社kitafuku

kitafukuの2人が自らワゴン車を運転し、ブルワリーを巡回。この日は、横浜エリアのNUMBER NINE BREWERY、横浜ビール、REVO BREWING、東京・墨田区のTOKYO隅田川ブルーイング、そして静岡の沼津クラフトなどから、合計600キロを超す量の麦芽粕を回収しました。

温度管理をしながら製紙工場へ

クラフトビールペーパー
麦芽粕を製紙工場へ搬入、「クラフトビールペーパー」を製造
写真提供:株式会社kitafuku
移動中も温度管理に気を配りながら、株式会社ぺーパルとつながりのある静岡県内の製紙工場に持ち込みました。

これまでは宅配便等を使って麦芽粕を工場に送っていましたが、この日は麦芽粕の量の多さや運搬に費やすエネルギーの削減等を考えて、自分たちで回収し運搬することに。

麦芽粕の品質管理・保管、移動にかかるコストやエネルギー等は、今後の課題となっています。それらを解消するために麦芽粕の脱水や乾燥を検討していますが、その作業による環境負荷とのバランスが悩ましいところ。

「どうすることがより環境にいいか、吟味しなければいけませんね」(良美さん)

この夏のビールイベントやマルシェで要チェック

複数のブルワリーから集めた大量の麦芽粕は、この夏、横浜駅の商業施設「NEWoMan横浜」(ニュウマンヨコハマ)で開催されているイベント「横浜クラフトビアガーデン」(店舗名「800°DEGREES CRAFT BREW GARDEN」)で活用されています。

クラフトビールペーパー
「横浜クラフトビアガーデン」のプランに含まれる“神奈川FOOD BOX”。神奈川県産の食材を使ったデリが「クラフトビールペーパー」のランチボックスに盛り付けられている
写真:「横浜クラフトビアガーデン」プレスリリースより

ビアガーデンのプランには「クラフトビールペーパー」のランチボックスに神奈川県産の食材を使ったメニューが詰められた“神奈川FOOD BOX”がセットになっていて、県内のブルワリーが醸造したクラフトビールと地元のフードが楽しめます。

【「横浜クラフトビアガーデン」概要】
開催期間:2022年4月26日(火)~10月2日(日)
営業時間:16:00~22:00(最終受付20:00、ラストオーダー21:30)
開催場所:NEWoMan横浜6階
定休日:無休 ※館の休館日に準ずる
※天候により営業を中止する場合あり。
※イベントの日程・内容は変更になる場合あり。
ホームページ:https://800degreespizza.jp/
※営業時間などは2022年7月上旬現在の情報

「クラフトビールペーパー」展示の様子
「横浜サーキュラーデザイン展」のブース
写真提供:株式会社kitafuku

横浜市役所で開催されている地域循環型マルシェ「横浜 夕方マルシェ」にも出店中。サーキュラーエコノミーの取り組みを発信する「横浜サーキュラーデザイン展」のブースで、「クラフトビールペーパー」のポストカードなどが販売されています。

【「横浜 夕方マルシェ」概要】
開催場所:横浜市役所 2階 多目的スペース
営業時間:毎週木曜日 16:30~19:30
※営業時間などは2022年7月上旬現在の情報

この先の展望、“サステナブル”の数値化を検討

テストを含め、これまでに「クラフトビールぺーパー」製造のために回収した麦芽粕はもうすぐ累計で1トンとなります。今後は、アップサイクルにかかる負荷と、麦芽粕を廃棄して焼却するのに必要なエネルギーやCO2量を比べて、どれだけサステナビリティに貢献できているのかを数値化することも検討しています。

「将来的には、紙にとどまらず何かに取り組みたいという考えが頭の片隅にあります」と匠記さん。ビール醸造で出る麦芽粕の量の莫大さがわかるようになってくると、紙では賄えない分を燃料に転用できないか?など、別の用途で循環させることも考えるようになったそう。

クラフトビールペーパー

工夫次第でさまざまな用途にアップサイクルできる麦芽粕。「クラフトビールペーパー」の名刺ははじめて会う方との話題の1つにもなり、ビール業界のみならず一般のビール好きの方にとっても魅力的。この夏のイベントなどで実物を手に取って、麦芽粕を使った「クラフトビールペーパー」を体験してみてください!

※クラフトビールペーパー製品は、ECサイトのほか、横浜市役所にて毎週木曜日開催の「横浜夕方マルシェ」でもお買い求めいただけます。

【参照サイト】
モルト粕活用クラフト紙「クラフトビールペーパー」、新たにギフトボックスとダンボールを2月28日より販売開始

【関連サイト】
株式会社kitafuku クラフトビールペーパー専用ホームページ

株式会社kitafuku note

【関連ページ】
【Circular Yokohama】地域循環型マルシェ「横浜 夕方マルシェ」への参画を開始します

【NEWoMan横浜】地元神奈川のビールとフードで乾杯!「横浜クラフトビアガーデン」、ランやヨガを楽しむコラボイベント開催

醸造で出るモルト粕を使った再生紙「クラフトビールペーパー」一般販売開始!

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